22話 4日目:昼 【妻】面会後
【アナスタシア視点】
クラウディウス第三王子との面会を終えた後、アナスタシア公爵令嬢は気分を害していた。
王城の一室で寛いでいても、それは収まらなかった。
ほんと、もーう。
あの第三王子、頭きちゃう。
第三の癖に、私に対してあからさまに脅しをかけてきたの。
離婚を取り消して、アダムと同じように死刑にするって脅してくるんだから。
ビックリしちゃった。
それを今言うのって感じ。
確かに第三王子なら王城の業務に介入できるだろうけど・・・
通常の手段なら離婚の取り消しなんてできないはず。
だから通常ではない手段を取るって事なんだと思うけど・・・
そんな事したら第三王子事態もまずい事になるはずだわ。
だって「離婚取り消し=私の一族の死刑」になるのだから、お父様も黙っていないはず。
貴族の一勢力を敵に回してまでそんな事・・・実際はしないと思う。
もしすれば、泥沼の戦いになるのが見えてるんだから。
第三王子はレムリア帝国本国から来た代理の執政者の一人。
実務にはタッチせず、この国、ユーフォニア王国が レムリア帝国領であることを示すだけのお飾りの提督。
よそからきて代理で統治している王族と、実際に実務を担当している現地貴族の溝は深いんだから。
しかも、お父様は現地貴族の筆頭勢力なんだから。
第三王子がわざわざこの国と本国との亀裂に油を注いで、抗争を煽るような事はしないと思いたいわね。
他の現地貴族と合意がとれていたり、本国の思惑があれば別なんだけど・・・
そんな話は今まで聞いた事がないわ。
私が知らないだけかもしれないけど。
でも、今回の面談で分かった事があるから無駄ではなかったわね。
そう、それは・・・
私は隣に仕えている彼女を見る。
「カミラ、元お母様に対する暗殺の依頼元は、どうやら第三王子のようね」
「はい。左様かと。
あちらは少しも隠す気はなかったようですが」
その通り。
あんなに分かりやすくていいのって。
ちょっと疑っちゃったぐらいだから。
「あからさまに脅しをかけてきましたからね。
それに関しては分かりやすくて嬉しいわ」
「きっとあちら側としては。
マリアンヌ夫人に関わらなければ、アナスタシア様には何もしないと分かりやすく伝えたかったのではないかと」
そのメッセージは間違いなく私に伝わったわ。
ある意味、第三王子のコミュニケーション能力は高いかもね。
「でも、何故暗殺なんてしようとしたのかしら。
元お母様は時間が経てば死ぬでしょうに。
急いで事を進める必要も無いように思えますけど」
「そこは分かりませんが、暗殺するとなればそれなりの理由があるはずです。
それをアナスタシア様に知られたくなかったのかもしれません」
私に知られたくない理由か・・・
元お母様についての情報で第三王子が困りそうなものとなると・・・
・・・
・・・
はっきりいって思いつかない。
「でも、そんな事したらますます知りたくなってくるわね。
一体、元お母様は何を知っているのかしらね。
とっても興味深いわね。とっても・・・」
「アナスタシア様。それは危険な遊びかと。
第三王子様の警告が脅しだけでしたら問題ありませんが。
暗殺者を放つレベルになりますと、本当に手を打ってくる可能性もあります。
遊びではすまないかと」
もーう。
相変わらず心配性ね。カミラは。
「分かってるわ。
でも、このまま弱みを握られたままではいい気がしないわ」
「それはそうですが。
相手が第三王子様になりますと、少々準備がいりますかと」
そうね。
彼を追い落とすとなれば。
アダムを嵌めた時同様、ある程度の手順を踏む必要があるでしょうから。
「しかしいつ第三王子様が私の脅威になるか分かりません。
何かしら手を打っておいた方がいいかもしれませんよ」
「はは。アナスタシア様。
脅威を未然に防ぐ事には賛成いたします。
しかし、同じ事の繰り返しになりますが、相手が王族となりますと・・・」
陰謀大好きカミラが躊躇している。
現実的な思考をする彼女にとって、今の状況では良い策が浮かばないのかもしれない。
それも仕方ないかも。
王族相手に何かするとなると・・・
失敗した時は私、いえ、私と関係者が一緒に滅ぶのはほぼ確定だもの。
ほんと、危険な遊び。
「分かっているわ、カミラ。
でも、なんとかして危険は排除しないといけないわ。
こういうのを放置しておくのはいいとは思わないの」
「はい。
少々やっかいではございますが、不可能ではございません。
もし、第三王女様を排除する必要がある場合は・・・」
カミラが私の顔を伺う。
どうやら、この短時間でいくつかの策が浮かんだのかもしれない。
心強い限りです。
「そうね、時機を見定めましょう。
今はアダムを懲らしめたばかりですから」
「左様でございますか」
少し落胆した様子のカミラ。
彼女としては、第三王子を今すぐにでもどうこうしたかったのかもしれない。
「そういえばアダムにも面会に行かなくちゃね。
審問でアレだけアダム好きアピールをしたんだもの。
面会に行かなければ私の体裁に関わります」
「はい。そういわれると思いまして、面会を手配しておきました」
さすがカミラ。
細かい事に気が利きます。
「では、さっそく行きましょうか。
彼はどこにいるの?私の元夫は?
地下深くの牢獄にでも繋がれているのですか?」
「いえ。アダム様はまだ王城の一室にいるようです。
以前私達が訪れた部屋になります」
へー、そうなんだ。
てっきり死刑囚にお似合いな、薄暗くてネズミがそこら中に走り回っているような。
劣悪な地下牢にでも繋がれてると思っていたのに。
ちょっとガッカリ。
「少し残念ですね。
元夫が死刑にでもならなければ、地下牢など見学できないでしょうに」
「いずれ移送されるかもしれませんので、見学の可能性はおありかと」
「そうなる事を祈りましょう」
「はい」
「それでは、いきましょうか。
カミラ、差し入れも用意してありますね?」
「勿論でございます。
以前差し入れしたクッキーをご用意しております」
そういえば、前回クッキーを渡した気がする。
あの時のアダムはすっごく喜んでいたな。
これから何が起こるのかも知らずに純粋に・・・
「それはいいですね。
アダムはクッキーが大好きですからね。
カミラ、分かっていると思いますが」
「はい。アナスタシア様の手作り風に仕上げております。
市販品との違った趣があるかと」
アダムは手作りに弱いから。
「満点です。
やはり差し入れは心がこもった物に限りますからね。
アダムも喜んでくれるでしょう」
「それは勿論かと」
しかしそこで私は最後に会ったアダムを思い出す。
審問で死刑が決まった後の彼。
私の策略に嵌ったのだと気付いた後の彼。
「でも、アダムは最後に会った時、私を殺すと言っていましたからね。
会った瞬間に子犬の様に噛み付いてこないか心配です」
物騒な事をしてこなければいいけど。
そこのところはどうなんだろう?
「それは大丈夫ですかと。
私が常に傍に備えておりますし。
いくら追い込まれたからといって、アダム様はそのような原始的な手段には訴えかけてこないと思います」
まぁ、以前までのアダムならそうね。
今回の事件で人が変わっていなければそうだと思う。
「そう願いたいものですね。
小心者のアダムですから、滅多な事はしないと思いますが」
「はい。その通りかと」
しかし一つ懸念点がある。
「ですがカミラ、どうしましょうね?
部屋の中に入るか、扉越しに会話をするべきか?
夫を愛する妻なら部屋の中に入るべきなんでしょうが」
「その点については、アダム様を見てからご判断されては。
危険を感じれば扉越し話されれば良いかと」
うーん。
カミラの案がいいかな。
私としては、部屋の中に入った方がドキドキして楽しそうだけど。
子犬の様にいさましいアダムに触れてみたい気もする。
「そうしましょう。
楽しみですね。あのアダムはどんな顔をして私に会ってくれるのか。
久しぶりに彼に会うと考えるだけでワクワクします。
まるで昔のようですね。意味合いは違いますが」
「アナスタシア様。実は私もです」
普段無表情なカミラも、どこかちょっと楽しそうだ。
彼女がアダムの事をどう思っているかは分からないところも多いけど。
「それは良かったわ。
では行きましょうか。あの部屋ならそれ程時間もかからないでしょうから」
「はい。すぐにかと」
それから私とカミラは、アダムが捕らえられている部屋に向かった。




