マヨイガ こぼれ話
森の中に突如として現れる要塞。その入り口には門番のちまっこい使い鬼が軍服をぴしりと着こなし直立不動で門を護っていた。
右端の使い鬼はまだ日が浅いのかやけに服が大きく、軍帽で顔が半分隠れてしまっているのがなんとも可愛らしく映る。
そんなマヨイガの主は予想を裏切らず軍人の格好をした体格のよい青年の姿をしている。性格も生真面目な軍人そのもので彼に招かれた人間はもてなしではなく軍事訓練を受けていると仲間内ではもっぱらの通説であった。
そんな軍人マヨイガ………通称「北のマヨイガ」はこれまた似合いの作戦司令室のような自室に珍しい客人を招いていた。
「相変わらずかたくるしい趣味だね~~」
へらへらと笑いながら排他的な空気をかもし出しながら人の部屋のソファーに優雅に寝転がる同胞に北のマヨイガは眉を顰めた。
「相変わらず軟弱だな。西の」
「あははは。君に比べれば誰だって軟弱だよ」
ダルダルと手を振りながら答えたのは通称「西のマヨイガ」と呼ばれるマヨイガの青年だった。
「怠け者で滅多に出歩かない貴様がわざわざ足を運ぶとは一体どういう風の吹き回しだ?」
北のマヨイガの言葉に西のマヨイガの瞳がキラキラとか輝きだす。ただしソファーには寝転がったまま顔だけあげて待ってましたと語りだす。
このマヨイガ、面倒くさがりだが人の噂や面白いことは大好きという物凄く矛盾かつややこしい人種である。
「そうそう。聞いてよ。どうやら東のが面白いことになっているみたいだよ」
「東のが?」
「東のマヨイガ」こと「人間恐怖症のマヨイガ」の顔を思い浮かべる。己の存在意義を己で否定しているような同胞に何度、克服のための訓練を申し入れただろうか?何故だか全てにおいて青い顔をして断られてしまったが。
生きた年月としてはあちらの方が上なのだが意識的にはどうにも手のかかる妹のようにみてしまう。
そんな存在が件の同胞である。
彼女に一体何があったのだろうか?首をひねる北のマヨイガに西のマヨイガは得意そうに(でもぐたーとしている)取っておきの情報を披露した。
「どうやら東のってば人間を住まわせているらしいよ」
「………ガゼだろ」
速攻で否定する北のマヨイガ。だが、それを見越した西のマヨイガは「ちちちっ」と妙に上手い舌打ちで指を振りながら懐から一枚の紙を取り出す。
「写真機か?人間用では妖怪には仕えないだろ」
「ああ、これは妖怪用。人間かぶれの天狗が改良に改良を重ねて作り上げた力作だって。マージャンに勝って巻き上げたら「かえして~~~」って大泣いてたからよほど自信作」
「…………返してやれ」
「向こうが負けた金、全額払うんだったら考えてもいいよ~~」
もう知らんとばかりに頭をふる北のマヨイガ。この件に関しては今はどうにもできぬと放置を決め、差し出された写真を手に取る。
覗き込んだ写真には。
イイ笑みで記憶より大分小さい東のマヨイガらしき子供の頬を引っ張り無理やり笑顔にしている同胞たる南のマヨイガ。その隣で胡散臭そうな笑みを浮かべつつ暴れている東のマヨイガの襟を掴んでいる金髪の異国の男。そしてそれらを止めようとしたのだろうが異人によって顔をつかまれ物理的に遠ざけられている少年。
その様子は一言で表せば。
「混沌だな」
「だね!」
正反対のマヨイガの意見が一致した瞬間であった。




