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33 海上の追跡

結局ギルドではあまりに無謀と反対され、船を手配して貰えなかった。仕方なく、漁師から古い漁船を買い取り、それで沖に出て、金剛グリーンが戦艦を呼び出した。

 艦内司令所に四人は乗って、戦艦は順調に海上を進んでいく。向かう先は、街で捕まった海賊から聞き出された停泊地点である。


「レーダーにまだ、反応は無いな。呼びかけにも応答は無い」


 センカンジャースーツは着てない金剛グリーンが、舵を握り、各種計器を見て言った。


「それにしても……このような船があるとは未だに信じがたいですね」


 ヴィハンが、司令所の中を見渡して呟く。船の各所に設置されたカメラやレーダーの映像が大量のディスプレイに映し出されている。彼とマリアからして見れば、何もかもが見たことも聞いたことも無いのだから、戸惑いはあるのだろう。


「地球では、戦艦は本来もはや時代遅れの産物さ。恐らく、直接的攻撃力を求めた結果として戦艦になったようだが。言って置くが、地球の船が全部こんなことになっているわけじゃないからな?」

「承知しています」


 今度はマリアが応える。とは言っても、地球のこと自体をどう説明しても、彼等にはどう伝わっているかである。全くの別世界であり、彼等にとっては正に異世界のことである。


「ヴィハンさん。ひとつ、聞きたいのですが?」

「なんでしょうか?」


 マリアがヴィハンに問いかける。


「魔王軍との戦闘経験を踏まえて、怪人は魔王軍に関係していると思いますか?」


 確かに、それは金剛グリーンもかもめも疑問に思っていた。怪人の正体も目的も不明なままである。何故、人を襲うのか、それさえも定かでは無い。


「そうですね、怪人はあれしか知りませんが……やり口が違いますね」

「やり口?」

「これは、教会の最高機密ですが、そもそも魔族はモンスターではありません。モンスターを利用はしますけどね」

「それはどういうっ」


 マリアが途中で口を閉ざす。彼女なりになにか思い当たることがあったのだろうか。


「古き精霊と契約をした古き民が、厳密に言えば魔族です。さらにいえば、人に属する種族でもあります。彼等は、力が絶対であり、力で挑み、力が上の者に従う考えを持っています。当然、例外はありますけどね。過去に教会が、彼等を魔族と称して迫害した歴史があり、その結果として魔族がまとまり人類の脅威になったのが先の大戦になります」

「教会がきな臭いことになっているようだな」


 どこかで聞いたような話にも思いつつ、金剛グリーンが呟く。


「肯定も否定もしませんが、教会も人をまとめ上げるのに苦労したのでしょうね。共通の敵であり被差別民を作り上げた。ただ、いずれにしろ、魔族は人類の脅威であったことに間違いはありません。と、横道にそれましたが、怪人は何か違うように思えます。彼等の使う魔術は見たこともないものですし、巨大化など聞いたこともありません。キメラとも違うように思えます。根本的に種族いえ存在が異なるように思えます」

「そうか」


 ならば、魔族とは異なる勢力が存在し、何かしらの目的を持って動いていると考えるが、その目的が分からない。

 鍛冶屋から聞いた予言のこともあるが、どれもこれも西の荒野の魔女に会えば解決するのだろうか。


「では、魔王軍の脅威は考える必要が無いのか?」


 かもめが問いかける。


「そうとも言い切れません。僕は魔王討伐に成功しましたが、魔王直属の配下であった三将軍のうち、一名は死亡、二名が行方不明です。再起を図って地下に潜った可能性があります」

「魔王軍を再結成するのか?」

「ええ。ただ、末端の兵士も相当数消耗していますので、十数年単位は必要になるでしょうが。魔王と三将軍に関しては小賢しく頭を使ってましたので、搦め手に注意はしたほうが良いでしょうね」


 そういうものかと思えたとき、レーダーが海上に影を捕らえた。


「待て、捕らえたぞ」


 金剛グリーンが、いくつかのカメラで、影を拡大して、メインのディスプレイに映し出す。

 海上には巨大な黄色い戦艦、間違いなく伊勢だ。その周辺には、ドクロを掲げた木製の船が十数隻、伊勢に寄り添うように浮かんでいる。


「間違いないか……。こちら金剛グリーン、こちら金剛グリーン、伊勢応答しろ。繰り返す、伊勢応答しろ」


 レシーバーで問いかけるが、反応は無い。


「グリーン。艦橋を拡大して」

「ああ」


 ディスプレイが伊勢の艦橋にズームインしていくと、流石に解像度は低くなるが、艦橋に何人かいることがわかる。

 そして、操舵している人物の姿がハッキリとする。大柄で筋肉質で、ソフトモヒカンの男だ。伊勢イエロー、本名浜崎飛沫(はまさきしぶき)である。

 その姿に間違いは無かった。


「彼ですか?」

「ああ、間違いない」


 マリアの問いに金剛グリーンが頷く。


「この絵では、操られているかどうかまでは分かりませんね……」

「会えばハッキリする。隣の奴もな」


 金剛グリーンの言うとおり、伊勢イエローの横にはラシャの町で交戦したシオンが、どこか退屈そうに壁を背にして立っている。その姿にも間違いは無い。


「備えてくれ、全速前進で一気に近づく!」


 戦艦金剛は、この世界で最も早く海上を進んでいくのだった。

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