87.裏切り者
〜前回のあらすじ〜
意味深なスキルをスイウから受け取ったアミ。このあとどうなる…!?というアミの夢。
帰っていいと言われたため、私は部屋の外に出る。
私は帰り際に、
「この事は、絶対に言わないように。尋ねられても、ここに呼ばれて話をされた、とだけ言うように。いい?私の言う事はこの国では絶対だから」
と言われた。そこまで言われているのに話したとしたら、後に苦労しそうだ。国内で絶対だ、という権力者に立ち向かう勇気なんてありやしない。
部屋の外には、アオが待っていた。
「おかえりなさい、アミ。院長は何と」
尋ねられても、答えは1つ。
「話をされただけです。他言無用の」
何かを察したような顔で頷いていた。
廊下を通り、いつもいる本館の方に歩く。
ラゼイはおやつを食べられたのだろうな、と15時20分を指す時計を見て思った。
本館の扉を開く。
子ども30人と、職員10名で構成される孤児院の人々がいる、ボロボロの建物。
「ただいま、ラゼイ」
ラゼイを見つけたので、駆け足で近づく。
「……おかえり、アミ」
それだけ言って、そっぽを向いて奥に消えていった。
私は何かをしたのだろうか?
立ち尽くしても仕方がない。不安だったため、ラゼイを追いかけて、私たちの部屋への廊下を走る。2人部屋なんだから、逃げることないのに。
途中で、ラゼイがトボトボと歩く姿を見つけた。
「ラゼイ!私、何かした?」
ラゼイは振り向かずに、奥へと走り去る。
「別に。アミは外に出られるんだね。おめでとう」
言葉を、脳が、受け付けない。
えっ……?
辺りが暗くなった気がした。
そんな勘違いがあるものか。
いや、あるとは思っていた。でも、それでも。
ラゼイだけは祝ってくれる、信じてくれる、そう思っていたのに。なんで、なんでこうなったの?
「私はっ…!そんなんで呼ばれたんじゃ…!」
合間を入れず、
「じゃあ何!なんで呼ばれたのよ!言ってみろよ!私は、あんたが奥の、高そうな部屋に入っていくのを見た!あそこにいる人なんて、引き取り先じゃなかったらなんなのよ!裏切り者!」
と叫ばれる。言えない。何も。
あの人の言うことはここでは絶対。
言い返せるのならば、言い返したかった。
スイウを、恨まずにはいられなかった。
このことを想定できなかったのか?
私は、なんでノコノコとあの部屋に入ってしまった?
「別にそういうのじゃない!でも…言えない」
「あっそ。隠し通すんだね。もういい。このことは、全員に広まってる。明日からあんたに居場所はない」
知ってる。引き取り先がいるなんて、孤児院で知られたら、終わる。事実は、実際は違う。でも言えないのだから、似たようなものだ。
「部屋は一人で使いな。ばいばい」
ラゼイは、私たちの部屋ではなく、その隣の部屋に入っていった。
どうしようもないため、私もとりあえず自分の部屋に帰る。ガタガタで開きにくい木の部屋の扉を開けると、そこには私のもの以外、なくなっていた。ベッドさえも。もともとほぼ何もなかった部屋だが、1人分しか物がないと更に何もなく感じる。
孤独な、感じだ。
なんなんだよ。あの院長は。
私の居場所を奪うだけ奪って。
外の世界に連れてってくれるわけでもなくて。職員の横暴を止めてくれるわけでもなくて。
これからどうしろって言うの?
ご飯も、もらえるか怪しい。
だって、ここの職員は元はここの孤児だから。考えは孤児と変わっていないんだ。
もしかしたらさ。このまま風邪でもひいてさ、死んじゃったら終わるかな?こんな、苦しい世界で生きなくてもいいのかな……?
この部屋は、とても寒い。今日はまだ、1月だ。
寒いよ、苦しいよ…。
私は目を閉じる。闇がただただ、広がっていた。
『じゃあ、助けてやろうか?』
なんだろう。この声は。
寒すぎて幻聴でも聞こえてきたのだろうか。
でもそれは、ただひとつの光のようでもあった。
しばらく黙っていると、また話しかけてきた。
『ったく…幻聴でも何でもねぇよ。俺だってなんでここにいるのかわからないから説明できないが』
もしかして、心を読まれた?
『違う。お前の独り言が多いだけだ』
あ、なるほど……ってそうじゃなくて!この不可思議な現象をなんとかしないと。まずこの人?は誰だろう。……この物言いは、なんとなく…
『魔王様みたい』
好きな本に出てくる、主人公だ。
私の、心から尊敬する方。
『ん?まさに、俺がその魔王だが?』
一瞬、私の心はその言葉を受け取ることを拒んだ。
ずっと憧れていた。でも、遠くから見ていればよかったんだ。心の支え、それだけだった。
彼は人殺し。我々市民にとっては裏切り者。近くに来るのはある意味怖い。
この状況を表すと、なんかやばいやつ。それに限る。
『名前は?』
念の為に確認しておこう。
『タウだ』
一緒だ…マジで魔王様なのか?
私にできるのは、これが夢だと願うことか?
そもそも魔王様なのか?本当に。
そう思っていたら、相手から提案が飛んできた。
『信じていないか。なら、明日どこか魔物の出る場所…森に連れて行け。この近くにあるだろう?』
それくらいならいいのではないか。どうせ、居場所はない。明日には消えているかもしれないし、約束してみるのもまた一興な気がする。
『いいよ。明日』
死ぬか、なんて考えていたことはどこかへ吹っ飛んでいた。




