23話 4日目:昼 【夫】面会(上)
【アダム視点】
アダム伯爵が手紙を書いていると、バーニーから告げられた。
「アナスタシア公爵令嬢がいらしています。
お会いになりますか?」
その声を聞いた時、僕は耳を疑った。
何故元妻が僕に会いに来る?
確か最後に話した時・・・
審問では抱き合っている間。
彼女は虫唾が走るような殺したくなる声で「死刑を見に来る」といっていた。
だからもうアナはここに来ないものと思っていた。
だがその予想が外れて嬉しい。
僕が外に出るためには、憎らしい元妻の協力が必要だからだ。
そのために手紙を書いていたのだし、もし会えるなら是非この機会を活かして妻を懐柔すべきだ。
しかしどう対応すべきか・・・
記憶の覚えている限りでは、僕はアナに対して「殺してやる」「許さない」と素直な暴言を吐いていたはず。
それなら当然、彼女は僕が彼女を憎んでいると思っているはず。
その僕に彼女は会いにくるのだ。
そのため僕が今日会った時に、何事もなく笑顔で「よく来てくれた」と言えば、アナに物凄く警戒されるかもしれない。
何か企んでいるのでないかと疑われるのは必須だ。
しかし、だからといって、ここで彼女の予想通りに狂犬の様な態度をとっては意味がない。
彼女を懐柔する事とはほど遠い結果になってしまう。
どうした事か・・・
・・・
・・・
・・・
僕が考えていると。
「伯爵、どうするんですか?
会われるのですか?それとも面会を拒否しますか?」
バーニーの声が思考を遮る。
それがきっかけで答えが出た。
よし、とにかく反省している態度で攻める。
『よくよく考えたら不倫した僕が悪かった。
今は毎日アナへのひどい行為を悔いている日々だ』
それでいこう。
本心ではそんな事全く思っていないが、それでいくしかない。
彼女が求める姿を演じきるだけだ。
後はブレないでやるのみ。
「伯爵?聞こえていますか?
アナスタシア公爵令嬢がきていますよ?」
「バーニー、聞こえている。
会う。いいや、会わせてくれ。僕はアナに会いたいんだ」
僕の答えを聞いたバーニーは意外そうな顔をする。
「本当に会うんですか?
伯爵にひどい事をした女ですよ?
憎くないんですか。このまま死刑なら一生会わなくても済むのですよ」
「確かに憎らしいが、会う。
バーニーも彼女にはちゃんと接して欲しい」
「私は監視官として接するだけです。
それ以上の事はしません」
「それでいいよ。
それでアナはすぐに来るのか?」
「はい。今は控え室で待機されています」
「そうか、バーニー。僕の顔はどうだ?
身なりはこれでいいと思うか?」
バーニーは首をかしげる。
「何を言ってるんですか?
今からお見合いでもするきですか?」
「そんなようなもんだ。
それでどうだ?不快感や汚い感じを受けないか?」
「大丈夫ですよ。特に問題なないと思います」
「そうか。それはよかった。
じゃあ、アナをここに頼む」
「分かりました」
バーニーは扉から離れるかと思いきや、すぐに戻ってきた。
「伯爵、公爵令嬢に変な事はしないでくださいね?」
「んん?何の事だ?」
バーニーは僕を疑うような目で見ている。
「いきなり襲い掛かって殺さない下さい、という事です。
憎いのは分かりますが、私はとめなければなりません。
それに、そんな事が起これば伯爵の死刑が早まります」
なんだ、そんな事か。
彼は何か勘違いしているようだ。
「分かっている。
そんな事は絶対にしない」
「約束してくださいね」
「ああ」
「それでは呼んできます」
「よろしく」
バーニーは扉を離れた。
少しして複数の足音が聞こえる。
そして扉の向こうから。
『アダム伯爵はこちらの部屋になります』
『そうですか』
『扉越しに話されますか?
それとも部屋の中にお入りになりますか?』
『そうですねー。
まずね扉越しで話せますか。
それで決めたいのですが?』
『可能です。では、こちらへ』
すると、扉の窓枠にアナの顔が映る。
彼女は微笑を浮かべている。
僕は努めて笑顔を作る。
彼女の顔を見ると自然とムカムカしてきたが、「彼女に会えて嬉しい」という表情を精一杯努力してつくる。
「会えて嬉しい、嬉しい」と何度も心の中で唱えながら笑顔を維持する。
アナは僕の顔を怪訝な表情で見ながら。
「アダム。お元気ですか。
といっても昨日会ったばかりですが?」
彼女の言葉と雰囲気からは僕に対する敵意は感じない。
しかし善意を感じるわけでもない。
彼女は僕の様子を伺っているのだろうか?
それなら、彼女態度はここからの僕の態度次第だろう。
「体調は問題ないよ。
心配ありがとう。やっぱりアナは優しいね。
僕は君にひどい事をしたのに、こうやって会いに来てくれるし、気付かってくれる。
アナはやっぱりやさしい子だ」
彼女は僕の言葉を聞いて、一瞬固まったようになる。
何を聞いたか理解できないように、まじまじと僕を見つめている。
ここで間を空けては変な雰囲気になるだろう。
彼女が回復する前に思いを伝えないと。
「アナ、ごめんよ。
僕が全部悪かったよ。君がいながら不倫なんてするべできはなかったんだ。
君以上の人なんていない事は分かっていたのに。
僕はそのことを毎日、この部屋の中で悔いていているんだ」
アナは隣のカミラに何か言われたためか、固まっていた表情を戻し。
「そ、そうですか・・・」
とだけ返事をする。
それから僕の心意を探るように観察してくる。
僕の意外な行動に彼女は戸惑っているようだ。
するとバーニーが。
「アナスタシア公爵令嬢。どうなされますか?
中へ入られますか?
それともこのままお話ししますか?」
アナは僕を数秒見てからカミラと目を合わせる。
数秒考えるように黙り。
「中へお願いします」
よし!第一関門突破だ
僕は心の中で歓喜する。
彼女の警戒網の一つをかいくぐれたようだ。
「分かりました」
バーニーが鍵を外し、扉を開ける。
「どうぞ」
「ええ」
アナとカミラが部屋の中に入ってきた。




