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エピローグ

 食器を洗い終えると、リーフェはにこにこと嬉しそうな顔でカレルのもとにやってくる。


「お師匠さま! ハンドクリームを塗ってください!」


 レインデルスの森に戻ってきてからというもの、この図々しい弟子は毎日毎度、こうしてカレルにハンドクリームを塗ってくれとねだるのだ。


「あー……はいはい」


 カレルが自分でやりなよ、と抵抗したのも最初だけだ。できるようになりなよ、と言ったのも。


 カレルは素直にリーフェからハンドクリームを受け取り、適量よりほんの少し多めに手に取って彼女の手に塗る。多めにとるのは、こうしてカレルが塗ってあげるせいでカレルの手にもハンドクリームが馴染んでしまう分だ。


「仲が良いのねぇ」


 そんな二人をにやにやと眺めながら感想を零すのはティルザだった。


 王都での一件から既に一ヶ月以上が経ち、リーフェはもう随分と長いことこの家で暮らしているというような顔をしている。そんなリーフェをこの森に送り届けた張本人が様子を見に来たのだ。


 何をしに来たんだ、店はどうしたんだとカレルが言っても「店はミルケが店番してるから平気よ」と流されてしまう。そもそも店にやって来る客が少ないからミルケに留守番させても平気なのだろう。


「……別に仲がいいわけじゃないよ。弟子の面倒を見るのは師匠の役目でしょ。リーフェ、畑から野菜をとってきて」


 人参と蕪と、と野菜の名前を連ねる。はい! とリーフェは元気よく外へと出て行った。


 その背を微笑ましそうに見送る姉弟子に、カレルは冷ややかな目を向ける。


「過ぎたことだからあんまり言いたくはないけどさ、なんであの子の味方をしたの?」


 ティルザが絶対に自分の味方になるなんて思っていないけど、それにしたってカレルの意志をまるっきり無視したティルザの行動には腹を立てている。


「えー。だって、仕方ないじゃない。あの子、私の店に来たんだもの」


 にやにやと笑いながらティルザはカレルを見る。その意味がわからないはずがないのだ。


 紅柘榴の魔女の店に辿り着くことのできるのは『まことの恋』をしていて『魔女の助けを求めている』者だけだ。それがたとえ、無自覚であっても。


「それに、あの子ここにも自力で辿り着いたんでしょ?」

「……そうだけど」


 森の魔女の家に辿り着けるのは魔女に危害を加えず、助けを求めている者のみ。しかしリーフェは危害を加えることはないけれど、助けは求めていない。本来ならば条件を満たすことなく、この家に辿り着けるはずがなかった。


 けれどカレルが与えた森の加護が、リーフェの望むように働いたらしい。森の縁者であるなら、森が拒むはずもない。


「でもさぁ、あの子魔女の適性はないでしょ? 適性もないのにあんたから加護を受けていて、そんで森に住んでるって――森からはあんたの伴侶として認識されてない?」


 ティルザの指摘に、カレルは「ぐ」と言葉を詰まらせる。

 森の加護を与えられるのは、ここから独り立ちする魔女の他にももう一つだけ例外がある。


 それが、森の魔女の伴侶、なのだが。


「いやそういうつもりはないんだけど」


「え!? わたしお師匠さまの奥さんになるんですか!? え、えっと、ふ、不束者ですがよろしくお願いします!?」


 畑から戻ってきたリーフェがややこしいところだけを聞いていたらしい。野菜の入った籠を抱えて頭を下げてくる弟子に、カレルは頭が痛くなった。


「ねぇ君わかってて言ってる!?」


 カレルの怒鳴り声にリーフェが「え? え?」と首を傾げる。絶対にわかっていない。


 そんな師弟を見つめながらティルザはくすくすと笑い、紅柘榴の魔女としてこっそりと二人に魔法をかけた。

 どうやらこの二人は、なかなか進展しなさそうだから。


 ――どうかこの恋が、末永く続きますように、と。



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