取り戻す記憶
ずきずきと痛む頭。
頭痛は次第に強さを増して体力を削り取っていく。
息もきらし何処とも知れない人が行きかう歓楽街の様な店の路地裏にひっそりとして体を横たえさせた。
懐かしい。
最初も路頭に迷った時はこうしていた。
「うぐっ」
ちらつくようにフラッシュバックする記憶。
自分がいったいどういう存在であったのか。
何故、記憶がないのか。
その事実が次第とわかりだす。
「そうだ、俺はあの時一度死んで――」
理解した時に遠くで爆音が聞こえた。
続けるように人の悲鳴が上がり、何十人何百人もの人が大通りを走りだしていた。
路地裏から抜け出し爆音のした方向を目を細めて確認した。
「奴らの仕業か」
俺を追いかける奴らの正体も理解していた。
彼らは二度目の人生において俺が暮らした異世界の敵対者たち。
異世界においてありとあらゆる犯罪行為を行い、反逆者として指名手配されていた。
「そうだ。俺は王女とともに彼らと戦ったが――」
眼前に何かが飛来した。それは大きな火炎の塊だ。
激しい爆炎が熱風とともに押し寄せ俺を吹き飛ばした。
何かの店の家屋に突っ込んでしまい眼前に瓦礫が落ちてくる。
視界が暗転し、肺から何かが込み上げ吐き出す。
それはたぶん、血だろう。
「おいおい、この程度かぁ? 勇者レイジ」
トカゲの造形をした姿の人がゆっくりと瓦礫山の隙間を通して歩み寄るのを確認した。
彼の名前が脳裏を掠めておもい出す。
「アルバージャ・アルドラゴ」
「っ! なんだぁ? さっきとはまるで雰囲気が違うなぁ?」
「いろいろ思い出したんでな」
瓦礫の山を押し上げて血反吐を吐き捨てる。
この世界では彼らは侵入者。どういう経緯で彼らがこの世界にやってこれたのかはいまだに思い出せないがあの王女が死んだ時の光が何かかかわってるに違いない。
異世界言語を用いて彼は獰猛な笑みとともに毒を吐く。
「てめぇのような愚図な勇者はさっさと死んでバルサの手向けにしてやるぜ」
「バルサ・ミディクか」
「そうだ! てめぇが殺した!」
「これは戦争だ。殺される覚悟があったはずだ。お前もバルサも。だから攻撃を仕掛ける。文句を言われる筋合いはない」
「だったら、テメェも死んでも文句ねぇよなぁ!」
アルバージャが右腕を鞭のしなるような動きで鋭い爪による殺傷攻撃を仕掛ける。
吐息を吐きだし俺は虚空から剣を生み出し食い止めた。
「っ!」
「だから、言っただろう。思い出した」
「思い出した……クケケッ。そういうことか。お前まさかこの世界に飛ばされた衝撃で記憶を失っていたってわけか」
「だったらどうした?」
「いい情報だ。これを持ち帰って王女に伝えるとするぜ。なんせ、この世界に飛ばされた衝撃で記憶を失ったのはお前がこの世界と何らかの深いつながりがあるからだ。もし、何も関係がなければそのような現象は起きない。あの時起きた魔法はそういう理屈だ」
「そうか。こっちもいい情報提供になった。やはり、俺を飛ばしたのはアリア王女。だが、お前らのボスが王女殿下を殺した。そして、死に際に俺をこの世界に戻したか。それで、どういうわけかお前らもついてきたか」
「おっと、お前さんは全部思い出したわけじゃないか。じゃあ、余計なこと言っちまったな」
「ああ、そのおかげで大分整理がついた」
「クケケッ、だからどうする? 俺はこのままトンずらさせてもらうぜ」
アルバージャは俺の腹に鋭い蹴りを入れて間合いを取って空中に飛びあがった。
「アルバージャ待ちやがれ!」
「クケケッ、じゃあな」
そのまま、どこかへ去ろうとするアルバージャを追いかけようとしたが足と腹部の激痛が身体をうごけなくさせた。
身体が悲鳴をあげてる。
「そうか。異世界だと再生力があったがこの世界に戻ってもとの体に戻ったか。ちっくしょう」
次第に意識が薄れだし血を吐きながらそのまま倒れたのだった。




