37話 3日目 【夫】審問 4
会場中の視線が僕とアナスタシアに向いている。
貴族令嬢達は、「まぁ!」という顔で、醜悪な好奇心を丸出しにしている。
心配そうにアナスタシアを見る者や。
大半の女性がそうだが、僕を怒りの対象として、軽蔑の目で睨みつけてくる者。
人でなしの男を見るように睨みつけてくる。
カンカン
「静粛に、静粛に」
バーミンガム大公は木槌を鳴らす。
それでも会場は静まらない。
これまでは一回で静まったのに。
カンカン
「静粛に、静粛に」
二度目のそれでやっと静かになった。
バーミンガム大公は傍聴席を見ている。
「アナスタシア夫人、お体は大丈夫でしょうか?
もしご気分が悪いようでしたら、審問を一時停止しますが」
カミラに介抱されたアナは、弱々しく、しかし気丈に振舞う。
「大丈夫ですわ。すみません、少し気分が悪くなりまして。
続けてくださいまし」
パチパチ
アナの気丈さに誇らしさを覚えたのかもしれない。
傍聴席からは、小さな拍手が沸き起こる。
審問官の大公も「うんうん」と何か頷いている。
「分かりました。お気持ちはお察しします
では、続きを」
「はい。物的証拠は以上になりますので、ここからは証言になります。
被告人のアダム伯爵は、事件当日、21時に寝たとおっしゃり。
それから我々騎士団が訪れまで寝ていたと証言しています。
伯爵家の者も21時に部屋に入ったと証言をしています。
又、第三王女様に関しては、夕食後、こちらも21時には部屋に入られたようで。
それ以降の目撃情報はありません」
「ほうほう。それで騎士団では今回の事件をどうみてるですか?」
「はい。
我々は、アダム伯爵が部屋に戻った後。
第三王女様に合うために家を抜きけだし。
その後、噴水広場で殺害したと推測しています。
同じように第三王女様も城を抜け出して噴水広場に行ったかと。
やりとりしている手紙を見ますに、そこが逢引の場所になっていたようです。
殺害動機としては男女問題ではないかと。
手紙を見る限り、アダム伯爵は夫人と離婚して第三王女様と結婚すると仄めかしていますが。
それに対して第三王女様は懐疑的だったようです」
「よく分かりました。とても分かりやすかったです。
他には何かありますか?」
「いえ、以上になります」
ダグラス騎士は椅子に座る。
「ご苦労でした。
もう、他に聞くこともない気もしますが、アダム伯爵に聞きます。
今行われた報告に対して、反論をしたい箇所はありますか?」
僕は席を立つ。
それはもう、尋常じゃない量の言いたいことがあった。
おかしな事だらけだ。
真実のほうが少ない。
僕は何もしていないのに。
これじゃーまるで僕が犯人のようだ。
どう考えてもおかしい。
「あります。勿論あります」
「そうですか」
大公は何故かがっかりしたように肩を落とす。
僕が無駄な努力でもするとでも思っているのだろうか。
「では、どうぞ」
「はい。
まず、物的証拠としてとりあげられた指輪と腕輪です。
確かに僕の物ですが・・・
僕が犯人だとしたら、そんなもの絶対に犯行現場に置いてはいきません」
「焦って落としたのでは?噴水で血を洗い流す時に外したり」
「んな馬鹿な。そんな事はありえません!」
「それでは、指輪と腕輪はどう説明するのですか?」
「それは・・・きっと盗まれたんです。犯人が盗んで置いていったんです」
「それらがいつ盗まれたのですか?」
「それは・・・殺害の日の夜でしょう。
僕が寝てからです。それまでは、指輪も腕輪もしていました」
「アダム伯爵の家に入って、誰にも気づかれずに盗む事は可能なのでしょうか?
そもそも、そんな事をしてから殺人に行く意味が分かりませんが」
「それは・・・その・・・僕に罪を擦り付けるためです。
それにその日は、その・・・・僕は彼女と約束をしていません」
「約束をしていない事を証明できるのですか?」
「それは・・・第三王女様がいない今となっては・・・」
バーミンガム大公、「情けない」という様な顔をして、傍聴席を見る。
「アナスタシア夫人。
その日に、屋敷に怪しい人物の進入を受けた形跡はありましたか?」
「いいえ、その日は夜遅くまで起きていましたが、ありません」
再びバーミンガム大公は僕を見る。
とても疑わしそうな目で。
「だそうです。アダム伯爵」
「それは・・・犯人が誰にも気づかれないように上手くやったんです。
そうに決まってます。そうですよ。そうやって第三王女様も殺したのです」
そうだ!
僕は犯人じゃない。
きっと真犯人がいて、そいつが僕に罪をなすりつけているとしか考えられない。
だが、大公はそうは考えていないようだ。
僕を見る目が痛い。
全く信じていないのが伝わってくる。
「随分、都合が良い話ですね。他には何かありますか?」
他には・・えーっと。
そうだ、動機だ動機。
僕はセレステを愛していたのだから。
彼女を殺す気など全くなかったのだから。
「僕には第三王女を殺す動機はありません」
「そうですか。それでも不適切な関係にあったのでしょう?」
その言葉に僕は詰まる。
手紙を暴露されれば、僕と第三王女様の関係はもう知られてしまったも同然だ。
でも、それを妻の前で宣言する事は出来ない。
会場中が僕の言葉を待っている。
「それは・・・関係ありません。
僕は彼女の事を、その、嫌ってはいませんでした」
「嫌っていないですか。随分遠まわしな表現ですね。
妻がいる身で、あんな情熱的な手紙100通も送っておいて。
あなたは他の方にもあのような特殊な手紙を送っているのですか?」
「まさか!そんな事ありません。セレステ、いや・・・第三王女様だけです」
そう答えた瞬間。
傍聴席から悲鳴が上がったのが聞こえた。
「アナスタシア様!!!お気を確かに!!!」
再びカミラの声が会場にとどろいたのだ。
気絶しそうな程弱々しくなったアナがカミラに介抱されている。
その隣には、母がこれまで以上に小さくなっていた。
周りの観衆は、そんなアナと母を見守っている。
ごめん、母さん。
それにアナ。
でも、ここで言っておかなければならないんだ。
アナには、「セレステ」と僕の口から出てきたのが深くささったのかもしれない。
僕はアナに悪いと思いながらも、今は何も出来なかった。
大公は、心配そうに傍聴席を見ながらも、再び僕に視線を戻す。
アナは大丈夫だと思ったのだろう。
「被告人、他には何かありますか?」
僅かに強くなった大公の言葉。
僕は頭を廻らすが、何も思い浮かばない。
くそっ!会場中が僕を犯人だと確信している空気だ。
何か言わないとまずいのに・・・でも、何も思いつかないんだ。
だから、時間を稼ぐために思った事を口にする。
「僕は殺していません!これは何かの間違いです!
信じてください!僕が第三王女様にひどい事をする様な非道な男に見えますか?」
さぁ、どうですか?」
だが、僕の言葉は逆効果だったようだ。
『お前がやったんだろ。それなら納得だ』
『王女様だけなく、夫人まで気づつけるなんて』
『なんて男なのでしょう。最低のクズですね』
どうやら、観衆からは支持を僕は完全失ったらしい。
それも悪い方向に。
カンカン。
「静粛に、静粛に」
大公の木槌で再び静粛になる会場。
「どうやら他にはないようですね。では、被告人は着席を」
「ちょ、そんな!」
「何かあるのですか?何か?」
大公に睨まれるが、僕は何も思いつかない。
「それは・・・・ありません」
僕は反論できなかった事が悔しかったけど、椅子に座った。




