44.312号室にて
私は312号室の扉をノックする。
開けてくれたのは、ミコリアさんだ。
「いらっしゃい。アミちゃん」
さっと部屋の中を見渡してみたが、ウリイさんはいない。
「あの、ウリイさんは……?」
私がそうやって聞くと、ミコリアさんはあぁ、と思い出したように答えた。
「あいつは、授業をまだ終えてないんだ。なんで年が変わると合格がリセットされるんだ……ってブツブツ言ってた」
そうなんだ。でも、授業をまだ終えていないって、どれだけ1つの授業に時間をかけているのだろうか。
しかし、この言い方だとミコリアさんは……。
「ミコリアさんは、授業、終わってるんですか?」
私の問いに、ミコリアさんは少し遠くを見るような顔で語りだした。
「ぼくは、ウリイと一緒に卒業がしたいんだ。部活を立ち上げて、ずっとバカ話をして笑い合ってきた仲だからね……。もう5年になるけど、ぼくはずっと、最後の授業を受けないでいるんだ。ウリイと一緒に、卒業できるように。毎年、適当に授業を残してるんだ。ウリイがその、最後の1つを受けるときまで」
うん、この人も面倒な人だったのか。
ふたりは固い絆で結ばれているんですね…!とでも言っておけばいいのだろうか。
いや、どうせもっと語りだすに決まってる。
私にどのような反応を求めて、この話をしてきたのだ、この人は。
「そうなんですね。では、部活動を始めます」
私は部屋の奥に進んでいき、本を取り出す。
魔王の軌跡だ。
これは普通のところだから、1人でも読める。
「そういえば、アミちゃんはずっとそれ読んでるよね。ぼくらが読めないところも読んでなかったっけ?」
付け足しの部分のことだろうか。
「読んでましたよ。今日は違いますけど」
「へぇ、読み終わったの?あの部分」
「はい、よかったら内容の説明、しましょうか?」
まあ、大雑把ではあるけど……。そう思いながら提案すると、ミコリアさんは、
「え、いいの!メモ帳取ってくるからちょっと待ってて!」
と目をキラキラさせて去って行った。
よほど嬉しかったらしい。よかった。
数十秒後、メモ帳とペンを持ったミコリアさんが帰ってきた。
「お待たせ!さあ、お話を!」
とまあ、ワクワクした声で言っていた。
私は本を見せながら、大体こんな話だったような……と3時間ほどかけて話し続けた。
タウの読んでいた本に向かうのは2時間が限界だったのに、こんなに続くとは。好きこそものの上手なれってこういうことだ。
「そっかぁ……そんなことが。古語の授業は一応受けてるけど、毎回テストの対策しかしなかったからさぁ、自分で本を読むほどの実力はなかったんだよね。もし今年もウリイの授業が終わらなかったら、勉強してみようかな」
満足してもらえて何よりだ。
「ちなみに、ウリイさんはどこまで授業を終わらせたんですか?」
「あと座学と戦闘だから……10個以上は残ってるね。そうだ、1日1個で終わらせられるって息巻いてたわ」
つまり、卒業するには今日を含め、これからの授業ですべて合格を重ねなければならない、と。
「無理じゃないですか?」
「そんな予感はしてる」
タウにおすすめの参考書でも聞いておこう。多分、古語の勉強に励むことになりそうだから。
少し雑談をしてから、私は帰るための準備を始めた。
「今日はありがとね。また来てね」
「はい、こちらこそありがとうございました」
私は扉を開け、廊下に出た。
すると、向こうから人が走ってきていた。あれは……ウリイさん?
「ミコリアー、聞いてよぉ……授業だめだって……戦闘は難しすぎるよ……」
あー、古語が確定した。
「そっか……来年も頑張ろうね」
ふたりは肩を落とし、部屋へと帰っていった。
私はそれを見届け、自分の部屋へと帰った。




