22話 1日目:夜 【夫】一時の恋
夜が来た。
ベッドで寝ていると一つのことを考えてしまう。
それは第三王女の事だ。
彼女が死んだ、殺されたと知った時、僕は驚きのあまり声を上げられなかった。
初めて話したのは、彼女の18歳の誕生日パーティーだった。
貴族とのやりとりに疲れ、風に当たりにバルコニーに行くと声が聞こえたのだ。
『おやおや、セレステ様。こんなとこでどうしたのですか?』
『風に当たりたかったのです』
『そうですか、私も会場の熱気に押されましてね。ちょうど同じ気分でして』
自分と同じ事を思っていた人がいたらしい。
先客がいるので他の場所に行こうと思った時。
『どこ行くんだい?もう少し一緒にいようじゃないか?なぁ?』
『やめて、離して下さい。兵を呼びますよ』
穏やかでない声が聞こえてくる。
僕はその声の方に移動すると、とある男が女につめよっていた。
男の方は、確か・・・ユーリ侯爵。
僕のより一つの上の身分の男。
端正な顔で貴族令嬢には人気だと聞いている。
女の方は、んん?あれ?
なんと今回のパーティーの主役、第三王女様だ。
驚いた。
今夜の主役がこんな寂しい場所におり、野蛮な男に襲われようとしているのだ。
目の前ではますます状況が悪化している。
『うるさい小娘だ。少々躾が必要なようだな』
ユーリ侯爵がそう叫んだ瞬間、僕はその間に割って入った。
「貴様!何をやっている。王城で第三王女様に。気は確かか?」
ユーリ侯爵は何か反論してきたが、僕が言い返すと。
彼は負け台詞を吐いて去っていった。
何、よくある貴族同士の鞘当だ。
言葉でけん制しあって、まずいと思ったら被害が出る前に撤退する。
恒例行事。
隣の彼女、第三王女様を見ると、彼女は満足げに微笑んでいた。
「とっても愉快な頭をしてるんでしょうね」っと、得意そうに言ってまでいる。
僕は彼女の危機感の無さに驚く。
第三王女であり、それ相応の美貌を持っている女性が。
一人でこんな場所にいることを、何とも思っていないようだからだ。
「愉快なのは君の頭だろ」と言いそうになったが、少し抑えて注意する。
だが、プライドの高いお嬢様はそれでも気に障ったらしい。
逆切れして僕につっかかってくる。
なので僕も反論する。
いくら相手が第三王女とはいえ、年下の女性に言い負けるのは感に触ったのだ。
いいや、違うな。
どこか彼女に魅力を感じていたのかもしれない。
普段だったら女性に対してこんな無礼な態度はとらなかったはずだ。
でも、彼女に対しては、何故か強く出てしまうのだ。
心の琴線を触れられるからかもしれない。
彼女は僕に「馬鹿」と言われたことに「まぁ!」っと、口をあけて魚の様に驚いていた。
正直その間抜け顔に笑いそうになったけど、同時にかわいいとも思ってしまった。
彼女の口元をついつい見てしまう。
僕は暫く彼女と言い合い、それからその場を立ち去った。
もっと話していたかったけど。
それ以上彼女と一緒にいると、僕の心を抑えきれないかもしれないと思ったからだ。
一応最後には礼儀として、誕生祝いを述べ、プレゼントの事を伝えた。
妻のアナから「必ず王女様に会って、直接祝いの言葉とプレゼントの事を伝えるように」と。
助言というなの命令を受けていたからだ。
でも僕はそんな助言よりも、自分の心の中に生じた感情に気づいて行動したのだ。
何か彼女を褒める理由が欲しかったのかもしれない。
褒めたくはないのだけど、同時に彼女のことを喜ばしたかったのだ。
きっと僕は彼女に引かれていた。
◇
それからは早かった。
僕は事情をつけては第三王女様に会い、ただ話す機会を増やした。
彼女と少しでも一緒の時間を過ごしたかったのだ。
彼女の傍にいるだけで僕の心は高揚していた。
でも、妻には悟られないよう接触にはかなり注意した。
第三王女の予定を調べ上げ、偶々会った風に装ったのだ。
直接用事をつけるような事はしなかった。
いくら公務であろうと、年頃の第三王女様と頻繁に会うと噂されるのは必須だ。
なので他の用事のついでに、偶然を装って王城の廊下や控え室で会い話を続けた。
ある日。
彼女が他の男を話しているのを見た時。
僕はその後彼女に会って強引に手を取り彼女の唇を奪った。
嫉妬を感じていたのかもしれない。
彼女も満更ではないようだった。
その証拠に強く唇を押し返してきたのだから。
彼女は、僕と会うことを望んでいるようだった。
それを表すように自然と僕が会いやすい様に普段の予定を調整してくれていた。
彼女の好意は明らかだった。
そしていつしか、恋人関係になっていた。
第三王女である彼女は独身だが、僕にはアナという侯爵令嬢の妻がいた。
だから不倫だ。
妻の事は愛していたけど、結婚して2年以上が経過し当初の熱は徐々に冷めてきていた。
喪失した心の隙間を、第三王女、いや、セレステが満たしてくれたのかもしれない。
もし周りにばれたら大変な事になるとは思っていた。
相手は王族で第三王女。
もし子供ができればその子には王位継承権が絡んでくる。
僕には妻がおり、妻の父、公爵の臣下。
妻の父は娘を溺愛しているので、不倫がばれれば僕が落ちぶれる事は必須。
なのでもしセレステと本当に一緒になるには。
王族での根回しをし、かつ妻と波風を立てずに別れることが必須だった。
だが、それは中々骨が折れることだ。
僕はセレステとの逢引を繰り返しながらも、今の状況が長く続けばいいと思っていた。
最近はセレステが夜城を抜け出して会ったりもしていた。
そんな大胆な事をして周りにバレやしないかとひやひやしていたけど。
奔放なセレステの振る舞いを魅力的に感じていた。
刺激的な日々だった。
でもそんなある日。彼女が殺されたらしい。
勿論犯人は僕じゃない。あの日は寝ていたんだから。
でも、何故彼女が殺されたのかは分からない。
誰かに狙われているという様な話は聞いたことがなかったし、彼女は普段どおりだった。
それに今回どういう状況で殺されたかも、情報が全く入ってこないのだ。
僕とセレステとの関係がばれているのかどうかも。
予備審問では「憎いのか?」「殺したかったか?」と聞かれただけだ。
「不倫をしていたのか?」とは聞かれかった。
なので多分ばれていないのだろう。
それは墓までもって行こうと思う。
もし、そんな事がばれれば僕は失うものが多い。
セレステ殺しの疑いは強まるだろうし。
今、最大の協力が欲しい妻と公爵にそっぽを向かれる事になってしまうのだから。
僕は絶対にばれないようにと祈った。
そうしながらも、今日のことを思い出した。
今、唯一の希望は妻だ。
その妻が今日この部屋を訪れて言ってくれたのだ。
「愛していると」と、僕を助けるために全力を尽くしてくれると。
彼女は一生懸命僕の話を聞いてくれたし、何度も励ましてくれた。
おまけにクッキーまでくれた。
僕はとても嬉しかったし、彼女の表情が、彼女の手のぬくもりが心を癒した。
じゅわっと心が妻の愛で満たされたのだ。
僕はその感情を味わいながらも、妻のことを考えた。
妻を愛している。それは間違いない。
この難局を逃れるには彼女の協力が必須だし、本当に愛しているから。
僕は本当に良き妻に恵まれたと思った。




