水竜
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「す、水竜様···!」
自分を呼ぶ声がした。
声がした方向を見たいがどうにも身体か動きそうにない。
そうか、自分はもう自分ではないのだ。
自分が自分でない理由、それは身体の方に問題があった。
今も常に唯一感じることが出来る、いや、感じさせられるもの。
大きな魔力の塊だ。
動物も植物も全ての生き物の負の感情、それが詰まっている。
いわば、負の魔力だ。
怒りを宿した生物から溢れ出るように作られる魔力。
それを自分は常に感じているのだ。
気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
自分を支配して動くことが出来ない。
殺したくもない生物を自分の身体は殺意を向けず、ただ遊ぶためだけに殺すのだ。
そしてそれを食べることもなく放置する。
酷い話だ。
生物は自分が生きるために生物を殺す。
そして食べるのだ。
だが、今の自分はそうではない。
暇つぶし、自分の近くを通ったのが悪いとでも言うように他の生物を殺す。
自分がこうなるまでは生物の暮らしを護っていたのだ。
生物の負の感情を食べて己に取り入れることで生物が楽しく過ごせるようにしてきた。
仲間に止められることは多々あった。
いつか自分が自分で無くなると。
その時の自分には強さに絶対的自信があったのだ。
誰にも負けない自分よりも弱い生物の負の感情などに負けることはない。
だからこれは自分にしか出来ない仕事なのだと仲間を説得した。
だが、今は仲間が言ったようにこのようになってしまった。
もう既に自分が負の感情を食べた生物より意味もなく殺した生物の数のほうが大きく上回っている。
なんのために生きているのか。
何年も考え続けていることだ。
生物を殺すだけ殺してただ放置する。
こんなことをするために生まれたのではない。
何度死のうと思ったか。
だが、自分の身体はそうさせてくれなかった。
殺したい、殺して殺して殺しつくしたい。
そう身体が主張する。
じゃあ、自分の感情を殺せばいいと何度も言った。
だが、奴から返ってきた言葉は、お前が悩み死のうとする感情は絶品だと。
今まで殺してきた生物はお前の感情をより美味にするための生贄だと。
そんなことを言ってくるのだ。
何度も抗った。
こいつを殺してやろうと何度も思った。
だが、負の感情は全身に回っており、全ての細胞が負の感情を持っているのだ。
勝てるはずが無かった。
自分と同じ力を持った奴が数えきれないほどいるのだ。
だから今ではもう目を瞑っていたい。
現実から目を背けたい。
そう思い諦めている。
そんな自分も負の感情に陥っていた時に聞こえ気がしたのだ、自分を呼ぶ声が。
自分の身体が動いた。
嫌だ、やめてくれ、これ以上生物を殺さないでくれ。
そんな願いは届くはずも無く、自分の前に現れた生物に爪を使い割いたのだ。
「痛っ!」
そう聞こえた。
離れてくれ。自分から逃げてくれ。私にお前を殺させないでくれ。
その時自分は二つの疑念を抱いた。
一つはこの深海に感情を持った生物が到達していること。
もう一つは自分と互角とは行かないがそこまで相手にダメージを与えられていないこと。
自分の爪が相手を切り裂こうと襲いかかるが、ギリギリ避ける相手。
ただ相手が自分に勝てる筋道たたない。
そのように思考していた時私の爪が相手の腹を裂いた。
「楓様っ!!」
相手の名前は楓というのか。
楓のそばにいるドラゴンだけでも自分から逃げろ。
さもないとお前も殺すことになってしまう。
ふと自分が腹を裂いた相手をみた。
腹から血が出ている、そこは先程と変わりはない。
ただ彼の髪の色が白に、瞳の色が赤に変わっていた。
「ダイヤ、僕が暴走したら止めるのは任せたよ。」
「私に達成できる仕事か分かりませんが承知しました。」
「じゃあ行ってくる。」
「お気をつけて。」
楓が一瞬で自分に近づいた。
反射的に爪で薙ぎ払うがそれは楓を捕えなかった。
楓は自分の後ろにいつの間にか移動している。
ただ、自分も昔は戦いのプロであった。
そんな自分がその俊敏な動きに対応出来ないわけがない。
自分の尻尾が楓の腹を捕える。
そのまま楓は飛ばされ神殿へと叩きつけられた。
ああ、これで終わってしまったのか。
そう諦めようとした時、砂が舞い上がったところから楓が飛び出した。
不意をつかれた自分は楓の動きに対応出来ず頭に拳を一発食らわされた。
これで倒れる自分ではない。
すぐに楓を切り裂こうと爪が出るがまた水を切るだけだった。
そして尻尾を捕まれ神殿の壁へと投げつけられた。
身体が起き上がるのを拒む。
それもそのはず投げつけられた時に自分の周りに泡が発生した。
これ程の勢いで投げつけられれば骨が複数折れる。
もう立ち上がることも出来ない。
やっと自分は死ねるのか。ありがとう楓。
内側から声が聞こえる。
まだ死ぬ訳には行かぬ。この肉体は用済みだ。
自分の中の負の感情が身体から抜けた。
そして楓のもとへと近づき身体に入り込んだ。
「ん?何か入ってきたな。よいしょっと!」
楓の中の魔力が濃く練り上げられた。
そうか自分はこんな怪物と戦っていたんだな。
勝てるはずがない。
そして負の感情も楓の魔力によって押しつぶされ存在が消えた。
心残りもない。今度こそ死ねる。
自分が多くの生物を殺したことを今自分の死をもって償おう。
皆すまない。
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