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ルーキスの太陽 ~異世界の境界線、その手を離さない~  作者: 如月菫
第三部 それでも恋は、終わらない
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エピローグ:まだ見ぬエンディング、陽はまた昇る

 王都に戻ると、騎士たちは二人の無事にほっと胸を撫でおろした。


 レオンは心配をかけたことを皆に詫びた。そして……。


「自分では気づいていなかったが……」


 少し目を伏せて言う。


「俺は……ほんの少しおかしかったらしい。そう言われた」


 騎士たちが息を呑んだ。


「だが……」


 今度はまっすぐ前を見る。


「原因は……排除した」


 一瞬、空気が止まる。


 誰も、その意味を正しく理解しないまま……

 ただ、頷いた。


「もう、何も問題ない」


 レオンは、そう言い切った。


 レオンの身分や、実害がなかったこと、沙弥が許していることなどを勘案して、アズラークの事件は不問に処された。


 一人の騎士が、レオンに問いかける。


「排除した『原因』とは、サーヤのことか?」


 レオンが答える。


「違う。『不安』だ」


                ◇◇◇◇◇


 レオンの強い希望で、沙弥とレオンは貴族街にある小さな家で暮らし始めた。

 別れたはずの二人が、なぜか同居を始めたことを訝しむ人もいたが、理由を知る騎士たちはみな口をつぐんでいた。


 レオンとの暮らしは穏やかだった。


(……大好きな人と一緒だもの。楽しくないわけがない)


 レオンはときどき沙弥を抱き上げる。その重さを確かめるように。そして、満足そうに微笑む。


「……いる」


 沙弥は呆れたように笑う。


「いますよ、ちゃんと。どこにも行きませんから、おろしてください」


 レオンは、沙弥に笑顔を見せるようになったし、口数も元に戻った。

 だが……。

 沙弥の職場に来て沙弥が席を外していると、必死に探し回った。

 家の中でも、常に沙弥の気配を感じていないと落ち着かないようだった。

 それは、少しだけ異常に見え、「レオン様はまだ完全に戻っていないのでは?」という声も聞こえた。


 けれど沙弥は知っていた。


(そうじゃない)


 寮のキッチンに探しにきたときのレオンを思い出す。今と同じように、必死に沙弥を探していた。

 それは、単なる過保護な騎士の「普通」の姿だった。


(おかしいのだとしたら、それはきっと、元からだ……)


                 +++++


(今度は、しっかりと話し合おう)


 沙弥は、そう思っていた。

 今度こそ、間違えないように。


 日本に帰るその日までは、決して離れないと、何度も伝えた。

 帰るときに引き留めない、ということも約束させた。


「少しの間、離れなければいけないけれど、その後はまたいつでも会えるようになりますよ。日本が気に入れば、いくらでも滞在すればいいですし」

「そうだな。サーヤもまたこちらに来るか?」

「私一人では来られないので、レオンさんが迎えに来てくれれば」

「それなら、いつでも迎えに行く」

「二人で、日本とルーキスを行ったり来たりするのもいいですね」


『離れる』という話になるとレオンは少し暗い顔になる。それでも……


 大丈夫。この人は、きっとまた輝く。


(ルーキスの太陽なのだから)


 たとえ一度、闇に呑まれても、再び昇ると決めたなら。


(日本に帰ったら、トパーズを使って「昼の太陽」のクラスプを贈ろう。前に贈った「夜の太陽」と対になるように)


 沙弥の誕生石のトパーズ。そして、レオンの瞳の色……。


                ◇◇◇◇◇


 自宅のバルコニーで、二人は月を見上げていた。

 あの日、狂気と絶望の色に染まっていたレオンの金色の瞳は、今はただ静かな光を宿している。


「月が綺麗だな」

「私が先に言おうと思っていたのに……」

「言わなくても、わかっている」

「すごい進歩ですね」


(前は、言われないとわからないと言っていたのに)


「それでもやはり、言ってほしいが」


 そう言って、レオンは自分の手を沙弥の手に重ねた。


「大好きですよ」


 沙弥は、その手を握り返す。


(今は、この手を離さない)


 答えは、まだ先にある。終わりではない。


 それでも……今この瞬間は、確かに幸福だった。

 それだけで、十分だった。

                ◇◇◇◇◇


 沙弥が眠ったあと……。

 レオンが、眠る沙弥の手を握っている。

 そして小さく、呟く


「この手を、離さない……」


 しかしその声からは、その言葉が愛なのか、願いなのか、誓いなのか、執着なのか、判別できない。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 片道の転移陣が完成したとき、沙弥は本当に日本に帰れるのか、レオンはきちんと見送れるのか。そのあたりは賢斗視点の「ルーキスの勇者 ~姉を託したその先で~」で書く予定です。

 ご興味があれば、そちらも読んでいただけると嬉しいです。


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