発熱したみたいです
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んー、おでこが冷たくて気持ちいい。
体が熱くて、体の節々が痛くて頭が重い状態の中、心配そうに声をかけてくれる優しい声、汗をかくたびにさっぱりとさせてくれる優しい手、喉が渇くたびに何回か冷たいお水や、ちょっと甘いお水を飲ませてくれる大きな手がすごく安心できちゃう。
そして、今はお腹に何か乗っていて重たいです。
「セシル、気が付いた?」
目を覚ますと、銀の髪、琥珀色の瞳のカイル様と、カイル様と同じ銀髪を結い上げ、エメラルドグリーンの瞳をした小さくて華奢な体つきの皇后陛下が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
しかも横には額に汗をかいたお兄様がぐっすり眠っていた。
どうやら重たかったのはお兄様の腕のようだ。
「お熱が下がったみたいでよかったわ。
咳もくしゃみもしていないし、鼻水もないからただのお熱で済んだみたいね。
喉とかお腹は痛くない?」
優しく涼やかなお妃さまの声。マーサの凛とした声とはまた違った大人の女性らしい皇后陛下の声は大好きだ。
「はい、大丈夫でしゅ。
おきさきしゃま、お久しぶりでしゅ。
あれ?
ここは……」
あたりを見渡すと、見たことがない部屋だった。
格子天井に細かい組子の欄間、ベッドや家具は洋風だけど、木材を使っているからかどこかに和風というか、懐かしさを感じる落ちついた部屋だった。
「王宮の私達が暮らす奥宮で、ここは昔叔父上使っていたお部屋だよ。
ルカもセシルも熱が高かったからヴァルハランドまで帰るより叔父上といっしょに泊まった方がいいということになったんだ」
「おにーしゃまもお熱出ましたか?」
なんと。
私が知らない間にお兄様まで熱を出していたとは。
お父様、大丈夫だったかしら。
「昨晩ルカちゃんも赤い顔をしていたからお熱を測ったら高かったの。
セシルちゃんもルカちゃんもお医者様にも見ていただいたから大丈夫よ。
あんなことがあったら、心も体もびっくりしてお熱が出ちゃっても仕方がないわ」
「おとーしゃまはどうしましたか?
カイルしゃまとおきさきしゃまが看病してくれましたか?」
「看病はほとんどエーミール様がしていたわよ。
私達は、エーミール様が離れている間、様子を見てたくらいかしら」
「そうだ、セシル。
叔父上は今父上と厨房にいるんだ。さっき寝ているセシルの熱を測ったら下がっていたから、セシル達が起きた時に口当たりの良いゼリーを作ってあげようって作りに行ったんだよ。
セシル、ご飯は食べれそうかい?」
「食べれましゅ、食べたいでしゅ!
お腹空きました!」
そう聞かれると、意識しちゃってすぐにお腹がぐーっと反応しちゃったわ。
しかもなんかすごく空っぽな感じがする。
昨日の夕飯を抜いたからかしら。
「今何時でしゅか?」
「あらあら。その様子だと元気になったみたいね。
セシルちゃん今は夜よ。
一昨日、運ばれてきた夕方から丸二日ぐったりしてたんだから」
「えー?
そんなに長い時間でしゅか?」
二日間食べた記憶がないなら、そりゃお腹も空いてるはずだ。
「そうよ。エーミール様がつきっきりだったわ。
今は、二日間お水や果物の摩り下ろしたものとかだけだと心配だからって、仕事が終わられた陛下と一緒に、ゼリーとか作ってくると言って王宮の奥宮の厨房に行かれたの」
「そうでしゅか。
おにーしゃまもご飯食べれなかったでしゅか?」
「ルカちゃんは今日のお昼に野菜の雑炊とか食べてたかしらね」
「あ、セシル、その顔だと雑炊も食べたいのかな?」
「はい、食べたいでしゅ」
「じゃあ、厨房に行って頼んできてあげるよ。
母上、いいですよね?」
「ええ。
じゃあ、セシルちゃんはあっちのお部屋でお着替えしましょうか」
「はーい」
連れられるまま、ベッドルームと続きの間になっている洋間に向かい、畏れ多くも皇后陛下に着替えさせてもらいながら、熱を出してから今までのことをかいつまんで教えてもらった。
どうやら、熱を出した後は多くの方々に心配をかけていたらしい。
レオン様達は昨日、今日と容体を教えてほしいと王宮の奥宮に問い合わせをされたとか、事件後すぐに王宮に呼び出して無理をさせてしまったと反省していて、昨日今日とお見舞いの品が届いているとか、そのお見舞いの品のフルーツをお父様が容赦なく使って熱でもうろうとしていた私とお兄様に食べさせ、お菓子などは奥宮で働く方々に配ったらしいとか。
あと、ウラジミールを退治したことと、ウラジミールがやったことがルードリア帝国だけでなくルードレーン大陸中に伝わり、昨晩、王宮に吸血鬼の代表者がお礼とお詫びをしにいらっしゃったらしい。
ただ、その内容はウラジミールを退治したことのお礼よりも、昔同族を大勢殺したウラジミールの棺の監視を百年近く怠っていたこと、意識だけ復活していたことを知らなかったこと、そのためにノーザンバランドの国々が酷い時代を迎えていたことに対する懺悔だったみたいだ。
詳しくは皇后陛下も聞いていないそうだけれど、ノーザンバランド側で密かに生活している吸血鬼が、ナーガ教団の被害を受けた国々から迫害をうけるのではないかという懸念を相談されていたらしい。
三百年前、ロジオン様がウラジミールを棺に封印したのは、彼が改心するかもしれないという温情をかけた経緯があったからだそうだけど、結局改心どころか大量虐殺を起こしちゃったものね。
ロジオン様は三百年前のあの時、温情などかけずに滅ぼしてしまえばよかったと後悔していらっしゃるらしい。
吸血鬼側の監視を怠ったという大きなミスを考えると、彼らの怠慢から起こった被害が大きすぎていかがなものかと思うけど、元々はウラジミールの被害者だった吸血鬼達が、意識だけ目覚めたウラジミールのやったことのせいで、人間をはじめ他種族から迫害を受ける羽目になっちゃうかもしれない可能性ができてしまったという泣きっ面に蜂状態ということよね。
そして、ウラジミールから私を助けに来てくれたロジオン様だけど、ロジオン様は今、上皇陛下の館で過ごされているらしい。
しかもどうやらロジオン様は昔、子供のころの上皇陛下と、時を経て皇帝陛下の家庭教師でもあったらしい。
一体、幾つやねん!
で、私のご先祖様のお兄さんでしょ?
もう、生きた化石やん?
シーラカンスと同類じゃないのかと思ってしまうよ。
そんなロジオン様は、昨晩、私もお兄様も熱で朦朧としているときに上皇陛下御夫妻と一緒に様子を見に来てくれたみたいだけど、上皇陛下はその時私がお父様達と血が繋がらないことを知ったことをご存じで、心を痛めていらっしゃったそうだ。
また熱が下がったらお顔を見に来ると仰ってみえたそうだけど、そう言われたら、皇后陛下もカイル様も今まで通り接してくれていると気が付いた。
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