開戦①
これから数回に分けて戦闘回を書いて行こうと思います。
頑張ります。
前線から齎された訃報は、後方にある総司令本部にも伝わった。
司令部内でもあった事のない女性指揮官と従兵の死に悲しみが押し寄せた。
「口上を述べる際は、互いに手を出さないというのが、習わしだとか言っていただろうが・・・。」
「相手は傭兵だったそうです・・・。 それもあるかと・・・。」
「だからとしても・・・無常だろ・・・?」
マサルの独り言も今では空しく響いた。
彼らの言いたい事をマサルが言っているので、黙っているからだ。
口上は交換しているとの話もある為、マサルは全部隊に出撃待機と砲撃命令を下した。
まずは先鋒軍が、件の傭兵団であるために砲撃部隊も測距隊も徹底的に叩くつもりで必殺弾が装填されていく。
「砲兵隊に連絡!砲撃座標に向け、砲撃を開始せよ!」
「了解!念の為に前線部隊の兵は遮蔽物に退避せよ。」
「了解!頼むぜ!」
「任せろ!」
砲兵隊通信兵の返事に歩兵隊は一斉に塹壕内に隠れた。
砲兵隊陣地では、自走砲やロケット砲にカノン砲、榴弾砲が一斉に火を吹いた。
砲兵陣地では、多くの兵士や車両が行きかい、次々と砲撃されていく。
発射炎と火薬煙で空を真っ赤にした。
彼らの必殺の一撃ともいえる榴弾・ロケット弾や対人用砲弾などの多種な砲弾が、最前線の獣王国側の先鋒隊全体を面で叩くために飛んでいく。
その破壊力は車両が居たとしてもオーバーキル気味で、叩き込まれた。
<獣王国・皇国連合側>
先鋒の兵団を構成している傭兵団の一つ、傭兵団『雷の刃』は札付きの兵団であった。
構成員300名を数える有力な傭兵団ではあるが、口上を省いて襲い掛かるや捕虜を拷問や凌辱をするなんて当たり前の傭兵団だった。
二人を殺したのも彼らだ。 しかし、アバロンの無慈悲な攻撃に晒されたのは他にも傭兵や傭兵団は元より民兵や義勇兵も含まれていた。
「しかし、団長~。 あの女エルフぐらいは殺さない方が良かったんじゃないですか?あのエルフも悪くなかったですよ~。」
「確かにな~。 でもよ、口上述べた使者を連れ出したらそれこそやばいだろ?戦場のドサクサに女を奪うのが良いじゃねぇか~。 ドサクサなら死んだことにされるしな!」
「「「「「「ちげぇねぇ!ぎゃあ、はっはっはっ!」」」」」」」」
彼らは周りの部隊と共に進軍を開始してる。
馬上の人でありながら、下世話な事を言いながら距離を詰めていた。
彼らの中ではすでに先鋒陣地内の蹂躙後の分け前の事しか考えていなかった。
その彼らの頭上を少し間延びした音が響いた。
「なんだ?あの間延びした音は?」
「ん?」
ヒューーーン、ヒュルルルル!ヒュウウウウウーーーー。
「団長!空に白い雲がこっちに向かって来ます!」
「あれが『破壊の白雲』だ!弾避けの護符をだせ!凌ぐぞ!」
「「「「「「「了解です!!!」」」」」」
グワン!ドカン!ズズン!
様々な着弾音と共に先鋒軍を覆いつくすように砲兵隊の砲火が包んだ。
しかし、アバロン側からすれば、予想と違う光景が映っていた。
<アバロン側>
砲撃中の様子を双眼鏡や単眼鏡で見ていた隊員達は目の前の状況に驚いていた。
「嘘だろ?!あいつら倒れないぞ?」
「・・・。 いや、倒れている。 しかし、弾が避けてる?だが、着弾時の衝撃波と破片や弾かれた石とかでダメージを受けているようだけど・・・。 あちらも対策をしてあるな・・・。」
「どうします?そうなると機銃も無理では・・・?」
「いや、すべてではない。 一部だ。 だが、対策をせねば・・・。 迫撃砲と擲弾銃の準備もしろ!複合攻撃で対策をする!」
「「「「了解!」」」」」
前線指揮官の指示で軽迫撃砲とピストル型の擲弾銃が準備され、パンツァーファウストも追加で持ち込まれた。 そうした上で機銃や小銃を相手に向け、構えた。
護符のお陰か、戦場を渡り歩いた強運が影響しているか不明だが、先鋒部隊の半分強が砲撃の中でも突撃をしてきた。 被害がないわけではないようでよく見れば、馬だけという騎馬もあった。
歩兵隊はさらに悲惨だったらしく、結構な被害が出たようだ。
今度は俺らだと、鉄条網を前に前線指揮官が指示を出した。
「敵が鉄条網に取り付いたら、攻撃を開始する!対策を打っていそうな集団が居たら、擲弾をぶち込め!よく見ろよ!用意!撃て!」
「「「「「了解!」」」」」
縦深陣地を形成している陣地から一斉に鉄条網前でもたついている敵に対して、スコール様な銃弾の雨が襲い掛かった。
「ぎゃっ!」「ごはっ!」「何?がっ!」
「敵からの攻撃です!」
「そんな事は分かってる!こちらも撃ち返せ!」
「我が方の銃は、ここからでは届きません!もう少し近づかないと・・・。」
「ならば、急げ!全滅するぞ!」
「棘のある針金が敵の前にあり、進めません!」
「魔法使いに破壊させろ!」
命令で傭兵団や民兵の中で攻撃魔法の様な物が使える者が、連れてこられて近づこうとしたが、そもそも防御が紙の魔法使いは、銃弾の雨が襲ってくる場所では守られていながらも次々と屠られていく。
陣地からは銃弾雨の他にスナイパーのライフルや固まった場所に擲弾をぶち込む事になっていたからだ。
10人程の魔法使いを犠牲にし、兵も60人は死傷したのちに数メーターほどの突破口が出来た。
「突破口が出来たぞ!突撃ぃぃぃぃ!」
「突破を許すな!擲弾、機銃を撃て!」
数メートルほどの突破口は、この戦闘で一番の激戦となった。
意地でも通ろうとする攻め手と突破させまいと、擲弾や小銃弾や機銃弾を叩き込む防衛側。
その突破口は死体が通りを作る状態になった。 それこそ血で血を洗う状態に。 敵のみだが。
混戦の中では弾避けの護符も使えない様で苦労していた彼らに引導を渡すべく、新たな刺客が送り込まれた。
轟々と、発動機音を響かせながら進む双発機『一式陸攻』の編隊がやってきた。
先鋒軍の息の根を止めるべく、飛来した爆撃隊は中型機と小型機の混成隊に戦闘機隊が護衛をして、やってきた。
「航空隊だ!」
「おおっ!」
いち早く発見したアバロン兵士達が、指をさして友軍の到着に歓喜した。
一方、敵方は突然の航空隊の到来に上を見ているだけで固まってしまった。
「なんだ?あれ?」
「何かはわからん・・・。」
「司令官!指示を!」
「はっ!そうだな!空のはこけおどしだ!進めぇ!」
「「「「「おおおっ!」」」」」
航空隊はこけ脅しと、決めつけた傭兵団の一つの幹部の声に先鋒軍は、そのまま突撃した。
その航空隊が一番の破壊力を有していると知らずに・・・。
<航空隊側>
基地を飛び立って一時間程度で、最前線の戦場に来た航空隊。
眼下には砲炎が照らしている戦場がある。 どちらかとしては攻め手が押していた。
「ふむ。 無事に戦場に来たな・・・。」
「機長!眼下に敵軍の集団です!」
「よーし!諸君!彼らに届け物をしてやれ!忘れ物をするなよ!」
「「「「「了解しました!」」」」」
航空隊は、一式陸攻40機に零式戦20機と九九式軽爆10機が出撃していた。
彼らは攻め手の頭上に来ると、抱えてきた届け物(爆弾)を投下した。
100キロ以下の軽い爆弾だが、陸攻で60キロ爆弾を12個、九九式軽爆は同じものを6個積める。 零式戦は今回は増槽のみで、爆装はしていない。 それでも60キロ爆弾を540も持ってきた。 それがこれから投下されようとしている。
「爆撃手!操縦を渡すぞ!あとを頼む!」
「了解!もう少し・・・もう少し・・・いまだ!」(カチッ)
爆撃手が投下のレバーを倒す。
爆弾倉から戒めを解かれた小さな破壊者達が地上に舞い降りていく。
リーダー機に続き、僚機も投下していく。 九九式も同様に落としていく。 ここで爆撃隊は帰還。 戦闘機隊は地上を掃射してからくるらしく、戦闘機隊が高度を下げて降りていった。
<先鋒軍側>
「なんだ?あれ?」
上空を進む黒い影・・・。 アバロン航空隊第34爆撃隊だった。
爆撃隊から先鋒軍を包み込む様に540発の60キロ爆弾が降り注いだ。
彼等にとってはオーバーキル状態で、先鋒軍全体が爆弾の雨に翻弄された。
「なんだ!なんなんだぁぁぁぁ!」
「誰か、どうすれ・・ぎゃ!・・」
「そんな・・・そんな事に・・・ぐっ!」
爆弾で弾避けの護符を持つ者は様々な方向から来る破片や石、仲間の得物の一部で体を刻まれる。
直撃はないが、破片までは防げないから切り刻まれる様に食らう。
軽量弾ではあるが、数がある為にそれはもはや虐殺しかない。
爆弾が落ち切った頃には、立っている者は1000もいなかった。
「うううっ、終わったか?」
「これは無理だ・・・。 あんまりだ・・・。」
彼らは最初に卑怯討ちをした事を忘れ、自身の運命を呪った。
彼らの不幸はこれで終われなかった。 護衛の任に就いていた戦闘機隊が低空侵入し、生き残りに対して追撃に来たのだ。
グァァァァン!ガガガガガガッン!
単座戦闘機が数機ごとに纏まって、先鋒軍の生き残りや物資や馬を攻撃していく。
機銃弾より強い機関砲から出される弾は、人では消し飛び、物資は貫通して吹き飛んだ。 その破片すら周りの生き残りが死傷した。 戦闘機隊も残弾がなくなると、飛び去った事で彼らの地獄は終わった。
「うっ、体が・・・。 腕がない・・・?どこだ?」
「俺の、俺の足がぁぁ!」
「おい!起きろよ!起きてくれぇ!」
「ああ、空が青い・・・。 かあちゃん・・・。」
自分のなくなった足や腕を探す者、倒れて動かない戦友に泣きながらゆする者に治療どころか、痛みすらマヒした体で母との思い出を思い出しながら死にゆく者など様々だが、彼らは敗れた・・・。
歩ける者は撤退をし始めてが、整然としたものではなく、雑多なものだった。
<アバロンサイド>
上空の航空隊の絨毯爆弾と機銃掃射で先鋒軍をズタズタにした。 完膚なきまでに。
航空隊の無慈悲な攻撃に相手側に憐れみを抱くと思った兵団の上層部ではあったが、前線からは追撃を打診するものだった。
『こちら第一大隊!彼らの追撃命令を!』
『第二大隊、追撃を意見具申!』
『第三大隊です!一番槍を私どもに!』
『第四中隊です!お願いします!我らに敵討ちを!』
「団長・・・。 いかがしますか・・・?真下全ての隊がすべて名乗りを上げております・・・。」
「しかし、閣下はお許しになられるだろうか・・・。」
「ですが、前線の兵士達が納得しますでしょうか?」
「うむ・・・。 どうしたら・・・。」
司令部はやり過ぎで虐殺や必要以上の行動になる事にも恐れていた。
栄えある兵団の誇りを失わないかを不安が残っていたからだ。 そこに通信が入った。
「兵団長!通信です!」
「どこからだ?」
「はっ!総司令部からです!」
「馬鹿者!それを早く言わんか!」
「すっ、すいません!」
兵団長は座っていた椅子から立ち上がり、通信兵から受話器をひったくるように奪い取ると、自身の耳に立てて、話しかけた。
「歩兵団の団長であります!」
『私だ。 今回の先鋒隊の件で話がある。』
「はっ!総指令官、お伺いします!」
『今回のあちらの不義は許しがたい。 徹底的にこちらの武を示してほしい。 頼めるか?』
「はっ!かしこまりました!」
『よろしく頼む。 以上だ。』
前線司令部ではすべての要員達が、背筋に冷たい物が走るような感覚の襲われた。
前線の総司令官といえ、中央総司令部のそれも全軍を統べる総司令官からの命令だ。
この事実に戦慄した。
自分ら以上に総司令官が怒っていたことに。
この命令の意味を。
「聞いただろ?主攻は第4大隊。 左右を第2と第3に。 第1は陣地の守備だ。」
「はっ?」
「貴様ら!命令は伝えたぞ!伝達せんか!」
「はっ!申し訳ございません!直ちに!急げ!」
団長の命令を思わず聞き流した要員達は、指令を思い出してすぐに各大隊に伝えられた。
その為、第4大隊を中心に3個大隊が動き出し、先鋒軍の掃討作戦が実行される。 特に第4大隊の勢いは凄まじく、辛うじて立っていた敵先鋒軍兵を見つけると、噛みつかん勢いで襲い掛かり、銃や銃底、ナイフや銃剣で止めを刺して回った。 サイドを守る他の2大隊も第4大隊の豹変に驚きながらも同情もしたのだった。
「行け!行け!行けぇぇぇ!小隊長たちの敵討ちだぁぁぁ!」
「「「「「うおおおおおおっ!!!!!」」」」」
「俺らも雇われ・・・ぎゃっ!」
「助けっ・・・ぐあっ!」
第四大隊の面々は、死に体になっていた先鋒軍に噛みついた。
すでに戦意を失っている所に白兵戦の経験のある無傷の戦意の高い兵が襲い掛かった。 勝負は始まる前に終わっていた。
獣人の義勇兵や傭兵は、善戦したが他は元は農民である人が多い為、各個撃破された。
こうして、後方に無事に下がれた兵は100名にも満たない状態になった。
戦争は開戦したのだ・・・。
初戦が取り返しのつかない程に大敗したとしても・・・。
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