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ルーキスの太陽 ~異世界の境界線、その手を離さない~  作者: 如月菫
第一部 終わると知りつつ、恋をした
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第13話 初恋の行方、見守る背中

 翌朝……。


 沙弥はレオンの腕の中で目覚めた。二人ともいつの間にか眠ってしまったらしい。慌ててレオンを起こす。


「レオンさん、もう朝の七時ですよ! 朝帰りはまずくないですか?」


 これから支度をして出ると、食事や出勤で動き出す人たちと鉢合わせする可能性が高い。レオンが朝まで沙弥の部屋にいたという噂はあっという間に広まるだろう。


「それなら一緒に出たほうがいいな。今迎えにきたところだと思われるだろう」


 本当にそうだろうか? だが考えても仕方ないので順番にシャワーを浴び、身支度を整えて食堂へ行く。

 二人が廊下に出ると、立ち話をしていた女性が口をつぐみ会釈をする。なんとなく気まずい。


「あまり気にするな」とレオンが言う。

「護衛騎士が護衛対象とこういう間柄になることって、よくあるんですか?」

「聞いたことがないな」


 平然と答える。


「お父様に叱られませんか?」

「大丈夫だと思うぞ。今まで一度も叱られたことなどないし」


 それは今まで叱られるようなことをして来なかったからだ。

 だが、レオンがそう言うなら気にせずともよいだろう。自分はいずれいなくなる身なのだから。


                ◇◇◇◇◇


 その日、詰所で予算案の作成作業をしていると賢斗が血相を変えて飛び込んできた。


「レオンさん、姉になんてことしてくれたんですか!?」


 なぜ賢斗が知っている? 昨日の今日で?


「レオンさんは姉の護衛ですよね? 姉を守る立場じゃないんですか!?」


 こういうときレオンは黙り込むだけだ。仕方なく沙弥が割って入る。


「賢斗、あれは合意の上で……」

「合意って何だよ!」


 違う方向に来た。


「姉さん、やけどさせられたんだろ?」


 あ、そっちか。


 昨日の昼、食堂でレオンが沙弥のカップにお湯を注いでくれているとき、後ろから他の騎士に押されて沙弥の手に熱湯がかかった。すぐに治癒魔法をかけてくれて、痛みも痕も残っていないから忘れていた。

 賢斗のことだから、熱湯がかかったというところを聞いただけで頭に血が上り、治癒したというのは聞いてなかったのだろう。


「それならいいけど、熱湯かかったときは痛かったんだろう? 治療すればいいってもんじゃないんだから気をつけてくださいよ」

「レオンさんも押されたんだから不可抗力よ」

「誰が押したんだよ?」

「知らない人」


 本当は知っているけど言わないでおこう。


                ◇◇◇◇◇


 沙弥の仕事が休みの日、レオンが珍しく一人で訓練場に顔を出した。

 賢斗が騎士から剣の手ほどきを受け、オーブリーがそれを見守っていた。レオンがオーブリーの隣に腰を下ろすとオーブリーが尋ねた。


「一人でここに来るのは久しぶりだな。サーヤは?」

「今は部屋にいる。食事のときに、また迎えに行く」


 オーブリーは、聞いていいものかどうか考えあぐねていた質問を、ついにレオンにぶつけた。


「お前、サーヤに惚れたか?」

「……なぜわかった?」

「そりゃ、顔を見ればわかる」


 女に対しては不機嫌な顔を見せるレオンが、サーヤには優しげな表情を向けていた。


「サーヤのほうはどうなんだ?」

「嫌われてはいない……と思う」


 そこまではすぐに言えた。だが、その先が続かない。


「だが……」


 言葉が止まる。


「……好きだとは、一度も言われていない」


(あれほど近くにいても、確信が持てない)


「でも、よくサーヤの部屋で一緒に過ごしているんだろう?


 オーブリーの耳にも噂は届いていた。


「あれは浄化のためだ」


 オーブリーは浄化魔法が使えないので、浄化方法を詳しくは知らなかった。


(こいつには話してもいいだろう)


 そう思ってオーブリーに打ち明けた。


「それじゃ、そこまでしておいて、その先には進んでないってことか?」

「それが、数日前に初めて……」


 レオンはそう言って頬を赤らめ、横を向いた。


(あれだけ触れても、言葉はなかった)


 オーブリーは、信じられないものを見たという顔をしている。


(おいおい、初めての経験をした恋する少年かよ。俺までキュンとしちゃったじゃないか)


「まあ、女嫌いが治ってよかったな」

「女は今でも好きではないが」


 サーヤだって女だろ、と言いかけたが、レオンの中では明確な区別があるんだろうなと思い直し、口を閉じた。


「ケントも気づいているかな?」とレオンが尋ねる。

「あいつは以前のレオンを知らないから、変化には気づかないんじゃないか?」

「ケントには知られたくないな。たぶんサーヤもそう思っている」


(まあ、そうだろうな。姉大好きなケントからしたら愉快な話ではないはずだ)


「わかった、変な噂も耳に入れないように気をつけるよ」とオーブリーが言うと、「ありがとう」と言ってレオンは帰っていった。


(「ありがとう」か……)


 これまで、レオンから直接的な感謝の言葉など受けたことはなかった。


(これもサーヤの影響かな)


 それにしても、レオンと恋バナをする日が来るとは思ってもいなかった。

 誰よりも冷静で、誰よりも強い騎士が、今はただ、……恋に戸惑う少年にしか見えなかった。


(だけど、サーヤとケントはいずれ故郷に帰るんだよな……)


 成就することのないであろう友の初恋を思い、「そのときは一緒にやけ酒飲んでやるからな」と心に決めた。


                ◇◇◇◇◇


 討伐隊が出発する日まで、沙弥は第二騎士団の手伝いをすることになっていた。

 そのため、沙弥とレオンは休日を除いて毎日詰所に通っている。


 浄化のたびにレオンが朝まで沙弥の部屋にいるようになったせいで、二人が親密だという噂はすっかり広まっているはずだ。だが、不思議とダニエラが以前のように追及してくることはなかった。



 ダニエラは沙弥のことが好きだった。


 沙弥は仕事がよくできるのに、もたもたしているダニエラをバカにしたりしない。

 むしろ仕事がやりやすくなるようにと、色々なアイデアまで出してくれる。

 ダニエラのおしゃべりだって嫌な顔ひとつせず聞いてくれる。


 レオンは冷たい。でも、あまりにも素敵すぎて嫌いにはなれない。というか、そのクールさがまた魅力なのだ。


 そんなレオンも沙弥には優しい。他の人には絶対に見せないような、柔らかい表情を沙弥にだけ向ける。


(ああ、サーヤさんのこと大好きなんだろうなあ)


 そう思う。沙弥だって顔には出さないけれど、きっとレオンのことが好きなはずだ。


 相思相愛の二人はちょっと羨ましい。でも、不思議と妬ましくはなかった。

 むしろ……


(よし)


ダニエラは小さく拳を握った。


(絶対に、うまくいかせる)


たとえこの恋が、難しいものであったとしても。


(できることは、全部やる)


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