防衛戦
帝国の本格的な進撃が始まりました。
帝国側・本営
「なに?偵察班が4つが行方不明?サボりか?」
「いえ、そのような事はありませんが、定時連絡用の鳩が来ません」
「多分、サボりの際に鳩を逃がしたのだろう。 少しすれば、だれかが来るだろう。 心配するな。」
「かしこまりました。」
帝国側は、今回の定時連絡のない事はただの怠慢だとして、処理した。
しかし、本当に殺されているとは思っていなかった。
今回、偵察班だけで20は出したうちの5分の1が、消えたことを怠慢として処理をしていることが、大国としての奢りがあった。
指揮官も参謀も中規模の国とは言え、消耗している国に準備を万端にした帝国が、負けるはずがないという固定概念にも似たものが、彼らから冷静な状況判断を鈍らせた。
なぜ偵察隊が、いなくなったかを確認をあまりせずまま、進撃を行った。
「このまま、獣王国を蹂躙し、奴隷を量産せねば」
この考えには、多くの下衆な算段があった。
獣人は多産であることだ。 そこを良いようにしている。
トールハンマー側
「敵は偵察部隊が亡くなった所を平気で進軍してきますね。 平気なのでしょうか?」
「いなくなったのは、サボったからだと、判断したようだな。 作戦通り、先鋒をスルーで後続隊に攻撃を加える。 準備しろ」
「はっ!」
眼下を先鋒の部隊が、大挙して進んでいく。 数は数千。
そこは通過させると、後方から二万くらいの軍勢が、馬車や騎獣、使役獣を連れて進んでいる先鋒の部隊の3,4倍はいそうな軍勢だ。 その上、進軍中もあり、固まっている。 最高の標的だ。
「よし!あれを食うぞ。 砲撃準備命令だ。」
「はっ!」
こうして、砲撃部隊の砲門がこの部隊を襲う事が、決まった。
移動式の榴弾砲(120ミリ・90ミリ)、ロケット砲、カリオペ、ヴェスぺ、ネーベルヴェルファーや90式野砲などのほかに大型迫撃砲も投入された。
「砲撃準備良し!」
「発砲命令発令!最初に測距した各々の範囲に攻撃はじめ!」
「てぇぇぇ!」
地面を揺るがすような音と共に多くの火砲が火を吹いた。
地震かの様な地鳴りと轟音を響かせて
中軍馬車内・帝国側
「何の音だ?だれか見てこい。」
「はっ!」
中軍軍司令の高位貴族の男は、自身の乗る豪華絢爛な馬車内で、妾の女性の体を撫で回しながら酒を飲んでいた。
「こんな楽な戦はない。 消耗し、食料のない獣たちがこの先で愚かにも待ち構えているという。 こいつらを叩きのめせば、王宮まで障害はない。 楽だな。」
「ですが旦那様?敵には味方している傭兵団がいるそうですよ?平気ですか?」
「高々、数百しかいないそうだ。 鎧袖一触で踏みつぶしてくれん。」
「まあ、頼もしい。」
「そうであろう?まずはお前の体で、火照りを鎮めるぞ」
「はい。 どうぞ」
こうして、妾の女性に襲い掛かろうとしたときの大慌てをしている従者の男が、駆け込んできた。
「将軍!退避を!馬車は危険です!」
「何を言ってるんだ?詳しい・・・うわっ!」
「きゃあ!」
大きな音と共に乗っていた馬車が、ひっくり返った。
2・3回は転がった後は、馬車はあまり原型をとどめていなかったが、大将は助かった。 すぐに家来たちが駈け寄ってきた。
「旦那様!大丈夫ですか!」
「私は平気だ!ナターシャは平気か?ナターシャ?」
打った頭を抑えながら彼女がいたであろう場所を見ると、彼女はいた。
扇情的な衣装を身にまとったままの姿で、胸を折れた柱に貫かれた姿で。
「ナターシャ!」
「いまはそれどころではありません!急いで脱出を!」
「ええい、離せ!」
彼は必死に離れようとする従者たちを振り払い、再び躯となった妾の元へ行こうとした。
その瞬間に後ろから押されたようになり、馬車に放り込まれた様になった。 従者が蹴とばしたと勘違いした男が振り返ると、さっきまで自身を抑えていた部下が、跡形もなく消し飛んでいた。 よく見れば、手を引いて助け出してくれた兵士が被っていた兜が、半分になった状態で転がっていた。
「私は一体、どんな相手と戦っているんだ?」
将軍と言われていた男性は、自身が相手が誰かが分からないまま、降り注いできた榴弾砲の雨の中で自身の侍従を消したのと同じものを食らって、愛すべき妾と共に馬車ごと消し飛んだので、あった。
トールハンマー・指揮所
帝国中軍を双眼鏡でのぞき込んで、戦況を確認する。
その後方に据え付けられた通信ブースでは、諸元の変更や陣地の移動指令が、飛び交っていた。
「中軍の攻撃は、思いのほかうまくいっているようだな。」
「数に頼んで、力押しできると思っていたんだろう。 油断しすぎだな」
「副官殿ならこれからどう動きますか?」
「どうにもならん。 ここまで混乱した部隊では、連れていける部隊だけでも連れて、脱出しかないし、それもうまくいくとは、思えないな。」
自身も蹂躙された経験のあるユリーダは、淡々と双眼鏡から見える帝国の惨状を見ていた。
数か月前ならこの状況を理解できなかっただろうな・・・。 今は指令を知ってからは、理解出るようになれたが・・・。
彼女の眼下には、中軍があったであろう場所をトールハンマーの砲弾が、耕している音と後ろから聞こえる副指令が、通信の指示をしている声と複数人の通信担当者の前線部隊への声が、聞こえる。 それが現実だった。
「そろそろ先軍と後軍からの応援はどうか?」
「そこは心配ないわ。 後軍は車両部隊が圧力をかけているから行けないわ。 自分の護衛は割かないわよね?」
「あとは先軍か・・・?」
「それも足は止まるわよ。 ほら」
副指令が指さした先には、少ないが航空部隊が発動機の音を響かせながらやってきた。
僅か数十機の航空機。 それが戦闘機と偵察機の混成隊が、爆撃体制で先軍の先頭に投弾しようと高度を下げている。 結果はたった50キロ以下の爆弾30個以下で、足を止めてしまった。 それが軍全体で伝わるのには、時間がかからなかったらしく、そこへ対空榴弾夕弾を投下した陸攻隊が攻撃する際には、完全に進軍が止まっていた。 陸攻隊はその中央に投下。 その落ちてくる火の粉で混乱が生じ、追いかけてきた獣王軍との戦闘も遅滞戦術で、退却するしかなくなった。 この頃には中軍攻撃部隊も後方へ退却をしていた。 弾切れだからだ。
帝国側・軍司令部
帝国側は、今回の攻撃での被害に青ざめていた。
先軍は1割程度の被害で済んだが、中軍はほぼ壊滅で、指揮官などの中枢は全員が戦死、残った部隊は後軍に編入した。 後軍もトールハンマーの車両隊に馬車や馬、物資を集中的に攻撃されたために中軍の物資を出来るだけ回収してひとまず落ち着いた。 中軍は物資も攻撃を受けたが、砲撃であった為に穴が出来る。 そこには手つかずの者があった事が幸いし、回収した。
戦力は5分の3に落ち、物資と荷駄は大打撃を受けた状態では戦えず、後続の応援が来るのを待って、持久戦になった。 対峙する獣王国軍と数キロの距離を開けて相対した。
「傭兵団は数百じゃないのか?なんで中軍は壊滅した?」
「それはわかりませんが、我が帝国の物より性能の良い物の様で、連発が出来るようです。 あと地面が捲れ上がるほど穴が開いたとのことですが、これはあらかじめに爆発する何かを仕掛けておき、それに点火したと思われます。」
「だとしても今の兵力では、不安がある。 救援を待とう。 後続からの物資もくるであろう。」
「はっ。 少し英気を養いましょう。」
帝国と獣王国は、それから小競り合いを続けて互いの後方からに増援に期待をしていた。
トールハンマーは、攻撃部隊の兵器の養生と整備に忙しかった。
「どうだ?」
「あっ、指令殿。 はい、残念ですが砲身交換が必要なものが多いです。 まあ、あれだけ撃ち込んだので、弾もないしでどうにもなりませんが。」
「次の補給で出来るだけ戦線復帰をする兵器を増やそう。 すまんが、頑張ってくれ」
マサルはそういって、ドワーフの整備兵たちの傍にウォッカの中瓶を置いていく。
何事もモチベーションが大事だから。
そのまま、後退先の宿営地の陣幕へ向かった。
陣幕には、傭兵団の副団長でもあるジョアンナが書類に目を通し、実働部隊の長でもあるユリーダが各部隊と連絡を通信兵を使って確認していた。 陣幕内の指示はユリが行っていた。 衛生兵のエリザは、野戦病院へ行っており、ここにはいない。
「どう?整備部隊は?」
「芳しくはないね。 やはりあれだけ砲撃をしたしね。」
「兵士も疲労困憊だね。 ほぼ全部の部隊から聞こえてくるよ。 特に砲兵は全滅だね。」
「仕方がないわ。 各砲とも焼き付くかというほど撃ったからね。 相互撃ちでもここまで被害を打撃を与えたのだから、褒められることがあっても侮辱される謂れはないわ。」
「でも、言ってくる輩はいない訳じゃないから気を付けないとな。」
「ひとまず話をして、慰撫の品々を置いてきたよ。」
「今は出来るだけの整備と休養しかうち等には、取れないわ。 文句を言ってきたら噛みついてやる。」
「・・・。 出来るだけ穏便にお願いします。」
陣幕内で書類整理をして、後方へ下がっていくトラック部隊の一部にアバロンに送る書類を託し、自身も休むために寝床用の陣幕へ向かった。 しかし、そこには先客がいた。
「よっ、隊長。」
ユリーダだ。 彼女は砲兵に近づく敵兵を排除する部隊を指揮していた。 疲れているとは思うが、来た理由は一つだった。
「辛くなった?」
「すまない・・・。 でも、火照っちまって辛いんだ・・・。 後生だ。 情けを頂きたい・・・。」
「・・・。 自分も人肌が欲しかったから良いさ。 文句は言うなよ?どうなっても」
「それは平気さ。 よろしくお願いいたします。」
こうして、人肌で温い寝床で夜が更けていくのでした。
今作品と共にもう一つの方もよろしくお願いいたします。
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