嵐の前の静けさ 痛みに酔う者は幻想を見る
マサルはいま、痛みに耐えている。
拷問後の粗末な応急処置から感染症になり、そこから来る熱と痛みで悶えていた。
医師団はこの状況に思いつく限りの処置と治療を行い、今もそれは継続していた。 すべては自身の長を助けるために。
そんな中で痛みを緩和するために微量の麻薬が注入された。
痛みを一時的に取り除くための処置だった。
マサルはその現実と夢が判別が出来ない程に苦しんでいた。
医師団や妻たちの自分を呼ぶ声と夢で自身を呼ぶ声と混同してしまう・・・。
俺は一体・・・。
「聞こえるか?マサル。 いや、雅史君。」
「ここは?」
「ここは生死の境。 君がどちらに行くかで君が死ぬ。」
「君は確か・・・。」
「気づいた?君がその体に入る前に入っていた魂の人だよ。」
「そうか・・・。 おれはやばいのか・・・。」
「そうだね・・・。 でも、どうしたい?」
その後、その何もない空間で彼と話した。
入れ替わってから暫くは姿を見なかった前の、いや元の持ち主。
しかし、今回の闘病で生死を迷っているこの時に現れた。
「そろそろ返す方が良いか?」
「いや、それは無理だ。 君のいる体に僕は戻れない。 一度切れた物は戻らないんだ。」
「そうなんだ・・・。 では、どうして?」
「君に復讐を頼みたい。」
「復讐?なぜ?」
「まずはそこから説明するよ・・・。」
魂のみになった彼の話によれば、彼の居た前線基地は間に合わせの様な物で、一時的な待機所の扱いだったとの事。
そこを拠点にしなければいけない理由は、公国上層部というより司令部により理不尽な指令で装備も不足している状態での反攻作戦を実行させられたらしい。
基地にいた兵士も近隣の敗残兵を混ぜた烏合の衆で、連携も取れなかった。 そこにきて、高度な連携を求められる作戦に参加させられ、臨時編成の中隊は全滅した。
情報管制も不十分な上に装備も不足、兵士間の連携も取れない上に帝国軍の戦闘車両が参加している事も分からない状態で、万歳突撃をせざる得ない状況になったのに記録すら残さない国に復讐をしてくれというものだった。
「それは祖国を裏切ることになるけど?」
「戦友や上官を見捨てた国に何の恩義がある?構わない・・・。」
「親は?」
「いない。 というより孤児だ。 親もない。」
「世話をしてくれた人はいるだろう?」
「孤児院ごと部隊編成をされた。 年少は伝令役で死に、それ以上は戦場で死んだ。 隊長が世話をしてくれた人だった・・・。 赤子は毒で盛られたらしい。」
「惨い・・・。 そこまでするか・・・?」
「公国は駄目だ。 頼む。 徹底的に叩いてくれ。 それこそ中枢を叩いてくれ。」
「分かった。 受けるよ。」
「ありがとう。 そろそろ時間だ。 戻ると良い・・・。」
「良いのか?」
徐々に消えていくからは笑顔で去っていく・・・。
そして、マサル自身もこの空間から消えていく。
「俺も戻れるのか?」
「だと良いがな。」
意識が遠のき、遠くから幾人もの声が聞こえた。
そしてその声に導かれる様にそこを目指している。 そうしているうちに海面に出るような感じになったそうして声が正確に聞こえた。
「マサル様!」「司令官!」「旦那様!しっかり!」「閣下!お気を確かに!」
「・・・ん、ここは?」
「「「「閣下!」」」」「「「「旦那様!」」」」
意識が戻ると、周りにはドクターなどの医療団たち。 首脳陣も多く居り、妻たちもいた。
まだ体を起こすことが限界だが、意識があるから痛みもある。
生きている実感がわいた。
「今はどうなっている?」
「はっ?はい!これから始まる決戦に備えて準備の最中です。 あとは閣下の御採択と敵方の出方次第で変更があるかと・・・。」
「わかった。 少し疲れた。 休ませてくれ・・・。」
「はっ!お休みくださいませ!」
妻たちを含めた大部分が退室し、状態確認のために医師と看護兵、護衛兵数名が残りマサルの診察した。
診察後は入り口に警備兵2名のみが残り、それ以外は退室した。
別室では、妻達が往診した医師に話を聞いていた。
「それで、旦那様は今はどうだ?」
「はっ、申し上げます。 末端の指などは、まだ加療が必要ですが切断の危険は去りました。 体も加療が必要ですが命の危険は去りました。 まだ立って歩くには、まだ無理です。 ですが、車いすでよろしければ、移動も可能です。 その日の体調に合わせて頂ければと、いう事ですが。」
「そうか・・・。 命が助かった事はありがたい。 まだこの国はあの方の存在が必要だ・・・。」
「そうですね・・・。 ですが、助かって良かった・・・。」
「御意・・・。」
妻達は、命が助かった事に安堵しながらもこの後に続く決戦に彼が間に合うのかという言いようのない不安を互いに抱えていた。
その中でマリアは帝国との独断の交渉をしていることもあり、余計に暗かった。
しかし、戦の足音は徐々にアバロンを、帝国を包んでいた。
「旦那様にとって、帝国の交渉が足かせにならない事を祈りたい・・・。」
「マリア、そこは我らも同罪だ。 共に謝ろう・・・。 共に罰も受けるから・・・。」
「・・・。 ありがとう。 皆。」
マリアの不安を妻たちは互いに励ましていた。
別室では妻たちは今までより親密になった。
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