エピローグ:まだ見ぬエンディング、陽はまた昇る
王都に戻ると、騎士たちは二人の無事にほっと胸を撫でおろした。
レオンは心配をかけたことを皆に詫びた。そして……。
「自分では気づいていなかったが……」
少し目を伏せて言う。
「俺は……ほんの少しおかしかったらしい。そう言われた」
騎士たちが息を呑んだ。
「だが……」
今度はまっすぐ前を見る。
「原因は……排除した」
一瞬、空気が止まる。
誰も、その意味を正しく理解しないまま……
ただ、頷いた。
「もう、何も問題ない」
レオンは、そう言い切った。
レオンの身分や、実害がなかったこと、沙弥が許していることなどを勘案して、アズラークの事件は不問に処された。
一人の騎士が、レオンに問いかける。
「排除した『原因』とは、サーヤのことか?」
レオンが答える。
「違う。『不安』だ」
◇◇◇◇◇
レオンの強い希望で、沙弥とレオンは貴族街にある小さな家で暮らし始めた。
別れたはずの二人が、なぜか同居を始めたことを訝しむ人もいたが、理由を知る騎士たちはみな口をつぐんでいた。
レオンとの暮らしは穏やかだった。
(……大好きな人と一緒だもの。楽しくないわけがない)
レオンはときどき沙弥を抱き上げる。その重さを確かめるように。そして、満足そうに微笑む。
「……いる」
沙弥は呆れたように笑う。
「いますよ、ちゃんと。どこにも行きませんから、おろしてください」
レオンは、沙弥に笑顔を見せるようになったし、口数も元に戻った。
だが……。
沙弥の職場に来て沙弥が席を外していると、必死に探し回った。
家の中でも、常に沙弥の気配を感じていないと落ち着かないようだった。
それは、少しだけ異常に見え、「レオン様はまだ完全に戻っていないのでは?」という声も聞こえた。
けれど沙弥は知っていた。
(そうじゃない)
寮のキッチンに探しにきたときのレオンを思い出す。今と同じように、必死に沙弥を探していた。
それは、単なる過保護な騎士の「普通」の姿だった。
(おかしいのだとしたら、それはきっと、元からだ……)
+++++
(今度は、しっかりと話し合おう)
沙弥は、そう思っていた。
今度こそ、間違えないように。
日本に帰るその日までは、決して離れないと、何度も伝えた。
帰るときに引き留めない、ということも約束させた。
「少しの間、離れなければいけないけれど、その後はまたいつでも会えるようになりますよ。日本が気に入れば、いくらでも滞在すればいいですし」
「そうだな。サーヤもまたこちらに来るか?」
「私一人では来られないので、レオンさんが迎えに来てくれれば」
「それなら、いつでも迎えに行く」
「二人で、日本とルーキスを行ったり来たりするのもいいですね」
『離れる』という話になるとレオンは少し暗い顔になる。それでも……
大丈夫。この人は、きっとまた輝く。
(ルーキスの太陽なのだから)
たとえ一度、闇に呑まれても、再び昇ると決めたなら。
(日本に帰ったら、トパーズを使って「昼の太陽」のクラスプを贈ろう。前に贈った「夜の太陽」と対になるように)
沙弥の誕生石のトパーズ。そして、レオンの瞳の色……。
◇◇◇◇◇
自宅のバルコニーで、二人は月を見上げていた。
あの日、狂気と絶望の色に染まっていたレオンの金色の瞳は、今はただ静かな光を宿している。
「月が綺麗だな」
「私が先に言おうと思っていたのに……」
「言わなくても、わかっている」
「すごい進歩ですね」
(前は、言われないとわからないと言っていたのに)
「それでもやはり、言ってほしいが」
そう言って、レオンは自分の手を沙弥の手に重ねた。
「大好きですよ」
沙弥は、その手を握り返す。
(今は、この手を離さない)
答えは、まだ先にある。終わりではない。
それでも……今この瞬間は、確かに幸福だった。
それだけで、十分だった。
◇◇◇◇◇
沙弥が眠ったあと……。
レオンが、眠る沙弥の手を握っている。
そして小さく、呟く
「この手を、離さない……」
しかしその声からは、その言葉が愛なのか、願いなのか、誓いなのか、執着なのか、判別できない。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
片道の転移陣が完成したとき、沙弥は本当に日本に帰れるのか、レオンはきちんと見送れるのか。そのあたりは賢斗視点の「ルーキスの勇者 ~姉を託したその先で~」で書く予定です。
ご興味があれば、そちらも読んでいただけると嬉しいです。




