開戦③ 獣王国連合の困惑と誤算
予想と違う事はよくありますが、体験をしていない人はそこは予想は出来ません。
とはいえ、それでも時は流れます。
獣王国を主体とした連合軍は当初の計画を大幅にずれている事に困惑した。
まずは傭兵団の独断による開戦。 それどころか、アバロンサイドの使者を2名殺害という暴挙に出た。
それでも勝てば、よかったのだがどうやら負けたらしいというあいまいだが、情報が流れてきた。
「先の情報の確認はまだか!」
「今、確認の者を走らせております!」
「急がせよ!大至急だ!」
「はっ!」
伝令役の兵士がすぐに飛び出していった。
初手で傭兵団が戦場の礼儀を無視し、先陣が大損害を受けたらしいという事を朧げな報告を受けたが、どれほどの被害を受けたかは不明だった。
やらかした傭兵団は素行に問題はあるが、有力な傭兵であったことは事実で、過去にもいくつかの戦闘や依頼をこなしていた。 しかし、礼儀を無視したことは無視できず、彼らの拠点すべては接収し、財産は没収し、そこにいたスタッフは全員が奴隷となった。 没収した財産は、民兵や義勇兵の見舞金に充てられることになった。
「あの連中はしょうがないですな・・・。 この大事な時にやらかすとは・・・。」
「仕方がありません。 彼らは無学者。 礼儀の尊さを吐き忘れたのでしょう。」
「しかし、この状況はまずいぞ・・・。 すでに前線に近い有力な兵団と拠点が、謎の攻撃を受けて大損害を受けている・・・。」
「先陣には、比較的損害が出ても痛くない部隊を配しましたが、後方支援が得づらくなるのは、拙いですね。」
「先の不明な攻撃はアバロンしかないが・・・。 第二陣はどうしている?」
「もっか、アバロン前線に向かうべく、進軍を継続中です。 アバロン偵察部隊と思われる部隊の接触があるそうですが、敵は恐れをなして逃げているそうです。」
「はっはっは!そうか!それは傑作だ!やはり奴らは案山子だ!銃という武器がなければ、ただの農民や難民だ!恐れる事はない!」
「「「「そうですな!」」」」
「「然り然り!」」
先陣部隊の詳細が、来る前までは総司令部も緩んだ所があった。
しかし、一人だけその報告を疑問視する軍人がいた。
元輸送部隊の護衛隊長だった男だ。 彼はアバロンのトップが、自国出身であることは知っている。
そして、自国の軍事教練を受けていれば、直ぐ撤退したのは情報を持ち帰るために下がった事は言うまでもなかった。
彼らはそれに気が付かないのか?普通ならそうするだろう?いや、彼らは貴族。 前線に出ている事もない人々だから気が付かないんだ。
彼はそばに控えていた部下にある命令を伝える。
出て行く兵士を視界にとらえた獣王国貴族の一人が、声を掛けてきた。
「貴様、今何を伝えた?」
「はっ、部下に警戒するように。 すぐに出れる様に準備をするよう伝えました。」
「貴様!誰が許可した!」
「ぐはっ!」
声を掛けた貴族は持っていた金属製の錫杖で、彼の横顔を殴り倒した。
食らった彼は椅子から転げ落ち、殴られた箇所に手を当てた。
怒りの収まらない豚獣人の男性貴族は、さらに彼に近づき、ひたすら顔や腹部に蹴りと錫杖を振り下ろし続けた。
ひとしきり殴り倒したことで息が上がった男は、捨て台詞を吐く。
「ブヒー、ブヒー・・・今回はこれくらいにしてやる・・・。 今度、余計な事をしたら殺すからそのつもりでいろ。」
「ぐふっ!申し・・訳・・ございません・・・。」
「おい!この役立たずを摘み出せ!」
「はっ!」
他の貴族も嘲笑しながら部屋にいた兵に伝えた。
彼は無理やり立たされると、部屋の扉が開けられ、そこから投げ捨てられた。
廊下の石畳にしこたま体を打ち付けた姿をニヤニヤしながら扉を閉める獣人兵達。 彼にとってもここでは公国兵士は、奴隷以下の扱いだった。 詫びの品だから。
「くっ、くそう・・・。」
「隊長!大丈夫ですか?!」「隊長!」
廊下で悔しい思いをしているときに外で様子を見ていた部下が、走り込んできた。
彼らも同じ思いをしていた。
「お前たち・・・大丈夫だ・・・。 ちょっと横顔を撫でられただけだ。」
「いや、そんな傷じゃないですよ!さっ、ひとまずは戻りましょう。」
上手く立てない自分を両脇から支えてくれる部下二人。
彼はどんな境遇になろうとも支えてくれる彼らを誇らしく思った。 そして、なんとしても生き残ろうと思ったのだった。
しかし、状況はそんな隊長の気持ちを無視した。
徐々に上がる先陣の情報が入ったからだ。 その他にも多くの被害が各地から入った。
「そんな・・・先陣部隊の生存者は100名にも満たんとは・・・。」
「有力な傭兵団の3つが壊滅。 帰還した傭兵は10名にも達しません。 それも全員が大怪我をしておりまして、戦える状態ではありません・・・。」
「義勇兵・民兵は200名はいますが、彼らは恐怖から戦闘は無理と判断します・・・。」
「結論が聞きたい・・・。 先陣部隊で戦える兵はいくらいる?」
「・・・恐れながら・・・いません。 戦えてもアバロンを見たら逃げ出します。 恐怖で支配された者は部隊の崩壊のきっかけになります・・・。 いても置かないことが賢明と愚考します。」
「・・・わかった。 下がれ。」
「はっ、失礼します。」
先陣部隊の惨状に言葉を失う議場に誰も声が出せない。 昨日はあれほど意気揚々と、していたのにだ。
彼らの報告にも穴があった。 航空隊の事をあいまいな報告にしたために情報の取捨をする際に添削されている事に誰も気づかなかった。 報告した帰還兵も、報告を受けた審問官も。
「第二陣に公国を入れるか?」
「ひとまずは護衛部隊だった連中を入れよう。 少しは使えるはずだ。」
「分かった。 そうしよう・・・。」
こうして人質の公国兵を投入することが決まった。
その半死兵となる彼らが、アバロン軍に損害を与えた唯一の部隊となる。
しかし、この時は誰も知らなかった・・・。 あの瞬間が訪れるまで。
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