36.各属性の授業7
「よし、帰ってきたね。このテストは合格だ。次に……」
「ちょっと待ってください。私がもし風属性を持っていなかったらどうしていたのですか?」
このタイミングしか、聞けないと思った。
だから私は、ついつい聞いてしまった。
「あー、別に、君が全属性を持ってることはわかってたし。今日の授業にいるのは君だけだからね。それに、帰ってこなくても仕事が減って嬉しかったしね……」
最後の言葉は小さくて聞き取れなかったが、意図的だったことはたしかだ。
「ま、それは置いておこう。次はこの魔法陣を発動して」
次に渡された魔法陣を発動すると、私はおそらく保健室らしいところにいた。
「2つ目のテストは、保健室に来た子を治療すること。きっともうすぐ来るから……」
保健室を見渡しながら、ここは木造なのか…と考えているうちに、私はこのテストの危うさに気がついた。
「あの、それだと治るものも治らない、ということもあるのでは……」
そうすると納得したような顔で、
「あー、それね。大丈夫。アレイスから許可はもらったし、たとえどんな怪我でも私なら治せるからね」
自信家な先生だ。
ふいに、扉がノックされた。お客さんだ。
「はーい、どうしたの?」
そう言ってシオカが扉を開けると、焦ったような顔をした男の子の二人組がいた。
ひとりは青い顔をして、もうひとりの肩にもたれていた。
「こいつが…!部活で森に採集に行ったら、いつの間にか毒針で刺されていたんだ!オレは刺されてなさそうだからいい。こいつは助かるのか……?」
焦りながら、大きな声で説明をした。
シオカは聖女かのような笑顔で、
「大丈夫。私が助ける……いざとなったら、ね。まずはこの子に預けてみて」
と言った。え、私が治すの、これ。
少し不安そうな顔をして、男の子は私に患者を預けた。
「じゃあ、魔法陣を使ってこの子を治療して。駄目だと思ったらすぐに言うように」
大丈夫、私にはタウがいる。なんとでもなる。だから、できるだけ自分でやってみよう。
私は魔法陣を描く。
今回、毒針で刺されたと言っていた。
毒属性での解除を最初に試みたが、できないようだった。だから、光属性での毒の解除を試みるしかない。
私は、光属性の解毒魔法を使う。
そして、それは効いた。
辺りは光りに包まれ、青かった患者の顔は、健康な色を取り戻していく。
あとは、傷口を治さなければならない。
針という話だったため、そこまで大きな魔力は必要ないだろう。
回復魔法の魔法陣を描き、それを発動する。
患者は自ら起き上がった。もう、大丈夫そうだ。
「元気そうだね。私の目から見ても、大丈夫そうだ。帰っていいよ」
「「ありがとうございました!」」
ふたりは元気良くお礼を言って帰っていった。元気そうでなによりだ。
「アミ、君は合格だ。光属性の授業、クリアだね」
そう言いつつ、彼女はナイフを取り出す。
そして、私の心臓のあたりにそれを当てた。
タウが何も言わないということは、大丈夫なのだろう。
「さーて、説明してもらおうか。私は君の経歴をすべて洗った。君の人生の中に、ここまで魔法を使えるようになるような出来事、才能は見当たらなかった。と考えると、君が持っているスキル。それが関係しているとしか思えない。さぁ、君のスキルは何だ?」
……私は、沈黙するしかなかった。
私も知らないし、説明できることでもない。
「私が知っているのは、スキルによる何かが私の中にいる、ということです。それだけなんです」
この学院は、反王政派。タウは、王に依頼をしている。と考えると、彼は反王政派ではないことが確かだ。最悪、私が消される。
シオカも、何も保険をかけずにここに来るとは思えない。
となると、私はタウの名前を出さないほうがいいはず。
「そう、そうか。まだ処分しなくてもいい、と」
私の話に納得してくれた?いや、違う。
何か、他の誰かから話を聞いて、私を殺す理由をなくしたというような、そんな感じだ。
「今回はいい。今後は知らないけどね。それじゃ、本日は終業。ばいばい」
シオカは扉から帰っていった。鍵をかけて。
「いや、私いるんだけど!?」
ほんと、何を考えているのかわからない人だった。
月曜日。憂鬱なものだと考えるのが世間一般の話らしいのだが、休みのない私にとっては憂鬱もなにも、と言ったところだ。
さぁ、最後の授業、毒属性だ。
毒属性の魔法は、2種類の目的にわけられる。毒魔法、つまり、毒を相手に与えるもの。それと、解毒魔法。その毒を解除するもの。しかしこの解毒魔法、効かないものもある。それが、前日私が出会ったような、より強い毒魔法だ。込める魔力の量や質、そして技術の高さによって毒魔法は強化される。だから、光属性の解毒魔法を使うこともある。
テストの内容は、その2つ。
まずは毒魔法を先生に与える。
その内容は、毒属性の解毒魔法で解除できるレベルなら何でもいい、と。
そして、与えた毒を5秒後に解毒するというのがテストの内容だ。
……先生の身の安全がとても不安なのだが。
よほど変人が来るのだろうか。
「席について。試験を始めますよ」
私は席に急いで着く。なぜ座っていなかったかって?
字が小さいから立って前の方で見るしかなかったの。仕方がない。
「ふむ……計画通りですね」
そうやって呟いたのは、先生だ。
「あの…先生、計画って……」
思わず聞いてしまったのは、私だ。
というか、この教室もまた、私しかいない。
「あぁ、これは失礼、口に出ていましたか。私はソシアレ。貴方だけがこの教室に来るように、計画を整えていたのですよ」
先生は、黒い髪に赤い瞳をしていた。
そして、白のカッターシャツに黒のズボン、黒のネクタイ……どこかで見たような……。
『以前、お会いしましたね』
『え、どこで?』
タウは気がついているのか。私は思いつかないけど。
『図書館でも、お会いしていますよ。ただ……いえ、これは後で』
図書館で……あ!謎の本を見せてきたあの背の高い男性。それだ!
「思い出しましたか?まあ、それはどちらでもいいのですが、ね。これから試験を始めますよ。もう、ホワイトボードは読まれたのでしょう?」
もう始めるのか。外には出なくていい、ということか。そりゃあそうだ。毒魔法で教室に被害の出る要素はない。
「それでは、毒魔法を無詠唱で私に与え、5秒後に魔法陣を使った解毒してください」
もしかしてだけど、5秒で魔法陣を描くってことになる……?え、鬼畜じゃん。
「では……いきます」
魔法陣の構想は、すでに練ってある。
私は、無詠唱で彼に毒を与えた。
すぐに効き出すものではあるが、5秒も経たずに死ぬことはない、とタウが言っていた。
さあ、魔法陣を素速く描かなければ。
私はできるだけ速く魔法陣を描き、きっかり5秒で発動した。
「いいですね……このタイプの毒を使ってきた人は初めてですよ……普通は遠慮して、もっと弱いものを持ってきますからね」
ソシアレは、涼しい顔をしてそう言い放った。それよりも私が知りたいのは、合否だ。
「ということは…?」
「合格ですよ。よかったですね、アミさん」
おぉ!これで属性の授業はすべて終わりだ!
帰ろう。そして、古語の勉強を…。
『その前にひとつ』
タウが私の思考を遮った。
一体何だと言うのか。




