開戦⑨
そろそろ終盤を迎えます。
存亡の危機を迎えつつある獣王国。
<アバロン総司令部・マサル執務室>
アバロン軍の一応の戦闘が終わり、獣王国連合側の領地を占領作戦に移行ししていた。
しかし、主攻はアバロンではなく、帝国であることにマリアとジョアンナがやってきた。
「旦那様、弟に華を持たせてくれるのは嬉しいが・・・。」
「なぜ、アバロンではないのですか?」
「・・・。 当然の疑問だな。 まずは帝国の今までのアバロンへの手柄は何かな?」
「「はっ?」」
「二人の思いつく限りで良い。 言ってみてくれ。」
「はっ、はい。 では私から」
まずはマリアが名乗り出た。
「一番は旦那様がいない際に我が国の後ろ盾になった事です。 それと戦闘時の後方支援です。」
「そうだな・・・。 マリア、ありがとう。 それに対してはマリアが行なった対価としての交渉による通商等の利権を得た事。 今開戦に参加した事だ。 後方支援はあくまで役割分担だ。 正直、これで強気の交渉は無理だ。 すべてをこちらの匙加減で決められてしまう。 意見が出来ないのでは駄目だ。」
「では、マリアの産んだ子供達の教育係や世話役の派遣は?」
「それは効果が出るのは、子供が成人になってからだ。 まだ薄いな。」
「では、弟は・・帝国は最初から出番がないかもしれない状態で参戦したということか?」
「それはないな。 君の弟はこちらの状況を知っていて、このような情勢になるであろうと予想し、参戦を決めたはずだ。」
「ではあちらはそれを予想していたという事ですか?」
「多分な。 ただ、揉めないとも限らんからうちの部隊は必ず帯同させるように手配はしてくれ。」
「畏まりました。 そのように。」
アバロン軍内部で占領軍の帝国軍に帯同する部隊編成が行なわれることになった。
様々な対策は打たれることになった。
<帝国側>
アバロン領内に設けらた帝国軍司令部の建物は、高級宿の一つだった。
そこに現皇帝が直接指揮をとっていた。 そこにアバロンから敵国への占領作戦に主として、進むことを告げられると、多くの将官・文官が喜んだ。 ただ一人を除いて。
「我らが力、見せる時が来た!」
「我が武、御披露仕る!」
盛り上がる将官たちに皇帝は声をだした。
「貴公ら、何をはしゃいでおる?」
「!!!・・・・いや、その、申し訳ございません・・・。」
代表と思われる男性が、頭を下げると他の一同も同様に下げた。
彼らの様子をみて、ため息交じりの声で話をした。
「これから向かう所は貴公らの武を示す所ではない。 求められるのは、柔軟な対応力よ・・・。 多分だがな、我らが貴公らの言うように武で占領しようとすれば、愚兄たち同様に我らは消される。 これは確定事項だ。 アバロンが望むのは、無人の野を行くような迅速な占領と民を傷つけないで統治を納得させる交渉力だ。」
「それは・・・。 困難を極めますぞ?」
「しかし、やらねばならん。 ここで結果を出さなければ、我らは後ろから殺される。」
「「「「「!!!!!」」」」」
「そんな!陛下はアバロン殿の奥方様の弟、ご子息の叔父になられますぞ?!そのような・・・。」
「我らはこの戦いでは、手柄が薄い。 それにこれまでの後ろ盾もマサル殿が姉上を廃してしまえば、それまでだ。 だから我らはアバロン側に確たる功績を見せる必要がある。」
「そのチャンスがこれだと、おっしゃられますか?」
「そうだ。」
皇帝の言葉に勘違いをしていたことに気付いた。
それと同時に困難極まる戦いに挑まねばならない事実に言葉を失った。 特に交渉を担当する文官達は顔面蒼白になっていた。
面々の顔を見渡した皇帝は立ち上がり、全員に伝えた。
「表を上げよ!我ら帝国はアバロンの何十倍の歴史と経験がある!それを今使わずして、どこで使う?我が帝国の底力を見せる時ぞ!」
「そっ、そうだ!我らとて、民の為に奉仕をしているのだ!場所が変わっただけだ!」
「やることは同じ!何するものぞ!」
「「「「「そうだ!そうだ!」」」」」」
文官・武官共に腕を突き上げ、鼓舞し合った。
帝国は以前より連携と個々の戦力が上がっている。 愚兄が率いた帝国よりすべてが向上したという自負がある。 その真価が問われる時が来ただけだ。
「貴公らの兵士や騎士にこのことを徹底し、今作戦に心血を注げ!」
「「「「「はっ!御心のままに!!!!」」」」」
「「「「「畏まりました!!!!!」」」」」
皇帝の言に全員が臣下の礼をとり、おのれの場所へ散って行く。
これから帝国がアバロンから真価が問われる大作戦が行なわれる。
「この作戦を成功させ、アバロンに帝国の精強さと影響力を示してやる・・・。」
彼の独語が今は静かに消えていった。
<アバロン司令部・マサル執務室>
帝国がアバロン軍の随伴軍と共に獣王国に進軍を開始したという報告を静かに聞く3人がいた。
マサルとマリア、ジョアンナ。
「賽は投げられました・・・。」
「そうだな。」
「旦那様・・・。 もし、もしあの子がしくじった際は実行されるのですか・・・?温情は頂けませんでしょうか・・・?私はどうなっても構いません。 再考は・・再考は頂けないでしょうか・・・?」
ジョアンナは事実のみを俯き加減に伝えた。
マリアはこの作戦でしくじった際は、アバロン軍が弟を含めて葬られる事を感じていたからだ。
「君が何を言っているか、分からんな。」
「ですが!「マリア、黙って」でも、アンナ!貴方からも言って!」
「マリア、これは帝国の真意を問われているの。 ここで我欲に走るなら先代と変わらないわ。 そこを彼らは示さないといけないの。 貴方も皇族だったのだから分かるはずよ?」
「でも!でも・・・ううっ、唯一の身内が・・・ううっ」
余りにもの非情な選択にマリアは項垂れてしまう。 それをジョアンナは近くに座り、諭した。
「あなたの弟さんは、そこまで愚かではないはずよ?そうでしょう?」
「確かにそうだけど・・・でも・・・。」
「酷いかもしれないけれど、姉として弟の事を信じてあげる事も姉の仕事だと思うわよ?」
「アンナ・・・。」
「大丈夫だから・・・出来るはずよ。 貴方の弟は。」
ジョアンナは、項垂れたマリアを抱きしめた。
抱きしめられたマリアも涙を流しながらもジョアンナに抱き着いた。
彼女は覚悟を決め、弟の仕事を見守ることにした。 最悪な結果になろうとしても。
<帝国軍・司令部>
作戦は順調に進んでいた。 占領というより警備隊を各村等に派遣するような形で兵や騎士を配した。
遊撃隊を幾つも編成し、即応隊として各地に飛ばした。
軍を全体を縦割りで区分けして、シンプルにした。 互いの境界は助け合う形で進め、臨機応変に対応したので、盗賊や魔物もうまく処理をしていく。 その為、一か月で全体の3割は統治が出来、さらに3か月後には、公国暫定政府領から数キロ手前まで、獣王国獣王都手前10キロまで進むことが出来た。
その後は統治等の問題を解決していく所まで持っていった。
「陛下。 わが軍は上手く進攻がうまく行きました。 これも陛下の行いの結果ですな。」
「世辞はよい。 前線にいる兵達の功績だ。 感謝しかないな。」
「そうですな。 彼らも陛下の偉業に関わることが出来て、光栄に思っているはずです。」
「だとよいがな・・・。」
「あとは陛下に伴侶が出来たら私も安心が出来ます。」
「今は戦時ぞ?」
「陛下ももう妻を迎えても遅いくらいですぞ?だれかいないのですか?」
「・・・。 貴族の娘は愚兄たちの同じ匂いがする。 いらん。」
「ですが、後継ぎは必要ですぞ?」
「気が向いたらな。」
「陛下・・・。」
「今は作戦に専念せよ!これは命令ぞ!」
「はっ・・・。(誰か世話をせねばな・・・。)」
昔から彼に仕えた老臣のお節介は、戦闘の途中ですべてが吹き飛ぶことになる。
それはまだ訪れていない・・・今は。
<アバロンサイド>
帝国軍による融和侵攻作戦は、うまく行った。
アバロン軍の助力もあったが、数に任した作戦と互いの部隊の連携と文官達の血が滲むような努力が、実を結んで獣王国は、北の宰相の持つ領地と獣王都のある領地のみに。 公国も共和国内の政府庁舎のある街を中心に20キロ圏内のみが支配地域に縮小した。 獣王国以上に混乱のある為にそれも怪しいが。
「思いのほか、うまく行ったな・・・。」
「はい!やってくれました!」
「・・・。 そうだな。」
「ですが、この戦況が獣王国内に少し不穏な空気があります。 そこが心配です。」
「ああ、報告は貰っている。」
「やはり宰相派と王宮派の対立が浮き上がっています。 大多数派の宰相派と、少数精鋭の王宮派です。 王宮派の最高戦力が、我が国が訓練した『銃士隊』300名。 宰相派は宰相の私兵隊2000名で、兵の数は6対4で王宮派が負けておりますが、戦力は集中してます。 ただ、宰相派の兵に囲まれております。 宰相派は包囲は出来ていますが、駐屯兵が多く、騎兵も多いわけでは無いので、互いに歩兵が多いですが、遠距離兵器が弓や投石のみの宰相派ですが、銃や機械弓装備の王宮派はそこがアドバンテージです。」
「しかし、彼らも今は呉越同舟の身。 暴発するには無理がある。 我らに大義名分を与えてしまう。」
「それでも一つにするためには、考えられる事です。」
「・・・。 王宮派に人を。 場合によっては作戦が必要になる。」
「はっ、すぐに。」
マサルは以前にジョアンナの言っていた獣王の隠し子の事を思い出していた。
宰相が知らないという事はないはず・・・。
もし、クーデターを実行するなら王宮派の戦力を各個撃破しながら王と唯一の血を受け継いだ彼女を消し去る必要がある。 二人を消すことに成功すれば、一つにまとまるからだ。
「これからどう転ぶか・・・。」
「閣下・・・。 出来るだけ情報を集めてくれ・・・。」
マサルが懸念している事が起きないことを願ったが、獣王国内の政情はあまりよくない。
王城は半壊し、他の政庁舎や騎士団駐屯地は荒野になり果てた場所もある。 要害という場所も応急処置だけしたという状態だった。
アバロン軍の空襲が齎した結果だ。
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