28話 4日目:昼 【母】料理
【マリアンヌ視点】
信者の皆さんとお昼をご一緒した後、私も教団の運営を手伝う事にしました。
お客様という身分ですが、皆さんが私のために頑張ってくださる以上何かしたかったのです。
なんでも今夜もミサをするという事で、私は料理の下ごしらえを手伝いました。
毎日自分のために料理を作っているのです。
料理は得意でした。
そうして女性信者の方々と一緒に、多くの品を作っていました。
久しぶりの集団作業です。
というよりも、こんなに大勢の分の料理を作ったのは始めです。
何百人分もの料理を作るのです。
じゃが芋も何百個の単位で皮をむいていくのです。
チームの一員をして働いている一体感のためか、すぐに時間は過ぎていきます。
するとブラッドリー司祭が帰ってきたのを目にしました。
教団の人々の話では王城に呼ばれてという事でした。
きっと私の事で呼ばれたんじゃないかと思いひやひやしていたのです。
もし司祭の身に何かあれば申し訳ありません。
ですが無事司祭が帰ってきたことに胸を下ろします。
私は再び料理に戻ります。
じゃが芋の皮むきは終わったので、今から適切なサイズに切るのです。
今日の料理はカレーだそうです。
そのために何百個ものじゃが芋を一口サイズに斬っていきます。
ざくざく斬っていくのが楽しいです。
ボールにじゃが芋が山盛りになりますと。
小さな女の子がテコテコそれを持って行き、代わりに空のボールを用意してくれます。
私は再びそのボールを一口サイズのじゃが芋で一杯にするのです。
ボールが一杯になる度に達成感を感じます。
ですが、ふと思い出します。
あれ?
あれあれ?
あれあれあれ?
こうやって何かを細かく切る作業ですが。
何故か既視感を覚えるのです。
こんなに多くの物を細かく切るのは初めてのはずなのですが。
あれ?
おかしいですね。
この感覚は酔って記憶を失った際と似ています。
もしかしたら、記憶を失っている最中にじゃが芋を大量に細かく切ったのでしょうか。
どこかの畑にでも忍び込んだのでしょうか?
包丁の変わりは何でしょう?
割れた酒瓶でしょうか?
そう思っていますと、ボールに一杯になったじゃが芋を、女の子がテコテコと運んでいきます。
それから彼女は戻ってきて私に話しかけてきます。
「マリアンヌさん凄いね。
これで人一人分ぐらいのじゃが芋だよ。
マリアンヌさんの切ったじゃが芋で人間ができちゃう」
私はその言葉で嫌なイメージが頭の中に浮かびます。
もしかして・・・
酔っている最中に私は、人を殺してじゃが芋のように細切れにしてしまったのではないかと。
・・・
・・・
・・・
そんなことありませんね。
さすがにそれはないかと思います。
そうであるはずがありません。
まさか、私が人を殺して細切れにするなど・・・
そんな事をすれば私自身が血まれになってしまいますし。
街では異様な死体が見つかっているはずです。
そのような死体は見つかっていませんし。
私は血・・・・
いいえ、そういえば私は、とある朝血まみれになっていました。
あの原因はなんなのでしょうか?
記憶が思い出せないのでまだ分かりません。
願わくは鳥か何か、動物の血であることを望みます。
そうでなく、もし人の血であったならば・・・
「マリアンヌさん、どうしたの?」
女の子がコテッと首を傾げています。
コテコテ頭を動かしています。
私が物思いに耽っていたのを不思議に思ったのかもしれません。
「なんでもないですよ」
「そうなんだぁー。良かった。
昨日のマリアンヌさんみたいにビックリしちゃった」
昨日?
はて?
一体なんのことでしょうか?
私は昨日この子と会った記憶が無いのですが。
「昨日も会いました?」
「昨日の夜だよ。
あたしがトイレに行く時、一緒について来てくれたでしょ」
女の子は楽しそうに、ニコニコして私を見ます。
おかしいですね。
この子と一緒にトイレに行った記憶はないのですが。
まさか、酔っている最中。
記憶をなくした際の出来事でしょうか。
それですと、この子は私の知らない記憶を知っているのかもしれません。
もっと探ってみるべきですね。
「そうだったわね。
それで昨日は、おトイレの後、すぐ寝れたの?」
「うん。マリアンヌさんが一緒に来てくれたから。
お外に行って疲れたら、あの後直ぐ寝ちゃった」
外ですか。
私はこの子と外にまで出たのですか。
全く記憶に無いのですが。
何か嫌な胸騒ぎがしてしまいます。
妙な事をしていなければいいのですが。
不安を打ち消すためにも、もっと聞き出した方がよさそうですね。
もしも何か問題がある行動をしていれば、今ならなんとかなるのかもしれません。
まだ、24時間も経っていませんので。
適当な口実を考えて・・・
そうだ、あれにしましょう。
「そういえば私、昨日落し物してしまったんです。
どこに行ったか覚えてる?」
「え!たいへーん!すぐに探さないと。
うーんとねー。えーとねー」
女の子は記憶をさぐっているのでしょうか。
「うーうー」唸りながら頭を両手で押さえています。
私のために、そこまで無理して思い出しても貰わなくてもよかったのですが・・・
女の子が頑張って思い出そうとしている姿を見ると、とたんに心が苦しくなります。
違う口実にすればよかったです。
でもまだ遅くはありません。
小さな女の子に苦しんでもらってまで、記憶を思い出そうとは思っていません。
止めさせましょう。直ぐに。
「大丈夫よ、ぱっと思い出せないようなら無理しなくても。
大した物じゃないから。落し物は」
「うーんとね。えーとね。大丈夫。
もう少し。うーんとね、えーとね、うーんとね」
再び「うーうー」唸って頭を振る女の子。
両腕で頭を抱えて振っています。
一定のリズムで振り続けます。
本当に大丈夫でしょうか?
女の子と頭振りにちょっと怖くなってきました。
私は女の子の頭をさすって慰めようとしますと。
「思い出した!
あそこだよ、あそこ。あそこに行ったんだよ!」
どこでしょうか?
女の子は興奮して飛び跳ねながら目を輝かせています。
余程記憶を思い出せたことが嬉しいのでしょう。
それはなによりです。
私もこの子の様に記憶を思い出せればいいのですが。
「マリアンヌさん、あそこだよ、あそこ。あそこに行ったんだよ」
私のスカートの袖をぐいぐいひっぱる女の子。
興奮が落ち着かないようです。
「えっとー、どこなのかな?私にも教えてくれる?」
「あそだよ、一緒に行ったでしょ、あそこ」
ダメです。
私には全く分かりません。
「あそこ」がどこなのか見当がつきません。
「えっと、何がある場所かな?何か覚えてる?」
一瞬動きをとめてポカンとした表情になる女の子。
それまでぐいぐい引っ張られていたスカートが垂れ下がります。
しかし女の子はすぐに唇に指を当てて。
「えーとね。うーんとね。
じゃが芋があるところとか・・・ローブがあるところだよ。
一杯あったよ」
多分、食料庫と備品倉庫のようですね。
私は昨日そこにいったのでしょうか。
しかし何故夜にそんな場所に行ったのでしょう?
分かりませんね。用などないと思うのですが。
でも、そこに行けば何か分かるかもしれません。
「マリアンヌさん、私も一緒に探してあげる。
じゃが芋終わったから行こ、行こ!行っちゃお!」
私のスカートの袖をぐいぐいひっぱる女の子。
先程から思っていましたが、元気な子のようです。
ちょっと元気すぎて私の服が伸びてしまいそうです。
この服は教団からの借り物なので心配です。
もし服を壊してしまったら、私は恥ずかしくて仕方がありません。
道具さえあれば自分で修繕出来ますが、肝心の物がありませんので。
「マリアンヌさん、行こ、行こ!行こーよ」
女の子はわくわくしたような表情でぐいぐいスカートを引っ張ります。
ちょっと力強くなってきました。
女の子の強い意志を感じますし、スカートが心配です。
しかし私は、この子の意見に反対というわけではありません。
銅像のように立ち、女の子のクイクイ引っ張りを耐えていますが違うのです。
どちらかというと、この子の意見に賛成です。
確かに私の分担(じゃが芋)は終わりましたので、それなら移動してもいいかもしれません。
私も自分の記憶に興味がありますので。
なるべく記憶が柔らかいうちになら思い出せるのかもしれません。
そうですね。そうしましょう。
「待ってね、手を奇麗にしてからじゃやないと。
それにここも片付けないと」
「はーい。それじゃーわたしやるー」
女の子は元気よく後片付けを開始しました。
その後。
私はテコテコと歩く女の子と調理場を離れました。
久しぶりに小さな子と話しましたが、その影響のせいでしょうか。
少し元気になった気がします。




