開戦⑩
開戦が終わり、次は戦後処理になります。
戦線はあっという間に帝国軍によってほぼ平定され、公国や獣王国の二国国境付近まで制圧された。
帝国軍による統治・監視には、アバロン軍も参加していたこともあり、大きな混乱もなく完了し、権力の移譲もあっけないほどにすぐに済んでしまった。
反アバロン勢力は、宰相領を中心に獣王都を含めた地域を勢力圏を持つ獣王国側と暫定公国政府が、遷都されている街と小規模な穀倉地帯と街と穀倉地帯を繋ぐ中継の街を中心とした場所に簡易要害や塹壕陣地を建設して勢力圏に設定した公国側という形になった。
共にほぼ8割は、領地を喪失した形で戦線を停止した。
アバロン側と協議の上で、この位置で固定した。
<帝国・前線>
「この位置からわが軍が突撃すれば、あ奴らを殲滅できます。 行くべきです。」
「・・・。 我ら軍人では、判断できない事もあるという事だ・・・。」
「そうでありますか?」
「追い込みすぎると、死兵になる事は危険だ。 それに彼らはすでにアバロン軍の攻撃が全域に達しているから焦らずとも良いそうだ。」
「・・・。 あの攻撃は脅威です・・・。」
前線指揮官の前には、半壊している獣王都の王城がある。
彼らの元に事態が変化する報告が齎される時は、刻々と近づいていた。
<アバロン総司令部>
最前線より数百キロは離れている総司令部では、帝国軍に帯同した部隊からの報告が齎されている。
殆どが平穏を
伝えるような内容だったが、ある日の帝国軍獣王国方面隊に帯同している部隊からの緊急電が届く。
『獣王国銃士隊隊員20名に護衛された獣王国の姫と名乗る女性を含む一団を保護しました』
この報告に司令部が巣を突っついたような大騒ぎになった。
「情報の裏取りをしろ!」
「保護した一団の移送部隊の編成を!前線の帝国軍と共に獣王都に進撃!事の次第よっては、王族の保護をせよ!」
前線の帝国・アバロン連合軍は、獣王国の都に進んだ。
進む装甲車両で進む道を開墾していくアバロン装甲車部隊の後を進む帝国重装騎兵団、その後をジープやケッテンクラートやバイクに乗る部隊と歩兵が続く。
抵抗がほぼないまま、王城に入ると、王城内に激戦が繰り広げられたと思われる王室プライベート区域と思われる場所に、多くの戦死体があった。
「ここで起きたようですね・・・。」
「獣王国警備兵・近衛・一般兵・儀仗兵までいる。 王宮派の最後の抵抗した場所らしいな・・・。」
「隊長!あちらに銃士隊の死体が!」
「銃士隊は、王宮派の最高戦力。 彼らもここで散ったか・・・。」
「攻めた兵は宰相派の兵の様ですね・・・。 宰相の家紋の入ったタスキが幾つも見つかりました。」
激戦地となった王宮王族プライベート区画を進むと、廊下や部屋、階段に至るまで互いの噛みつき合うような戦闘の跡が至る所にある。
王宮のメイドが、持っていたナイフで宰相派の兵士を倒した姿など、王宮派は兵士・使用人とはず抵抗した戦いだった。 王宮内の警備を担当していたと思われる女官兵の戦死体も複数見つかった。
「ここまで凄惨な戦闘が・・・。」
「しかし、なぜこのような事に?」
「宰相派が自身の陣営に権力を移譲するために何かしらの事をした事でこじれ、徹底抗戦になったか、それを整えさせる前に強襲した・・・だろうな。」
「なんと愚かな・・・。」
最後の抵抗の終焉地と思われる王族のダイニングルームは、さらに凄惨な惨状が広がっていた。
銃士隊の物と思われる手投げ弾が幾つも破裂した後があり、巻き込まれた宰相派の兵や騎士が事切れた状態で折り重なっていた。
「これまでも凄かったが、これはそれ以上だな・・・。」
「最後の抵抗地・・・それだけでも想像できます・・・。」
「だな・・・。」
警戒をしながら進むと、終焉の地と思われる部屋の前に着いた。
王宮私室。
私室前の廊下には、全身に包帯を巻いた兵や騎士、高級士官と思われる王宮派の人が息絶えていた。 彼らの倍以上の宰相派兵が死んでいた。
「この中は・・・おそらく王宮の長が自決した跡がある・・・。 死体袋が必要だろうな・・・。」
「手配します。」
「頼む。」
意を決したアバロン士官は、扉を開ける。
そこには死体は10。
獣王国王と妃、妾さんと思われる女性が2人。 メイドと思われる中年女性2人と手の施しようがないと思われる男女の兵士4名。 施しようのない者は、他者に止めを刺されていた。
「文字通り終焉の地となった場所だな・・・。」
「全員!獣王国王族様に対し、黙礼!」
「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」
部屋に入った隊員全員が、捧げ筒の状態で黙礼した。
雄姿に対し、敬意を表した。
戦死した王様を始めとした方々を後続部隊の用意した死体袋に収めて、収容して本国へ。
脱出した姫たちは、一足先にアバロン本国に護送してある。
帝国軍も獣王都を支配下に置いた。 獣王国は宰相領のみのなった。
獣王側は帝国軍が城に乗り込む前に撤収し、宰相領に接収した。
「敵ながらあっぱれな撤収だな。」
「そうですね・・・。」
帝国軍・アバロン軍共に少しの勘違いをしていたが、それには誰も気が付かなかった。
それは獣王国軍の弱腰からだ。
<獣王国・宰相派>
宰相領内の執務室にて、領内の統治及びこれからの獣王たちの処遇を考えていると、親派の男爵が入室してきた。 獣王たちを見張らせていた男だ。
「閣下、獣王はアバロン側に亡命しようとしているという話が出ているとの報告が!」
「やはりそうか・・・。 ここは彼らには消えて頂きますか・・・。」
「本気ですか・・・?それは背信になりますぞ?!」
「すでに獣王は我らを裏切られておる・・・。 今更・・・軍を進めよ!逆臣を討つ!」
「はっ!」
宰相私兵を中心とした部隊が編成され、王城への進撃が始まった。
しかし、私兵以外は王宮を攻撃することに何かしらの遠慮の様な物があり、作戦開始時から進みは遅かったのは事実。 一方、王宮側はメイドや庭師、雑役夫まで鎌やナイフを持ちだし、抵抗したので進まなかった。 最後は私兵が突撃し、王や妃を自決にまで追い込んだが、銃士隊は予想を超えるほどの被害をもたらした。 300名で1500名の兵が死傷したのだ。 戦死者は100名程度だが、負傷者がその何十倍もいたのだ。 その為、最後の詰めをしきれずに50名程度を取り逃した。
貴族の私兵が、10数名を殺害に成功したが、それ以外は帝国軍陣地に逃げ込まれてしまう。 それどころか、帝国軍陣地に矢を撃ち込んでしまい、大義名分を与えてしまう。 これはチャンスだと、帝国とアバロンが逆侵攻を開始し、あっという間に獣王都とその近隣の町と村を取られた。
こちらは士気が低い兵が多かった為に、帝国軍とアバロンの旗を見たとたんに退却をしてしまい、迎え撃つことも出来ず。
結局、宰相領の端に設けた関所を最前線の守りの拠点にして、ひとまずの王族殺害作戦の終了を迎えたのだが、守備兵力の半数近くを死傷させられた事で、実質的休戦となった。
<帝国側>
アバロンが用意をしたホテルの一室を司令部にした帝国軍総司令部では、今回の獣王都占領に沸いた。
「我が帝国の武を示せたぞ!」
「帝国万歳!帝国万歳!」
「陛下!我が帝国はアバロン殿に明確な戦果を示せましたぞ!」
「そうよな。 これも精強なる貴殿ら将兵の日頃の訓練の賜物ぞ!褒めて遣わす。」
「「「「「はっ!有り難き幸せ!」」」」」
そこにいた全員が喜びを隠せない顔で見ている。
目立たぬ平定戦をして、獣王国と公国を追い詰めるも政治的にも戦果が足りず、紋々としていた司令部に分かりやすい戦果報告が彼らを喜ばせた。
「公国も支配地域を固める事で忙しく、こちらには挑めん。 獣王国も最後の宰相の領地のみの親派の貴族達と共に閉じこもった。 実質、休戦となった。 これで義兄殿に交渉が出来る・・・。」
「おめでとうございます。 これで帝国の存在も確固たるものになりますな!」
「焦るな。 策は急くとしくじる。」
「はっはっは、失礼しました。」
「気にするな。 そろそろ使者が来るはずだ。」
そう言っている彼らの元にアバロンからの使者が来て、帝国の首脳陣はこれから迎える黄金時代を思い描きながら嬉しそうにしていた。
「では、参ろうか・・・。」
「はっ!爺がお供します!」
「そうだな。 老将。 供をせよ。」
帝国の若き帝王である彼は、愚兄や父が成し遂げなかった事を成し遂げた。
運も味方をした。 実姉が勢いのある自治領主の正妻の地位を得て、後継ぎを産み落とした。 それどころか、その姉からも支援の要請があり、それに応じて彼の存在を示した。
今戦争でも大部隊を派遣し、軍としての存在も示した。 止めに獣王都の占領という戦果を示した。
交渉の材料を手に入れることが出来た。
「我が帝国の新たな一ページが開くな・・・。」
「御意」
老将を率いた帝国の若き帝王は、意気揚々と交渉のテーブルに着いた。
そのテーブルには、議長でもあるマサルと実の姉、マリアも席に着いた。 他にアバロン軍の3軍長、小国連合の長も座ってはいたが、空気と化している。
その中で開催される今会議は、切り取った領地の取り合いになる。 さあ、頑張るか!
帝国の王は、他の者に見えぬ様に舌なめずりをしたのであった。
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