21話 4日目:昼 【第三王子】面会
【クラウディウス視点】
クラディウス第三王子は、王城の一室でアナスタシア公爵令嬢を出迎えていた。
私の前にいる公爵令嬢は、奇麗にドレスアップして微笑んでいる。
昨日夫と離婚し、その元夫が王族殺しで死刑になたっとは思えない雰囲気だ。
女心は分からないが、彼女は感情を隠すのが上手いのかもしれない。
「これはこれはアナスタシア公爵令嬢。お久しぶりです。
私の事を覚えておりますでしょうか?」
「まぁ、第三王子様。それは勿論でございます」
彼女はネコ撫で声で返事をする。
「よかった。忘れられているのではないかと思いました」
「第三王子様を忘れられる人はいませんわ」
彼女はそういって微笑む。
「先日の件は誠に残念でした。
私は大切な妹を失い、あなたはひどい仕打ちを受けたのですから。
心からお悔やみを申し上げます」
「ありがとうございます。
第三王子様をつらい御立場だとお察しします」
「いえいえ、それが王族としての勤めですから」
それから私は公爵令嬢と慰霊祭について話しをした。
形式的な話だったので、特に問題が起こる事もなく、何事もなく時間が過ぎていく。
そしてその後。
「公爵令嬢。
そういえば、とある噂を聞いたのですが、お聞きしてもよろしいですか?」
「まぁ!そんなに改まって。怖いですわ」
彼女は茶化すように返事をするが。
その声はどこか私を警戒している様にも思える。
「いえいえ、令嬢を怖がらせるような話しではありませんよ」
「そうですか。それでは、なんなりと」
「実は、ユヌス教団に捕らえられているマリアンヌ夫人が暗殺されかけたと聞いたのですが。
ご存知ありませんか?」
私は公爵令嬢の動きを一瞬も見逃さないように注意深く眺める。
「確かに、そのような噂を耳にしたかもしれません」
彼女の反応からは、特におかしなところは見られない。
動揺している様子もなく、敵意も感じない。
「そうですか。やはり知っていましたか。
他に何かご存知ありませんか?」
公爵令嬢は少し間を置いてから。
「噂については・・・なにも」
それだけ言う。
随分慎重に言葉を選んでいる印象だ。
彼女は私の放った暗殺者を捕らえているのだ。
その事を彼女から話すかもしれないと思ったが、あてが外れた。
それなら、もう少し強く押してみよう。
「そうですか。マリアンヌ夫人は妹を殺した男の母親です。
王族を殺した者が極刑になるのはこの国システム上必要です。
ですが一人だけでは足りません。
夫人にも死刑になってもらわねばいけないのです。
妹の命はそれ程軽くないのです。
分かりますね?アナスタシア公爵令嬢」
「はい、勿論です。
マリアンヌ夫人とは懇意にさせて頂いていたのですが、残念です」
彼女は本当に悲しそうな顔をする。
マリアンヌ夫人が死んでしまう事がつらい様な表情だ。
私にはその表情が演技には見えなかった。
令嬢が悲しむ姿は見たくはないが、話は進めなければいけない。
「共通認識がとれて幸いです。
それで先程の件、暗殺未遂の件なのですが。
夫人を裁くのはあくまで王城でなければならないのです。
なので、もし暗殺未遂が本当であれば、裁きの日まで夫人の命を守る義務が王城にあるのです」
「はい。そうですね」
「もし、公爵令嬢が夫人暗殺未遂の実行犯を知っているのであれば、その噂をお聞きしたいのです。
実行犯には懸賞金をかけようとも思っていましたので、公爵令嬢自ら捕らえて頂いた場合は謝礼金も支払うつもりです」
「聞いた事があるような気もしますが、今は思い出せませんわ。
もし、何か分かりましたらご連絡差し上げますね」
彼女は逃げの一手をうった。
どうやらこれ以上聞いても、彼女は自発的に暗殺者を捕らえた事を話さないのかもしれない。
「そうですか。それではお願いします」
「はい。第三王子様」
私達は「会話は終わったと」面会を終える準備をする。
そして、彼女が部屋を出て行こうとした瞬間。
私は公爵令嬢に向かって声をかける。
「それと、アナスタシア公爵令嬢」
「何でしょうか?」
彼女は振り返ってこちらを見る。
意図しない時に私に話しかけられたためか、彼女の表情はやや硬い。
「マリアンヌ夫人とは今も懇意にされているのですか?」
「勿論です。以前から親しくさせて頂いています」
「それですと、夫人の問題についてもご存知なのですか?」
「何の事でしょうか?」
彼女の表情を見るに、思い当たるような事が何も無いようだ。
夫人から何も聞いていないかもしれない。
「いえ、私の思い違いでした。
それよりも、審問の記録を読ませて頂いたところ、少し気になる事があったのです」
彼女は一瞬視線を鋭くし。
「なんでしょうか?」
「妹の件です。
アダム伯爵が死刑になった証拠ですが、いくつか疑問に思ったのです」
彼女と私の視線が交差すると、公爵令嬢は一瞬間をためてから。
「そうなのですか?」
「はい。公爵令嬢の立場でしたら、ある程度証拠を操れるのではないかと。
それに審問の決め手はあなたの証言でした。
勿論、私は全て真実だと思っていますが、もし、違っていたら大変なことですからね。
もし証言や証拠が出鱈目だとすると、有罪の者が外にいるという事になりますから」
私は彼女を揺さぶる。
あの審問での彼女の行動は出来すぎな気がしていたのだ。
私は実際の審問にいなかったので伝聞情報によるものだが。
その分雰囲気に流されずに判断できる。
だが、公爵令嬢は柔和な笑みを浮かべたまま表情を変えない。
私の言葉に動揺はしていないようだ。
「おっしゃっている事がよく分かりませんが」
「そうですか。
それと知っていると思いますが、我が国の婚姻制度には離婚の取り消しの猶予期間があるのです。
その期間中であれば、離婚の取り消しを行う事が出来るのです」
彼女は離婚して安心しているようだが。
それはまだ完璧ではない。
彼女が王族殺しの親族になる可能性は残されているのだ。
彼女は私のこの言葉に対しても冷静なまま。
「勿論知っていますわ」
「その取り消しの最終決定者は王城です。
もし、何らかの事情で公爵令嬢の離婚が取り消されましたら大変かと思いましてね。
王族殺しの親族が増える事になりますので」
「まぁ!心配ありがとうございます」
公爵令嬢は僅かに頭をゆらして、丁寧にお礼の言葉を述べた。
「いえいえ、そういう事ですので。
噂の件を思い出しましたらお願いします。
それと、他に知っていることがあればいつでもお話をお聞きします」
「はい。それでは」
「公爵令嬢の幸福を願っております」
「私も、第三王子様の幸福を願っております」
そうして彼女は部屋を後にした。
それを見送ってから。
私は隣にいるニアに尋ねる。
「ニア。どうだった?
アナスタシア公爵令嬢の様子は?
私に何か隠し事をしていると思うか?」
「はい。彼女は暗殺者を捕らえたことを隠している事は明白です」
「他の事については?」
「その点についても何かあるかと思います」
「そうか。それで彼女は私の仲間になってくれると思うか?
それとも敵対化するか?」
「クラウディウス様の言葉はかなり効果があったかと思います。
さすがに離婚を取り消されて王族殺しで死刑になる可能性があるとなれば。
彼女も下手な動きはしないでしょう。十分に釘はさせたかと」
「そうだといいがね。
公爵令嬢の心は私にはよく分からないから」
「それ程心配する事はないかと。
それよりも、次に会われるユヌス教団の方が難敵かと思われます」
「そうだな。でも、上手く行くことを祈ろう」
「はい。勿論でございます」
私はこれからの面談に備えて気を引き締め直した。




