表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/48

喰らい合い

「だいたいお前は、あの時もそうだ。熊に素手で向かいやがって」

「勝てたからいいじゃろ。いつまでもお前はぐちぐちと」

「あんとき、どんだけ肝冷えたか分からんのか!」

「ええい細かい! 銃よりも早いんじゃ! 分かるじゃろう!!」

「分からんわ! お前の常識は世間の非常識なんじゃ! そろそろ自覚せい!!」


やいのやいの。

爺さん2人の言い合いが続く居間で、緊張も吹き飛び「あータバコ吸いてー」と虚空を眺めること少し。

胸ポケットに入れていたスマホが震えたのに気がついた小鳥遊は「少し失礼します」と、どうせ聞こえていない声をかけて東野家の玄関を出た。

そのまま通話を取らないままに外門をくぐり、塀に身を隠したところでタバコに火をつけ半分ほど一気に吸い上げる。


「あーーうめぇ」


ぷかぁ……と紫煙をドーナツ形に吐き出し、恍惚顔の小鳥遊。

スマホは、まだ鳴っている。


「おっと、ヤニ吸いたすぎて忘れてた」


とりあえずもう一口吸ってから取り出したスマホ、その通知画面には「下僕1号」の文字。


「おう、どうした小林」

『大変です小鳥遊さん! 大変なんです!』

「落ち着けや馬鹿。なにが大変なのか中身が伝わってこねぇ」

『こんな時に落ち着いてられますか!!』


電話の向こうの慌て切った腐れ縁にため息をつき、二本目の煙草に火をつける。

そのまま一センチ程吸った後、小鳥遊はスマホに怒声を叩き込んだ。


「うるせぇんだよダボが! ビービーわめいて赤子じゃあるめぇし! いい歳した野郎が喚いてんじゃねぇみっともねぇ!!!」

『う、す、すみま』

「いいから報告、ちゃっちゃと唄えやクソが!」

『は、はいぃぃ!! ただいまキャンプが魔獣の攻撃を受けてます! 結界部隊が対応しましたが効果なし! 北音さんが迎撃に出て現在交戦中です!!』

「……マジか」


昨日の今日で。いや、充分考えられる。


「被害状況は?」

『人的被害は軽微! 死人はいません』

「お前は大丈夫か?」

『北音さんが私と医療コンテナを守るように立ち回ってくれ、うわっ!!』


小林の声が途切れ、スマホから大音量のノイズが響く。

いや、スマホに頼らずともわかる。キャンプがある方向から今、小鳥遊のいる場所にまで巨大な”歌”の衝撃波が響いてきた。

周囲の木が揺れ、小鳥が逃げ出す中、小鳥遊はその歌に苦笑いを浮かべた。


「使ったか、奏。後方支援ばかりの君が単体で……。おい小林、医療コンテナってことは

彼は無事なんだな」


まるで爆発にも似た音に東野家が騒がしくなるのを感じながら、小鳥遊は車のキーを取り出した。


『はい、北音さんから託されました』

「上出来だ。私も戻る。泥すすっても生き延びろ」





「やるじゃねーかイノシシ野郎!」


黒き森で縦横無尽に走り回る二つの人影。

片や拳で木々を粉砕し、もう一方は双剣で飛んでくる倒木を輪切りにする。


「はっはぁ! 双牙!!」


連続で振るわれる双剣の軌跡が、そのまま斬撃となり飛翔する。

射線上のすべてを断裂しながら迫る二つの斬撃、それをブリッジの要領で躱す義昭。


「飛ぶ斬撃か! ははっ、全然見えねぇ!」

「なら何で避けれんだよ!」

「知らん、勘だ!」

「また勘かこの野生児が!」


振るわれた蹴りを剣の腹で受け、切り返しの斬撃は刃ではなく側面を打つようにして逸らされる。

刃と拳のぶつかり合い。

当たれば致命傷は避けられない”魔剣”といっても差し支えない双剣の攻撃力。

対するは両手のみならず両足、果ては頭突きまでも使ってくる全身凶器による圧倒的手数。

武器の有り無しがそのまま戦力には直結せず、戦いは拮抗する。


「この双牙、俺の自慢の牙によく食いつく!」

「偉そうにしてんなよ、生前も俺に倒されたろうが!」

「ぬかせ、当てれれば殺せたんだよ」

「当てられればな!」


揃えて振るわれる双剣を半身になり避け、隙ができた”彼”の頬に拳を打ち込む。


「ほら当たらねぇ」


にやりと笑う義昭。しかしそんな彼の胸に一筋の赤い筋が走った。

一瞬後、噴き出す赤いしぶき。


「それはどうかな?」


殴られながらも防御はせず、振り下ろしから切り上げにつなげた一撃により義昭を切りさいた一撃の傷。

独楽のように体を回転させその斬撃を見舞った”彼”は勢いを殺さず後退し、二刀を再度構えなおす。


「いいなこの体。力は前よりだいぶ落ちるが、牙を器用に扱える」

「そうみたいだな。やるじゃん」


ぽたぽたと血が滴る傷口を左手で押さえ、右こぶしを構える。


「戦いだから当たり前だけど、夢でもいてぇもんだな」

「そりゃ”当たり前”だ。だってこれは喰らい合いだぜ?」

「違いないな。喰らわれるんだ、痛みはあるもんか」


垂れた自分の血を見つめ、義昭は薄く笑う。


「なんだ、このまま喰われる気にでもなったか?」

「まさか。やっと実感が湧いてきたんだよ」


べったりと赤く染まった左手、その掌をぺろりと舐めて義昭は獰猛に笑った。


「これが喰らい合う感覚かってな!!」


瞬間、余裕の表情を浮かべていた”彼”の胸がベコリと凹んだ。


「なっ……」

「これが戦いってやつか」


その凹みは四つの溝が連なった、そう、拳の形そのもの。

胸骨の中心をうがち、局所的に粉砕する拳の一撃。


「これは、いつの間に」

「いつの間も何も、今だよ」


構えた右拳がぶれる。

咄嗟に反応した”左の牙”に衝撃が走る。

揃えた左の手刀が突き出される。

何とか反応した”右の牙”と拮抗し、互いに弾ける。

拳が走る、手刀が唸る、回し蹴りが薙ぎ払う、膝と肘が乱れ飛ぶ。

二つの牙が空を裂く。薙ぎ払い、突き刺し、振り下ろし、挟み込む。

幾度も幾度も混じり合い、そのたびに”彼”の足は後退する。


「ははははは! いいね良いね! 存在をかけた力のやり取り! これだよ!! これ」

(な、なんだコイツ。傷を負ってからのほうが強くなってやがる)


必死に食らいつくが、どんどん加速する拳の猛攻に、だんだんと遅れをとっている。

胸に食らった打撃、攻撃を捌くたびに増える細かな傷。

あらゆる攻撃が重く、鋭く、苛烈になっていく。


(なんだこれは、まさか……適応していっている?)


雨のように降り注ぐ拳をしのぎながら”彼”は自分を喰った男を注視する。

その打撃、その筋力、その生命力、なによりその存在感。

全てがすべて、壁を乗り越え砕き去らんとしている。


(俺の”肉体”が! 俺の”魔力”が! こいつの体に、存在に、喰われていってるのか!?)


人の枠を超え。

魔力をねじ伏せ。

魔獣の存在を踏みつぶし。

ただその有りよう、その存在にて喰らいつくす。


(そうか、俺が殺されたのはこういう事か)


蹴りが”彼”の右肩を直撃し、その右腕を根元から薙ぎ払った。

宙を舞う右手と”右の牙”。

血しぶきが飛び散る中で見たのは、人間でありながら魔獣と並び立とうとしている男の真っすぐな瞳と笑う口元。


「……くそ、また負けたか」


突き出される、魔力も何もない、ただの手刀。

それが”彼”の胸を貫き、森には静寂が訪れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ