完結編
お待たせしました!!ようやく完結です!!
『主様、ということは貴女が迷い家ですか』
混沌の中で最初に口火を切ったのは異邦の侵入者。暗雲を背負い四つんばいになっていた迷い家が顔を上げ、きつい目で鏡を睨みつけた。
「………だったら何?招かれざるお客にしかも家をぶっ壊すような真似をしでかした人間にたいしてわたし、腸が煮えくり返りそうなんだけど」
オマケに使役鬼まで人質にとられて異人に対する印象は人間であることを除いても底辺を突き破っている。
恐怖よりも怒りを感じるぐらいには迷い家は怒っていたし何一つひくつもりはなかった。
何がなんでもお帰り願うと心に決める迷い家。
鏡の中の異人は睨みつけてくる迷い家をしげしげと眺めそして一言。
『…………子供、なんですね』
ぴきっと迷い家の額に青筋が浮かぶ。口元がひくひくと危険な感じに引きつるのを間近に見て迷い家の機嫌が急下降していることに気づいておろおろとうろたえる日向。
『………お子様かぁ……どうせ人型になるのならもう少し育った姿でもいいのに………』
欲望タダ漏れな発言に迷い家の目が完全に据わり隣にいた日向は悲鳴を飲み込んだ。
空気読んで~~~~~~~!!
魂の叫びを上げる日向。
生まれて数百年の迷い家に対してたかだか20数年生きただけの人間がお子様扱い。
迷い家の背中に暗雲ではない黒い靄が見えてもう日向は涙目であった。
『まぁ、お子様でも便利な家が手に入るからいいか』
そう言って笑う異人に完全に切れた迷い家は荒みきった目で睨みつける。もう、人間怖いなんてすっ飛ばして怒りに支配されている。
この男、絶対にぼこぼこにしてやる!!
「あの…………マヨイさん?落ち着いて」
「便利な家?あんたわたしを使役下に置こうというの?はっ!たかだか20数年生きただけの人間がよくぞほざいた!」
「ああぁぁぁ………喧嘩売っちゃった………」
「ふふっ。実力とは生きた年数とは関係はありませんよ?要はとちらが強いか弱いか、それだけです」
「こっちも買う気満々ですか……」
ずーんと暗雲を背負う日向。この面子の中では確実に心労を背負い込む性格であった。
「大体、あんたなんでただの人間のこの子を狙うのよ!!」
『人間?その子供は妖狼と人間との混血ですよ?』
「………へっ?僕?」
あっさりと暴露された己の知らない出生に日向が固まる。迷い家は眉を顰める。
「混血?だけどこの子からは一切の妖力を感じないわよ」
でたらめ言ってんじゃないわよねと疑惑の眼差しになる迷い家に異人は飄々とした空気を崩すことがない。
『その子供は妖怪としての自分と人間としての自分が完全に分離させられているんですよ。誰がやったのか見事な術だ。覚醒していない状態は人間そのものなのだから気づかない………まぁ』
ここで意味深に言葉を切る。流し目で迷い家をみる表情は確実に馬鹿にしていた。
『わたしはすぐに気づきましたけどね』
自慢げでもなく当たり前のように言い切るのが更に迷い家の癪にさわった。
この異人、遠まわしに迷い家を「格下」扱いした。
迷い家が満面の笑顔になる。
笑っている。笑っているのにどうしてこんなに怖いのだろうか………。
己が人間ではなく半妖だったことを知らされたショックよりも妖怪と異人がかもし出す空気の方が怖くてたまらない日向であった。
「泣いて這い蹲らせ謝るまでいたぶる」
『あははは。妄言ですね。貴女から「使い魔にしてください」と言わせて見せましょう』
陰険陰湿なのに笑顔笑顔笑顔、ひたすら笑顔で応酬。笑顔なのに言っていることが怖い上に目が両者笑っていない。
うそだ。僕が半分妖怪って絶対にうそだ。だって今、目茶苦茶この人達が怖い。この場にいたくない。逃げ出したい。
部屋の隅でプルプルと震える日向をよそに迷い家は指で首を切るまねをしてから親指を下に向けた。
「ぶっ潰す」
異人も戦意に爛々と目を輝かせながら異国の姫君にダンスを申し込むように優雅に一礼をした。形のよい唇から零れる聞き心地の良い声がまるで愛を請う様に迷い家を迎え撃つ。
『返り討ちにしてさしあげますよ』
それが、戦いの合図。
同調が上手くいかず、視界は人と同じなれど鏡を通じての攻撃ならできる。こちらの不調を奴は知らない。
そして、迷い家が抱える絶対的な不利に気づかないうちにケリをつける!!
軽く息を整え、そして迷い家の攻撃は開始された。
ブンと揺れ、床から突き出してくる板を異人はヒョイと避ける。着地地点を狙ったかのように廊下に穴が開くがそれも慌てつ騒がず壁を支えにして避ける。
「おやおや………お粗末ですね」
言い終わるよりも前にその言葉に怒ったかのように攻撃が悪化する。どこからともなく飛んでくる日常品をひょいひょいと避けながら異人は楽しげに唇を歪ませた。
きっと今頃、あの迷い家は怒りに我を忘れ、子供の方はおろおろしているのだろう。
その光景が容易に思い浮かんできてくっと喉の奥で笑いながら異人は再びあいた穴を軽やかに飛び越えた。
「~~~~~~~~~~~っっっつつつつつつつ!!腹が立つ腹が立つは~~~ら~~~~た~~~つ~~~~~!!!!!!」
握りこぶしをぶんぶんと振り回し鏡の中で軽やかにこちらの攻撃を避ける異人に対する怒りをあらわにしていた。
「ま、マヨイさん………」
「大人しく落とし穴にはまりなさいよ!!ああ、もう、喰らえ、タワシ攻撃。ちくちく痛みにのた打ち回るといいわ!!」
「あ、あの、僕の話を………」
あ~~~ははっ!とまるで悪の総大将のような高笑いを上げる迷い家の袖を日向がびびりながらも引くが振り向きもせずに振り払われる。
「あ、あの、あの!」
「ん?なに?あ、復讐方法の提案?いいよ。受け付けるわ。どんなのがいい?」
「いえ、だからですね………」
背後に何か気配を感じた。それが何か判断するよりも早く日向は迷い家に飛びつくなり横に倒れた。
「ちょっ!!」
数秒前まで二人がいた場所に高速で何かが飛び込んでくる。それと同時に部屋の中に満ちる力が一気に濃厚になり、迷い家の顔に緊張感が走る。
「………使い魔」
恐らく、異人の方に意識を持っていかれている内に放たれたのだろう。彼の口ぶりから殺されることはないだろうが捕まれば即座にあの野郎の使い魔に堕とされる。
そんなのはゴメンである。
「マヨイさん。大丈夫ですか」
「平気よ。それより………どうしようかしらね。あの鳥、あの異人の使い魔よ」
大型の鷲の姿をした使い魔は鋭いなき声を発しつつこちらを見ている。逃がす気がないのか少し動いただけで警告するようななき声が耳をつく。
意識を集中させる。周囲にある物が迷い家の意思通りに浮かび上がる。
「いけ」
小さな命令に従い周囲を浮かんでいた物が高速で使い魔に襲い掛かる。使い魔が甲高いなき声を発しながら翼を大きく動かし風を起こした。
一瞬、ぶれていた本体との同調が戻る。意外なほど近くまでいる異人の気配に息を飲んだのが悪かったのか使い魔が起こした突風に身体を持っていかれる。
「っう!」
ぶっ飛ばされる。重なった同調もすぐに外れてしまう。
「マヨイさん!!」
腕をつかまれる感触。そして意外なほど少ない衝撃と背後に感じる温かさにはっと振りかえればそこには迷い家を庇って壁に激突した日向の姿が。
「日向!」
慌てて伸ばそうとした手は背後から掴んで止められる。
「大人しくしてください」
鏡越しではなく生身で聞こえてきた声に迷い家は唇を噛む。
ゆっくりと振り返れば使い魔を従わせる異人の姿。
「あんたの勝ちってわけ?」
「抵抗など無意味、ですよ?第一貴方たち迷い家は一度招いた人間を己の意思で追い出すことが出来ないのでしょ?」
知っていやがった。
迷い家の本能ともいえる制約を。
ぎりっと奥歯が鳴る。だめだあまりにも不利な条件が揃いすぎていた。それにこの男自身、強い。
異人の目がピクリとも動かない日向に向けられる。
「気絶をしてくれているとは幸運ですね」
そう言う異人に力が集まり始める。
『古の盟約の元………』
異国の言葉で紡がれる呪文と共に力は溢れる、このままじゃ駄目だ。二人揃ってこいつの使い魔にされる。そんなのは嫌なのに。
邪魔しないと。その思いだけで迷い家が異人に飛びついたのと金色の瞳が開かれたのは同時であった。
ぶわっと静電気のように妖力が場に満ちる。あっちこっちに潜んでいた使役鬼たちがガタガタ震える。
先ほどまでこの場に満ちていた異人の力が払拭されていくのを迷い家は目の当たりにした。
息をするのすら辛い力の爆発の中心で日向がゆらりと立ち上がりゆっくりと顔を上げた彼の瞳は鮮やかな金色に染まっていた。その瞳があまりにも綺麗で、迷い家はその瞳から目が離せない。
「日向………」
名を零した迷い家を金色の瞳が写す。彼からは想像も付かない無表情に近い顔に感情らしきものが浮かんだ。
「……………」
日向の口元が微かに動く。何か喋ったようだが小さ過ぎてこちらにまで届かない。日向の金色の瞳が迷い家と彼女をつかめる異人を見る。
獣のように変貌した瞳に剣呑な光が宿ったのを見て、ゾクリと背筋が凍った。悪寒の意味を考えるより早く、日向が爆発音を立てながらこちらに突進してきた。
「なっ!」
とんでもない跳躍力で距離をつめた日向は獣のような雄叫びを上げつつ異人に拳を振り上げる。咄嗟に防御の術を発動させようとした異人だったが迷い家を掴む腕が弱る。
その一瞬を見逃さず日向は迷い家の首根っこを掴むとそのまま自分の背後に放り投げた。
「にゃぁぁぁっぁぁぁ!!!!」
猫のような悲鳴と共に転がる迷い家をよそに日向は更に異人に攻撃を加える。ころころ転がりながら迷い家は「あれは誰だぁぁぁぁぁぁ!!」と内心絶叫していた。
目つきも目の色も行動も全部が全部今まで見てきた日向と違いすぎるだろ!!
日向の突然の変貌に驚く間もなく異人対日向の戦いに突入していた。
激しい爆音、埃、飛び散る家財に削げ落ちる壁、折れる柱、両者一切の手加減を忘れて戦いは激しさを増していた。
「この!だからこれが出る前に使役下に置きたかったんですけどね!」
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」
いつの間にか狼の腕に変化していた日向の腕が振りかぶられる。それを異人が数種の術を同時に発動させて迎撃する。
容赦なく攻撃、反撃するものだから被害は拡大するほかない。
家の中だということも忘れてな!!!
ぶちり、と迷い家の中で何かが飛び千切れた。胸の奥から湧き上がってくる怒りは先ほど感じていたものを軽く凌駕していた。
プルプルと震える拳に呼応するように迷い家の黒髪が意思を持つかのように緩やかにうねる。髪が目に見えて伸びていく。丸みを帯びた子供らしい赤い顔は女性の柔らかさへ、小さな手足はしなやかな白魚のごとき。
「いい加減に………」
ずっと感じていた不調が不意に消え去る。せき止められていた力が一気に迷い家の中に満ちた。
「いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
叫んだ声は信じられないほどの美声。だがドスのきいたその怒鳴り声に日向異人両人が思わず動きを止めた。
彼らの視線の先にいたのは着物姿の小生意気な子供ではなく腰まである黒髪を背中に流し、鮮やかな椿の描かれた着物を身に纏った恐ろしいまでの美貌を持った妙齢の美女。
不調を乗り越え、本来の姿に戻った迷い家であった。
キツメのだが目を奪われずにはいられない美女は燃え盛る炎のような怒りを背負いながらもいや、怒りを抱えているからこそ尚、美しかった。その美しさに思わず見惚れてしまった日向と異人を睨みつける。
「あんたら………全員………」
迷い家は低く低く這うように呻いた。
「黙れ!!!」
血反吐を吐くような迷い家の叫びと共に彼らの頭上に瓦礫が飛んでくいく。
「「っ!!」」
迷い家に気を取られていた二人は瓦礫に反応するのが遅れ、そして………。
こ~~~~~~ん!
小気味いい音が二つ同時に辺りに鳴り響いた。
「「………ぐっ!!」」
どさ、どさ。
怒り心頭の迷い家の前で男達は情けなくも後頭部にタンコブを作って目を回した。
さて、それからどうなったかと言うと…………。
「「なんで」」
語尾は「ですか」「よ」と違ったが同時に同じせりふを口にした二人の内一人は酷く残念そうに、もう一人は信じられないといわんばかり頭を掻き毟っていた。
「なんであんたここに居座ってんのよ!!出て行きなさい!!」
「なんで子供の姿に戻っているんですか?大人の姿になってください」
使役鬼達によって急速に修復されていく家の一室で我が物顔で茶をすすりつつ自分勝手なことを言うのは家を壊した張本人の一人である異人。
「知らないわよ!!気づいたらまたこの姿に戻っちゃったんだから!!」
寛ぐ異人の前で仁王立ちしているのは再び不調に陥り子供の姿に逆戻りした迷い家。
「マヨイさん~~~。瓦礫の撤去終わりましたよ~~~」
気を失ったら元の子犬な人格に戻り自主的に修復の手伝いを始めて、笑顔で迷い家に駆け寄る日向。
怒り心頭した迷い家が暴れまくる二人を力技で黙らせた日から何故だか異人も日向も迷い家に居座り、出て行く気配がない。
異人曰く、「大人姿に惚れました。必ず手に入れます。なので大人の姿になってください」で日向曰く、「大変なご迷惑をかけてしまったのですからお詫びをしなければ気がすみません!!」だそうで。
どちらも梃子でも動かない。
「いいからさっさと出て行け!!」
怒鳴っても狂犬と子犬はどこ吹く風。出ていきゃしない。
人間嫌いな迷い家の所にはただ今、異人と半妖が住み着いています。
終わりました………。書いていたら長くなるなる。おまけに上手くかけないし、一応納得のいく終わりに持っていくまで何度書き直したか………。
拙い文章ですが暇つぶしに楽しんでいただけたのなら嬉しいです!!




