第46話
昨夜の夢はやけに具体的な夢だった。
十の魔眼を持つ者と人形の愛好者……。鏡華ちゃんはこの2人の人間を魅入ってしまう。
どのような状況、手段で魅入るかはわからない。
しかし、先に待つのは朝山学園、昼山中学、夕山学園、夜山中学の4校それぞれの外部と内部の抗争──いえ校争。
そして、それは『悪意』で歪んだ校争になる。
****
私──中山晴恋は鏡華さんと月見さんとともに電車に乗り夜山町へ向かっている。夜山駅は夕山駅を挟んで昼山駅から一駅先。
夜山町はニュータウンというだけあって祭りに伝統はほとんどない。しかし、その祭りの形態は近未来的、商業的というべき? 出店はもちろん、あらゆる企業が新商品としてゲームやロボットなどを発表する場でもあり、他の町とはまた違った楽しみがある。……というより昼山が特徴ない気がする。伝統といえば聞こえは良い。
「確か然地堂が立体型シューティングゲームを出店するらしいな」
「あそこは並ぶでしょ。見るだけでも混雑だよ」
「いつも体験は指名制だろう。もしかしたら指名されるかもしれないだろう?」
鏡華さんと月見さんがそんな会話をする。
なまじ大手企業が出店するため全国から人が集まる。そのため当初は駅の近くの大きいグラウンドだけを使っていたが、段々と規模が大きくなり夜山町全部のグラウンドとストリートを使っての出店や展示となっていった。その中でもゲームの展示場は人気。
「限りなく確率が低そうだけど……。あっ! 鏡華、晴恋着いたよ」
2駅だけから早い。
私達が駅から出ると、そこはとても田舎とは思えないほど発展した街並みが見える。駅の前の道路には出店が並んでいる。
月見さんが感嘆の声で言う。
「いや~、夜山の祭りは何度来てもすごいよね」
「確かに。一番山に囲まれてるのにな」
鏡華さんが月見さんに答える。
「どこ行く?」
私は2人に聞いてみる。
「とりあえず何か食べよう」
「チョコバナナ食べようよ」
月見さんの案に決定。
私達はチョコバナナを食べながら然地堂が出展しているグラウンドに向かっていた。
鏡華さんは同じ方向に向かう人の流れを見渡して言う。
「これは無理そうだな」
おそらくゲームの体験のこと。
一応この祭りはフライングで前日に列に並ぶ事などは禁止にしている。それ故に列に並ぶのに地元民は有利。だけど、夏という防寒着などを必要としない温暖な季節のためか野宿をする人が多数いるとか。
ふと気付くと鏡華さんは人混みの中で何かを見ている。月見さんも鏡華さんの視線の先が気になるのか月見さんも見る。私も2人に倣ってそちらを見る。
そこには金髪碧眼でスタイルが良く、童顔で美形な男の人が幾多の女子を連れて歩いていた。そんな集団の会話が耳に入る。
「レンさま~、あ~ん」
女子の一人がチョコバナナを男の前に持っていった。男はそれを嬉しそうに噛じる。
「ありがとう。調度食べたかったんだ」
「な?! ズルいですわ! レン! これも食べてくださいませ」
別の女子はリンゴ飴を差し出した。男は困ったような笑みでそれも噛じる。
他の女子達も手に食べ物を持ち男に食べさせようとしている。
「うわぁ……」
「気持ち悪いな」
「何あれ? ハーレムマンガの主人公?」
私達は侮蔑の目で彼らを見る。
確かに男は美形、女子達もみんな美少女だ。だけど、いくら美男美女でもあれはない。
「もしかしてあの男……夜山中の北見蓮十郎かな?」
月見さんがどうでも良さそうに言った。
名前だけなら聞いたことあるような気がする。
「誰だ?」
「鏡華知らないの? 結構な噂だよ。夜山の王子とかいうふざけた二つ名の男。確か中2だったはず」
なるほど、童顔なのではなく年相応なんだ。
「私よりマシな二つ名だな」
鏡華さんの二つ名は羅刹女……確かに鏡華さんよりマシかもしれない。
しかし、今の鏡華さんは髪を下ろしてワンピースという格好で上品な物腰、大して背が高くない所為か良いとこのお嬢様に見える。あの羅刹女と同一人物とは思えない程の初見殺しぶり。
「夜山の王子なんていう捻りのない二つ名よりいいじゃん」
月見さんが本当とも嘘ともわからない事を言った。なんというか、一つの事柄に違う側面の事を同時に言ったらしい。例えるならコインの表から見える絵と裏から見える絵が違うような感じで、表面では本当の事を、裏面では嘘を言うような。
あくまで私がわかるのはその事柄の真偽だけで、その真偽にどのような意味を持つか、真の内容などはわからない。
「2人はあういうの好み?」
私は興味本位で2人に聞いてみた。
「いや、別に」
「嫌いじゃないけど興味はないよ」
2人とも嘘は言ってない。そこにどのような意味があるかは知らないけど。
「あいつらも然地堂行くみたいだな」
「暑いのにあんな暑苦しい見るのは嫌だよ」
「私もいや」
他の人達も同じことを思っているのかあの集団から避けている。
私達はそんな微妙な会話をしながら人の流れに乗って歩いた。
私達は然地堂が出展しているグラウンドの中にいる。
どうやら今年は入場自体は無料だが、人数制限をかけたらしい。しかし、所詮は市のグラウンド。多人数は入場できない。私達は運良く入場できたけど。
「あ~、入場できたとはいえ滑り込みだからやっぱり後ろの方か」
鏡華さんが背伸びをしながら言った。
然地堂の出展ブースはグラウンドを一つ使っている。グラウンドの真ん中にステージが設置されていて、観衆はそれを囲むようになっているが、人が一人通れるくらいの道が柵でできている。
私は鏡華さんに言う。
「でも今回の然地堂の新作ゲームは映像が飛び出す」
そう! 然地堂の新作ゲームは平面的な絵でもなければ、絵が飛び出してくるわけでもない。正に映像が飛び出す。
そういう私も必死に背伸びをして見ようとする。
「晴恋……私が肩車して上げようか?」
鏡華さんが突然そんなことを言いだしました。
確かに私は平均的な中1女子の身長より低い。鏡華さんも平均くらい。正直な話恥ずかしい。
「ちょっと恥ずかしいな」
「いや、冗談だ」
私と鏡華さんの間に微妙な空気が流れる。
今の冗談は鏡華さんが言うと冗談に聞こえない。
「2人とも、始まるみたいだよ」
月見さんの言葉で私と鏡華さんの空気が壊れる。
私達はステージの方を見た。鏡華さんが呟く。
「あれは……姫都?」
『本日は夜山祭りの企業出展にご来訪ありがとー! 司会は私──姫路姫都がするね!』
姫都さんがマイク片手に無邪気な笑顔で言った。
姫都さんは笑いを取りながらも新作ゲームの説明をして行く。
新作ゲームの内容に関してはシンプルな説明だった。元々ガンシューティングのゲームだからその内容自体はありふれたもの。
そしてとうとう今回の肝に入る。
『私もやりたいけど今日は司会だから出来ないの。じゃあ早速、新作ゲームを誰かに体験してもらね。今回は趣向を変えて係の人が適当に2人選ぶからちょっと待っててね』
しばらく待つと一人目が選ばれる。
『一人目はカッコイイ男の人だね! 名前いいですか?』
『北見蓮十郎です』
一人目は先程話題にしていたハーレム男だった。
『北見さんはもう少し待ってくださいね』
再び係員が2人目を探し出す。
私が月見さんを見ると月見さんは恐い顔でスマフォをいじっている。
「月見さんどうしたの?」
月見さんはスマフォから目を離して私を見る。そこには恐い顔など見る影もなかった。
見間違い?
「え? いや、ちょっとね! 明日急な仕事が入っちゃったんだよ」
直後、月見さんは何かに気付いた顔になる。
今のは嘘……。
月見さんは普段嘘を吐かない。
伊集院君は天才だけど、人心を利用した作戦や人の心を読む術、欺く術、心理戦などは月見さんが上。その事に関しては私の嘘つき兄と互角かそれ以上。しかし、私自身は月見さんの本気を見た事がない。
少なくとも球技大会の時は策を労して鏡華さんを圧倒していた。月見さんが言うには幼児レベルの策らしいけど……。
そんな月見さんがこんな些細なミスをするとは思えない。
鏡華さんを見ると鏡華さんも携帯電話をいじっている。
「ほぅ……。じゃああいつがそうか……?」
鏡華さんはステージの上のハーレム男を見てそう言った。
「あっ! そこの黒髪で白いワンピースで眼鏡をかけた女の子!」
鏡華さんのことかな?
係員が私達に近寄って鏡華さんに言う。
「君、新作ゲームの体験してみない?」
「やります」
鏡華さんは即答した。
しかし、その顔は一見喜んでいるように見えるけど演技。
鏡華さんは眼鏡を外してケースにしまい込んで、バッグを月見さんにバッグを押し付けた。
「月見、ちょっと持っててくれないか?」
「お~け~」
月見さんは承諾し、鏡華さんは係員さんに連れられて行った。
「どうしたのかな? 鏡華さん」
私は月見さんに聞いてみた。月見さんは考える素振りをしてから言う。
「『悪意』絡み……かな?」
「『悪意』ということはあの北見蓮十郎という人が?」
「わからないよ。ただ……」
「ただ?」
「大変なことになるかもね」
私は疑問符を浮かべる。
「まあ、それはここに来ている北乃先輩とあなたのお兄さんに聞きましょうか。入院しているのにわざわざこの祭りに来た」




