93.イタリアンレストランにて
〜前回のあらすじ〜
シンと一緒にウェツギに来たアミ。観光します!
今は昼前。まだ昼食には少し早いかなぁと思いつつも、観光地など人の集まるところでの昼食は早めにとったほうが良い、というシンの助言に従い、飲食店に入ることにした。
「アミ、何が食べたい?」
ウェツギの大通りを歩きながら、シンに聞かれる。
人が多いため、少し声が大きい。
「パスタとか、ピザとかの気分かな」
だから私も少し大きめの声で返した。
「フィシチニじゃ、あんまり本格的なイタリアンのお店、ないからねぇ…アノンが広めてないから」
イタリアン?と思って聞いてみたら、パスタやピザなどの料理の総称、ということらしい。
「お、こことかいいんじゃない?」
地図を見ていたシンが顔を上げて立ち止まったのは、おしゃれな木造のお店だった。
赤と白と緑の旗が特徴的で、植物がきれいに植えられている。
「すみません、2名でお願いできますか?」
シンはそんな洒落たお店に堂々と入り、店員さんに話しかけに行った。さすがだ。
「いらっしゃいませ、2枚様ですね。こちらへ」
私がおずおずとシンの後ろについて入ると、店員さんは私たちを席に案内した。
「当店は、ご注文がお決まり次第店員を呼び出していただいて承り、お食事をご提供して他のお客様の相手をする、というシステムとなっておりますのでご了承ください」
そう言いながら店員さんは慣れた手つきで水を机に並べた。
「こちらがメニュー表になります。ご注文がお決まり次第、こちらのベルでお呼びください」
渡されたメニュー表を、シンは私のほうに向けて開いてくれた。
「パスタにピザ…狙い通りだ。ワインもあるのか……」
メニューをめくっていたシンの言葉に気が付かされた。
そうじゃん、ワインという危険を忘れていた。絶対、飲ませたらやばい。あの日の出来事は忘れていない。
「シン、何があるかわからないんだから、やめておこう?ね?」
私がそう言うと、渋々という感じで諦めてページをめくった。回避できたようだ。
「アミは何にするの?」
シンに問われるが、まだ悩んでいる。
パスタも、ピザも食べたい。
「どっちにしよう……」
そう思ってページをペラペラとめくっていると、シンは素晴らしい提案をしてくれた。
「なら、僕がピザを頼むよ。アミはパスタを頼みな。半分こしよう」
「いいの!?え、好きなの選んでもいい?」
「もちろん、ご自由に」
わぁぁ!すっごく嬉しい。
「これと、これにする!ドリンクはリンゴジュースで、デザートもつくのかぁ、じゃあこれかな」
「わかった」
シンはメニューを見ながら、ベルを鳴らした。
すると店員さんがすぐにやってきた。
「ご注文は?」
「マルゲリータとチーズの蜂蜜添えのハーフセットと、ベーコンとチーズ絡めのパスタのセットを1つずつ。ドリンクはリンゴジュースと紅茶、デザートはイチゴのショートケーキとモンブランで」
一言一句書き漏らさずに注文を取り終えた店員さんは、注文を繰り返してから去っていった。
私はその間に水を飲む。
ほぼ間もなく、人がやってきた。
「こちら、ドリンクになります」
店員さんが持ってきたのは、リンゴジュースと紅茶だ。仕事が早すぎる。
私は水を飲み終えたコップに、水を足そうとする。
……そうか。水魔法、使えないんだ。
魔法陣で…いや、使わないほうがいいのか……?
「お水のお代わり、ご入用でしょうか」
店員さんは、私が迷っている間にも水は入ったポットを持ってきて、注いでくれた。
なるほど、魔法がない国ではこうやって水のお代わりをするのか。
妙に感心しながら、食事を待った。
なにか、話題を探そう。さすがに食事は早く来ない。
「シン、よく紅茶ストレートで飲めるよね」
「そうだね…コーヒーは無理だけど」
コーヒーが無理で紅茶はいけるの!?な、なぜ…?
「コーヒーのほうが飲みやすくない?」
「いや、それはないかな。苦みが違う」
うーん……分かり合えなさそうだからやめておこう。
次の話題……どうしよう。
困りかけていたその時。
「こちら、ピザ。そしてこちら、パスタになります。食後にデザートをお持ちいたしますので、ベルでお呼び出しください」
店員さんが料理を持ってきてくれた。救世主だ。
運ばれてきたのはマルゲリータとチーズに半分ずつ味付けされているピザと、チーズの絡まったパスタにベーコンが乗っているもの。どちらもできたてのようで、美味しそうな香りが漂ってくる。
「僕が取り分けるよ。はい、パスタ。だいたい半分でいい?」
シンはサッとパスタを取り分けてくれたようだ。手際がよくて素晴らしい。
「ありがとう。ピザってどうやってわけるの?」
パスタを受け取りながら聞いてみる。
「この道具で、8つくらいに切り分けるんだ。こうやって……はい」
こちらもまた手際よくわけてくれた。
まずはピザから食べてみようか。
「いただきます」
私はマルゲリータのピザを口に入れる。
まず最初に来たのは熱い、という感想。でも、その後に来るのはトマトの芳醇なうまみと、チーズの濃厚さ。そしてパン生地のパリパリ感。
思わずハフハフとしながらすぐに食べきってしまい、次のピザを手に取る。
これはチーズに蜂蜜がかかったピザだ。熱さは先ほどの物よりも和らいでいるが、それにより食べた瞬間から味がわかるようになった。
チーズの濃厚さ、それはもちろんあるのだが、蜂蜜という甘さと絡み合うことによりマルゲリータとは違ったチーズの美味しさを醸し出している。パン生地のパリパリ感は言うまでもなく、最高のアクセントだ。
「美味しい!」
「でしょ?僕の目に狂いはないから」
シンはパスタをフォークで巻いて食べていた。
私もパスタを食べてみよう。
一度リンゴジュースで口直しをしてから、シンの真似をしてフォークで巻いて食べてみる。最初はベーコンなしだ。
「これは!」
最初にやってきたのは香辛料の辛み。味が濃いところを取ってしまったようだ。しかし、それをかき消すほどのチーズの美味しさ。マルゲリータとも、蜂蜜とも違う、卵と共に奏でているハーモニーが素晴らしく合っている。しばらくしてから感じるのは、麺のモチモチ感。
ベーコンも、食べてみよう。期待を大にして口に入れる。……もちろん期待は裏切られない。塩味がほどよく、また焼きめも素晴らしい。ソースとの相性が良さすぎる。計算され尽くしている。
「美味しい……」
私はそこから、無言でご飯を食べ進めた。




