ちょっと反省
次の日、昨日の囮になる発言のせいか、いつもベルトランの授業はないときはお父様の執務室で父様とお父様の秘書代わりの執事のグレイと三人で過ごすのに、今日は隅に黒髪黒目ナイスバディのマーサまでもが控えている。
失礼こいちゃうわ。
こんなちびっ子なんだから、お父様達の隙を狙って一人で出ていこうなんて思ってないわよ。
ふんっ!
一階の執務室の窓から見える庭には羽を休める孔雀たちが見える。
お昼寝から起きてから、孔雀を七十二色入りの色鉛筆を使ってお絵かきしていたけれど、羽を閉じてしまったし、お絵描きも完成したし、新しい紙に描こうと思っても飽きてきてしまった。
床につかない足をぶらぶらさせて、他の色鉛筆を転がして遊んでいると、視線を感じた。おおうっ、お父様の秘書、グレイとばっちり視線が合ってしまった。
にっこり微笑むと、名前と同じ灰色の髪、灰色のお目目の若干ワイルド系で長い髪を一つに縛っているグレイにウィンクされてしまった。
おうっ、そのウィンクは年頃の娘さんにやっちゃハート射抜かれちまうぜ。
つい「うっ」っと言って胸を押さえて、机に突っ伏すふりをすると、それを見たグレイがお父様の横でしゃがみ込んで笑いをこらえている。
「どうしたんだ、グレイ」
突然執務机の横でしゃがみ込んだグレイにお父様が不思議顔で尋ねると、部屋の隅で刺繍をしていたマーサが笑いをこらえながら答えた。
「グレイのウィンク攻撃にセシル様が胸を押さえてお倒れになったのです」
「何? グレイ、お前、セシルを毒牙に……」
「かけるかっ!
暇そうにこっち見たからウィンクしただけだ」
もともとお父様と乳兄弟のグレイなので、家令のノーランがいない時は執事モードからたまに口調が元に戻る。
グレイは笑いをこらえながらお父様の許からやってきて私を抱き上げた。
「今日はベルトランの授業もないし、お絵描きばっかりじゃつまらないよな。
庭の孔雀か。うわあ、今回も上手にかけたな。
この遠くと近くの孔雀の描き分けとか庭の木の陰影とか本当に子供かって毎回思うぞ」
前世では近所の絵画教室に通っていたから、小学校から中学校まで夏の課題のポスターや図工の絵の時間は私の独断場だったのだ。
ここ数か月、幼児のお絵かきレベルからごぼう抜き状態で絵は上達しているぜ。
どうせなら絵の具、ぜいたくを言えば油絵具や筆やパレットが欲しいけど、さすがにまだこの手ではパレットが難しい。
「じょうじゅでしょう?
絵は得意なのでしゅ」
ついグレイの腕の中で得意げに胸をそらすと、また灰色の目をきらめかせて笑うグレイ。
「胸をそらすと落ちますよ、セシル様。
で、次は何がしたいですか? もうすぐお父様も私も書類が終わりますから、何がしたいですか?
昨日お父様にメをされてからご機嫌斜めでしたが、治りましたか?」
「なおりましぇん!
おまちゅりにも街にも行けないなんて、ストレシュ溜まっちゃいましゅ!
お肌によくないでしゅ」
「ス、ストレシュ、ストレスって言えてねーのがかわいらしいなあ。
……じゃねえよ!
三歳にもならん子供がストレスでお肌の心配するって、マーサ、メイド連中のおしゃべりが聞こえるところに置いて面倒見てるのか?」
「そんなことしませんよ。それに言いつけ通り皆必要以上に近寄って来ませんよ。
皆、エーミール様が幼少時に必要以上に近寄って甘い汁を吸おうとしたメイドや家臣たちの末路の話を聞いていますからね」
なるほど。城の中で、グレイ、マーサ、ノーラン、ベルトラン以外が近寄ってこないのはお父様の幼少時にあった出来事が原因なのか。
とりあえず、良い話じゃなさそうだけど。
「この子は下の子だからか、女の子だからかわからないが、語彙力が豊富だし、文字を覚えるのも早いし、おませさんのようだ。
さあ、こっちにおいで」
「いやでしゅ」
ぷいっと横を向いてグレイの服をつかむ。
「セ、セシル?」
そっぽを向かれて情けない声を出すお父様に苦笑いのグレイは、私をちょっと高い位置に抱き上げて顔を覗き込んできた。
「あーあ、こりゃ早く安心して街に行けるようにしないと、セシル様のご機嫌は直らないようですよ。
でも、セシル様。
街に行けなくて哀しいのは分かりますが、お父様のことも許してあげてください。聖人という名の極悪人が作り出した魔法陣の法則は我々の知識ではまだわからない点があるかもしれないのです。
お父様はクローディア様のように失いたくないのですよ。
まして、今回は不幸にも他種族の子供もお亡くなりになっていたのですから、囮なんて言ってはダメです」
目線を合わせてきたグレイがじっと私の瞳を覗き込む。
きっとお母様を失ったとき、このグレイも哀しかったのだろう。
彼の灰色の瞳の奥に陰りを感じ、当時の事件の詳細を知らない私は、誘拐事件を軽く考えていすぎたと自分の浅はかさを痛感した。
「……はい。
おとーしゃま、ごめんなしゃい」
「いや、謝らなくてもいいんだよ。
早く皆が安心して街に出られるように……誰だっ?」
急にお父様が血相を変えて扉のほうを振り向き、私を抱えるグレイの腕が強くなり、グレイの前にマーサが飛び出した。
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