38話 3日目 【夫】審問 5
【続・アダム視点】
「では、次はアナスタシア夫人、お辛いでしょうが、お願いします」
「はい」
彼女が立ち上がり、証言席に移動する。
観衆は彼女の一挙一挙を見守っている。
彼女と目が合うと、僕は申し訳ないと頭を下げる。
アナが証言席につくと、大公が口を開く。
「アダム伯爵の事件当夜に行動について、先程ダグラス騎士から報告がありましたが。
間違いありませんか?」
「はい。ありません」
アナははっきりとした口調で答える。
「何か付け加えることもありませんか?」
するとアナは、僕の方をチラリと見る。
辛そうな顔で。
僕は「?」だった。
どうしたのだろうか?何故そんな顔で僕を見るのか分からない。
「実は・・・」
アナは話そうとして、すぐに口を閉じる。
一体、なんだというのか。
彼女はどうしたのか。
「アダム伯爵の事は気にしなくても構いませんよ。
彼はあなたを裏切っていた事は間違いないのですから」
アナは何か、心の中で葛藤しているかのように地面を見つめ。
暫くして頭を上げる。
「はい。実は彼から口止めされていたのですが・・・」
なんだ?なんだ?
一体彼女は何を言う気だ。
僕が口止めしたって・・・何の事だよ。
「実は、事件の夜。
彼は証言どおり21時に寝室に向かいました。
私は変だなと思ったのです。
彼がそんな早い時間に寝る事などありませんから」
「それはそうですね。大人の男性はその時間には寝ません」
「そうなんです。それで疑問に思っていたんですけど。
その日の深夜、物音がして目覚めてみると・・・。
その、見てしまったんです」
アナスタシアは俺の方を恐れるようにチラチラと見ている。
何をいってる?アナ。
何を見たっていうんだ?
僕は寝ていただけのはずだ。
それに、さっきからその意味深な視線はなんだ。
さも、僕に何かあるようなその視線は。
「夫人、何を見たのですか?言ってください。
事件を解決する重要な証言なるのかもしれません」
「はい。その・・・」
彼女は辛そうに目を落とす。
ドレスの端を手で掴み、とても苦しそうだ。
「夫人。大丈夫です。あなたは真実を告げるだけでのいいのです。
他の事、アダム伯爵の事は気にしないで下さい。
それで夫人、何を見たのですか?一体。さぁ」
アナはまるで勇気を振り絞るように顔を上げる。
そして、重い口を開けた。
「はい。
私が見たとき、主人は服を汚して、血まれになって帰ってきたんです。
私がその事に驚くと。
彼は狂ったように私に寄ってきて「やっちまった、やっちまった。やっちまたんだ」と錯乱したように何度も同じ事を繰り返していたんです。
私は怖くなって部屋に引き返しました」
はあああああ!
何言ってるんだアナは。
んな馬鹿な。
なんだその話は!
僕はあまりの事に一瞬意識がフリーズしてしまう。
それは皆も同じようだったようで、会場が完全な静寂に包まれた後。
すぐに爆発的に騒がしくなった。
バーミンガム大公は、観衆を静めることなくアナに問う。
「な、なんと!夫人、本当ですか!
その現場を見たんですか!」
「はい。私は主人が信じられませんでした。きっと夢を見たんだと思ったのです。
そう思って次の日そのことを聞くと。
夫は物凄く怖い顔で、私を殺すような目つきで、私に言うんです。
「昨日の事は絶対に言わないでくれ。
誰にも言わないで欲しい。もし言ったら分かってるだろうな」っと。
私は昨日の事が現実だと思って震え上がりました。思わず気を失いそうでした。
もしそれを言えば夫に何をされるか・・・
その、夫にはそういうところがありましたので」
妻はさっきから何を言っているのか。
意味が分からない。
そんな深夜の事も、次の日の事も初耳だ。
殺すような目つきってなんだ。何を言っている。
それに、意味深に、「そういうところ」ってなんなんだ!
僕は頭に浮かんでくる大量の疑問。
アナの荒唐無稽な話しに混乱して叫んでしまう。
「おい、アナ!何言ってるんだ!
嘘を言うなよ!
ふざけるな!
僕がそんなことしたはずないだろ!
なんだよ、その作り話しは!今すぐ撤回しろ!」
「ひぃ」と、妻は声を出して脅える。
しまった!
これじゃ、まるで僕が悪いみたいだ。
「被告人。静粛に。許可があるまで発言は控えるように。
それに今のは脅迫ですよ」
「ち、違います。僕は・・・」
「被告人は、許可があるまで口を開かないように」
僕に注意した後、大公はアナを見て。
「夫人。さぞお辛いでしょうが、もう少し詳しくお願いします。
夫にはそういうところがあった、というのは・・・どういう事ですか?
分かるように言ってもらえるでしょうか」
再び、妻は僕に怯えるようにチラチラと見る。
その意味深なわざとらしい動きが僕を苛立たせる。
なんだその顔と態度は。
まるで僕の事を凶悪犯のイカレ野郎とでも思ってるようだ。
「彼は、その、ちょっと変わっているんです。
血を見るのが大好きなんです。
それで、よく動物を殺して血の飲んだり、その液体を体に塗っているんです。
動物に釘を打ち込んでいる事も見た事があります。
その・・・神と一体になると話していましたけど、私にはよく分かりませんでした」
はぁ!
そんな事、初聞きだ!
一体誰の事を話してるんだ。
誰だその異常者は!そんな奴いるわけ無いだろ!
どこの世界の住人だ!
「アナ!さっきから何を言ってるんだよ。
嘘を言うのはやめてくれよ!アナ!
頼むから本当のことをいってくれよ!」
「被告人は静粛に!」
大公が僕に向かって怒鳴る。
「夫人、お辛いでしょうが、できれば続きをお願いします」
「はい。彼は時々、私にも同じ事をしろと命令してくるのです。
血を飲め、殺せって。血を飲め、殺せって。
僕の事好きならできるよな?って。
それで私が拒否すると、彼は、その・・・暴力を振るうのです。
体に傷やあざ残らないようにギリギリの力加減で」
会場は騒ぐ。
『まぁ、最低の男・・・』
『なんて男!なんて男!なんて男なの!』
『悪魔教の崇拝者!』
『皆さん、こちらを見ないで下さい。我がユヌス教団はその様な事はしておりません』
僕はもう何が何だかわからない。
アナはさっきから嘘ばかりついている。
なんでそんな事をするのか。
2日前まではあんなに優しかったのに。
僕の部屋に来て、クッキーまでくれたのに。
どうなってるんだ?




