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後編

すいません!予想外に長引いたため、後編がわかれました。終わってません!

生き倒れた少年が鍋の蓋をかぶった人外と出会う、少し前。迷い家が棲家にしている山の裾野に存在する村の一つが珍しい客人にわいていた。


黒髪黒目が多いこの国ではまずお目にかからない長い金髪はきらきらと輝き風に舞う。青い瞳はまるで澄んだ泉を思わせ纏う服は白を基調とした―――ー知る者が見ればそれは上位の聖職者しか纏うことの赦されない法衣であることがわかるだろう――――を纏い街からやってきたであろうに塵一つ付いていない。村の男衆よりも高い背、腰の位置などまったく違う。手も足も長く肌は雪のように白い。

村を訪れた異人に見るもの全てが手を止め、魅入られた。

それほどまでに美しく華のある空気を持つ青年であった。


全ての視線をいっせいに浴びようが青年は何一つ動揺することもなく歩みを進める。

青年はぼぉーと自分に見とれる村人達ににっこりと笑いかけると男女問わず顔を赤く染めた。


【こんにちわ。少しお話をさせてもらってもよろしいですか?】


「へ?へぇ?」


聞いたこともない言葉を流暢に操りながら話しかけてくる青年に話しかけられたおかみさんは日に焼けた顔を真っ赤に染め、おろおろと手ぬぐいを握り締めた。


青年の声は耳に心地よい低音で歌うように紡がれた言葉は意味が分からずとも洗礼されており彼の物腰の上品さと合わさり青年の育ちのよさを際たたせた。


「あ、失礼しました」


青年がこの国の言葉に切り替える。その言葉は村人達と変わらぬほど流暢で村人達は益々目を丸くする羽目になった。

万人を魅了する笑みを浮かべながら青年は言葉を紡いだ。


「少々お聞きしたいことがあるのですが………お時間、よろしいですか?」




【遭難者の出ない山、ねぇ……慈悲深い山神がいるからだっていうけど何の見返りもなくそんなことする奴はいないんだよ】


神なら信仰を魔物や悪魔なら生贄や供物を。等価交換、ギブアンドテイク。


人と人ならざる者の間に何もなく利益が生じるわけがない。

純朴に神の善意を信じる村人を愚かとは思わない。裏側を知らないだけだ。無知だとは思うが。

青年は………西の果ての国で上級聖職者として悪魔や魔物払いを法王から赦されたエリート中のエリートはくつりと天使のような顔に悪魔のような笑顔を浮かべ神をただ無邪気に信じる人々を嗤った。

その笑顔は先ほどの人の良さは微塵も感じさせず美しさはそのままに凄みだけが増していた。


【迷える子羊はただ無心に神に縋るだけか。手を差し伸べてくるのが神でも悪魔でも彼らには大して違いはないのかな?】


青年の視線の先には夕闇に沈もうとしている山神が棲むという山。村の誰もが山神が棲むという山に村の最年長である老婆だけが違うことを言った。耄碌していて会話にならなかったが山に棲む者のことを聞いたときだけ確かな答えが返ってきた。


『………あの、やまにはなぁ~~~迷い家が棲みついているんよ。わしのばあさまが言っとった。やまには迷い家がおるんじゃと』


老婆の言葉を思い出し再び青年はくつりと嗤った。


【迷い家ねぇ………】


この東の国に棲むという魔物………妖怪の一種だと記憶している。害はなくただ迷い人を持て成し、欲を張らなければ富をもたらすという。

何か隠された利益があって人を持て成すのかそれともただ優越感に浸りたいだけの偽善なのか。

そこまで考えているとバサバサと山から黒い翼を持つ鷲が飛んできて青年の肩に止まる。ついついと青年の金髪を啄ばむとそのまま煙のように姿を消し、落ちてきた紺の宝玉を青年が掴む。


宝玉から伝わってくる気配と光景に獲物の痕跡を見つけ青年の足が山へと向かって歩き出した。


【まぁ、獲物の捕獲のついでに便利な家を手に入れるのもいいかもしれないな】


青い瞳がまだ見ぬ獲物を思って楽しげに揺らめいていた。



「「…………はっくしょんっ!!!」」


人間が目の前にいる恐怖に顔を引きつらせて泣き続けていた迷い家(頭に鍋の蓋装備)とそれを必死に宥めていた少年はほぼ同時に背筋に走った悪寒と共に盛大にクシャミをしていた。


なんだろう、この、ネットリとまとわり付くような悪寒は。まるで超たちの悪い外道鬼畜に目をつけられたかのような気分に陥りブルリと二人は肩を震わせた。


「あ、えっと大丈夫?さむい?」


「ズッ、ううん。大丈夫………」


普通に受け答えしかけた迷い家は再び壁に張り付く。クシャミと悪寒で涙は引っ込んだようだがじっーーーと睨みつける目は警戒心がありありと見て取れて少年はへにょりと目じりを困ったように下げ、何かを考え込むように黙り込むといきなりその場に正座し決意の篭った視線を向けた。


「自己紹介しましょう!」


………迷い家は数秒、少年が何を言ったのか理解できなかった。


「はっ………?」


「自己紹介です。自己紹介!お互いに何も知らないから怖いんですよ。自己紹介してお互いのことが分かったらきっと怖くないですよ!」


「え?はぁ?えっと………?」


自分が怖がっているのはそんな理由ではない。決してない。というかなんだその理論は。


「まずは名前。僕は日向といいます。きみは?」


「あ、うん!わたしは迷い………」


迷い家と言おうとして不自然に言葉を途切れさせる。

妖怪だとばらしてもいいのか?

ぐるんぐるんと戸惑いと疑念が渦巻いて言葉が出てこない。だが、日向は勝手に納得したらしくにぱりと笑う。


「マヨイさんですか。いい名前ですね!」


いえ、本名ではないですどね。君が勝手に勘違いしただけですからね。そもそも迷い家に個別の名前はないですから。しかもこれ、いい名前なのかな?

心の中で突っ込む迷い家。

少年はにこにこと笑いながら迷い家の手を握る。


「ひっ!」


突然の接触に硬直する迷い家の喉から変な声が漏れた。


「マヨイさん。助けてくれてありがとう!」


だけど邪気のない笑顔になんとなく毒気が抜かれて身体から強張りが消えてしまった。


「なんで………あなたわたしの前に倒れていたの?」


「…………」


当然の質問に笑顔で凍りつく少年。その顔は異常なほど青ざめていた。気づけばつながれた手も震えている上にものすごく冷たい。


「………そ、れ、は…………」


何かを思い出したのか言葉を紡ぐはずの唇はパクパクただ無駄に開閉するだけで一向に意味ある言葉は吐き出さない。

それどころか身体の震えはますます酷くなっていく。


がたがたがたがたがたがたがたたたたたっ!!


どんな目にあったのだろうか?尋常ではない怯えっぷりであった。

顔面蒼白でただただ震える日向に迷い家は恐怖も忘れて慰めに掛かった。


「もういい!もういいから!落ち着いてぇぇぇぇぇぇぇ!!」


肩をがくがく揺さぶる迷い家にうつろな瞳のまま「あはははは」と壊れた笑いを零す日向。

そんな彼らの騒動を家のあっちこっちから見つめていた使役鬼達は顔を見合わせそして「しゃーねぇーなぁー」と言わんばかりに肩を竦めた。





「お、落ち着いた?」


「あはは………ごめんなさい。ちょっと大分結構なトラウマになっているみたいで………あ・は・は・は………」


「落ち着いた?本当に落ち着いた?笑い声と目がうつろになってきているんだけど!!」


再び乾いた笑いを上げ始めた日向を迷い家は必死に揺さぶる。同胞が見れば「人間にそこまで近寄れて触れれるだなんて!」と目に涙を浮かべられそうな光景だが迷い家からしてみれば怖がる以前にこの少年が心配になってきているだけである。


「あはは………ごめん。本当にゴメン」


「本当に大丈夫?というかなんであんたこんな山の中で生き倒れになんてなったの?」


「いや~~僕にもさっぱり分からなくて。僕は両親が早くに亡くなっていまして、人里離れた場所で一人で暮らしていたんですけど………」


そこで何を思い出したのか再び震え始める。また壊れたかと思ったがどうにか持ち直した日向が深呼吸をして再び語り始めた。


「ある日、僕の元に異人さんが強襲してきたんです」


………異人?強襲?


疑問が顔に出ていたのだろう日向がもう一度「強襲です」と念を押した。


「まず問答無用で家の玄関を吹き飛ばされました」


オマケに相手は不可思議な術を使う異国の術士のようで狼だの鳥だのを嗾けられたと日向は語った。


「………よく、逃げれたわね」


何故に一般人が異国の能力者に強襲されたのか分からないがその相手からよく逃げ切れたものだと感心する迷い家に日向は困ったように頬をかいた。


「それが、僕にもよく分からないんですよね。あの人の容赦ない攻撃に逃げ回ったのは確かなんですけど僕、一度追い詰められてもう駄目だと思ったんです。だけどその後の記憶がなくて、気づいたら見覚えのない森を走っていてこの家を見つけたところで気絶したみたいです」


僕自身もよく分かってなくて………ごめんなさい。とうなだれる日向。


「さ、災難だったわね………わけも分からずそんなんに追い掛け回されて」


話を聞くがきり絶対に出会いたくない人間らしいし、と人間恐怖症の迷い家は頬を引きつらせた。


「えっとまぁ、お茶でも飲んで一息つく?」


茶でも入れて一息つくかと腰を上げかけた迷い家だったが意識の端に引っかかった気配にはっと宙を仰ぐ。


「マヨイさん?」


意識を家の外に向けかけたその時、歪んだ笑みが見え、そして………。迷い家が何か行動を起こすより早く。


どがぁんっっっっ!!!!!!!


盛大な爆発音と共に迷い家が揺れた。


「っう!」


「マヨイさん!」


衝撃によろけた迷い家の身体を日向が抱きかかえ、抱えきれずにその場に二人して座り込んだ。


「一体何が………」


衝撃のせいか家との同調が上手くいかない。周囲が探れないことに迷い家は小さく舌打ちした。


「マヨイさん?どうした………」


「使役鬼!!状況を説明して!」


日向を無視して声を張り上げた迷い家の言葉に待ってましたとばかりに使役鬼達が姿を現す。


「え、あ、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


『『『『は~~~~~~~~~~い~~~~~~~~~~~!!!お待たせあるじさま!!』』』』


突然現れたたくさんの使役鬼達に目を白黒させる日向をよそに使役鬼達は楽しくて仕方がないという顔で声をそろえて主に笑顔で答えた。


「全員いる?今の揺れは全員感じていたわね。何が起こったか探ってきて頂戴。無駄に手出しはしないこと、でも可能なら足止めよろしく」


『あるじさま!いってくる!』


『あるじさま、かがみ!かがみ!』


使役鬼の一人が差し出した銅鏡を受け取る。


「んっ。ありがとう。それじゃ行動開始!」


『『『『はい!!』』』


よい返事と共に再び消えた使役鬼達。日向はきょろきょろと辺りを探すがもちろん姿を見つけることはできない。


「えっと?マヨイさん?」


縋るように目を向ける日向に迷い家は小さくため息をついた。意図せず緊急事態の遭遇でばらすことになるとは………怯えたり暴れたら気絶させると決心しながら迷い家は日向を振り向いた。


「日向」


「は、はい」


「わたし、妖怪なの。種族名 迷い家 つまりこの家は自身よ」


「はっ?」


「ついでに言えば今、この家に不法侵入者が入り込んだわ。暴力も辞さない奴みたいね。一応わたしも迷い家。招いた人間の安全は保障するから安心して」


日向はじっと目の前の自称妖怪の少女を見た。黒い艶やかなおかっぱ頭に仕立ての良い椿柄の着物をきた十歳ぐらいの少女が迷い家?


「………」


「信じられない?まぁ、仕方ないだろうけど………」


「座敷童だと思ってました」


「はぁ?」


「いや、外見が座敷童そのものなのでてっきり座敷童なのだとばかり………まさか迷い家だとは。というか迷い家って人の姿になれるんですね」


僕知りませんでしたとのほほんと言う日向だったが言っている内容は聞き逃せない。


「え、ちょっと待って。あんたわたしが人間じゃないって気づいていたの?」


「?はい。見ればそれぐらいはわかります」


当たり前のように言っているが普通は見ただけで人間に化けた妖怪を見分けることは難しい。

化けた妖怪を見抜くのはよほど力のある人間かもしくは………。


『あるじさまぁ~~~!かがみ、光ってるよ~~~~!』


ひょっこりと現れた使役鬼がぺしぺしと小さな手で鏡を叩いていた。

慌てて銅鏡を覗き込めば鏡が歪みここではない場所を映し出していた。


鏡に映るのは数匹の使役鬼達。天井の隅にでも隠れてい居るらく鏡の端っこに侵入者らしき姿が上からの角度で映っている。


『こちらせっこうたい~~~!!もくひょうはっけん!!』


『はっけん~~~~~!!』


『ほんぶ応答とうぞ~~~』


緊急事態にも関わらずなんだこのノリノリな使役鬼達の笑顔は。

迷い家は根こそぎ何かが持っていかれた気がした。


『もしも~~~し?ほんぶ?主さま~~~?応答?おうとう~~~どうぞ~~~?』


「こちら本部、状況説明お願い………」


あ、ノッてあげるんですね。と呟く日向。


『はい!主さま!』


元気のよい返事と共に鏡に映る光景が変わり侵入者の姿をはっきりと映し出した。

その瞬間、日向は青ざめ、迷い家は眉を顰めた。


「…………っ!!!!!???????○×♪!!」


「異人?」


そこには我が物顔で迷い家の中を闊歩する金髪碧眼の恐ろしく美しい異国の青年の姿があった。


「なんでこんなところに異人がでてくるのよ。ねぇ日向………って」


振り向くと日向の姿がない。きょろきょろと視線をさ迷わせると部屋の隅っこで頭を抱えて震えていた。

その姿はまるでいじめられて丸くなっている犬そのもの。涙目で見上げてくる彼にへたれて耳と縮こまった尻尾が見えた気がして迷い家は思わず目を擦った。


ちょっと可愛いことか思っちゃったじゃないの。人間相手に。


理不尽な怒りを感じる迷い家だったが次に日向の叫んだ言葉に顔色を変えた。


「そ、そいつ………そいつです!!僕の家に強襲かけてきた異人は!!」


「はぁ!!こいつが!!」


『はい。わたしが、です』


鏡から有り得ない声が返事をして迷い家と日向は揃って鏡の方に顔を向ける。


覗き込めば輝かんばりの笑顔で手を振る異人の姿。


「「…………………」」


なぜ、どうして、使役鬼達は何をして………。


『『『あるじさま~~~つかまった~~~~~!!』』』


青年の使い魔らしき鷲のくちばしに咥えられぶら下がっている己の使役鬼の姿に迷い家はその場に四つんばいになった。

その頭上には暗雲が立ち込めているのを確かに見たと後日、日向は証言した。


『いや~~~可愛らしい使い魔ですねぇ~~』


『きゃ~~~くすぐったぃ~~~~』


きゃっきゃら楽しげに笑う囚われの使役鬼。………まぁ、元気そうだ無駄に元気そうだ。ちくしょうめ。

荒んだ目になる迷い家。怒涛の展開に正直付いていけない日向。腹の内を読ませない微笑みを浮かべる異人の青年。何が楽しいのかきゃっきゃっと笑う使役鬼達。


事態は混迷から混沌へと急速に移行しつつあった。


申し訳ございません(土下座)前中後編と分けていましたが後編が予想外に延びてしまったため後編に数字がついてしまいました。(後編1だけで前編中編の文字数に匹敵するなんて予想外) 

なるべく2で完結出来るように全力を尽くします。本当に申し訳ございませんでした!

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