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小説家のような存在

拙い文章表現しか持たない私が書く小説もどきです

インターネット・・・。


 この一見全く紙媒体と関係のないメディアに、最近は”小説”という存在を確認することができる。一昔前の人間が紙媒体に書いていたことを、最近の者は(なら)うこともなく電子媒体を介して表現しているのである。十人が十人小説を書くわけではない、書きたい者が書くのだからこそ、紙に書くものであった小説という存在。その小説が現代では手軽に公開の場を設けられ、そのことにより小説を書く者が多くなった。メリット・デメリットが内包されているこのインターネット投稿小説。ここではインターネット小説の事を”小説のような物”という区分で定義をさせて頂きたい。

 さて、この”小説のような物”の中に携帯小説という分野が存在する。その携帯小説をひと際嫌悪している一人の青年がいた。青年は、読書家であり”小説家のような者”であった。今からその青年についての日常を書き綴っていく。お暇な方がいらしたら、少しだけのぞいていただければと思う。



________________________________________


 10月下旬の外気は少し肌寒く、木枯らしは窓をたたくようにして吹いている・・・・なんて風情の効いた情景はこの部屋には介在していない。古き良き民家にはそのようなガタガタと震える窓等が備わっているのであろうが、私の仮住まいに、そのような物は存在していない。


「ふぅ。」


 思わずため息がでる。小説や昔の日本書物等にでてくるこの男の求める情景は、残念ながら文章の中にだけ存在している。


「明日は休みか・・・。」


 誰に聞かせるでもなく、独り言が出る。最近独り言が増えたなと赤塚清二(あかつかせいじ)は思った。


 清二は大学生である。といってもやりたいことはなく、昨今の不況を否が応にも体で感じてしまう清二にとって、就職がこれからの自分にとってどうしても建設的に見えてこないのである。現在はバイトをしつつの学生生活である。

・・・・・・とは言ったものの、働かざる者食うべからずなのは世の常だ。地球は回っても、金は回らず、就職難も続いていくのだ。回ればいいというものでもないが・・・。


 少し夜風に当たりたくなった清二は、不満の種である窓を引いた。少し涼やかな風が部屋の中に吹き込んだ。肌寒くもあるが、暖房で完備した清二の部屋にはちょうどいい塩梅となった。


「やっぱ、囲炉裏だよなー暖房器具は・・・。」


 こんなふうに清二は自分の環境に難癖をつけることが多かった。自分が寒いから電気ストーブをかってきて、体が温まればこのような愚痴を吐く。そのようなことからか、世間一般に対しても清二の受けは良くなかった。当然友達と言える者も数少ない。


 すこし冷えてきたので、窓を閉め、清二は布団に(くる)まる。最近清二は慢性的に眠気に襲われている。眠気は作業効率を低下させる要因になるので、明日に持ち越さないように心掛けている。明日が休みということを利用し、作品を書こうとしていたが、眠気の誘う状態で作品が書ける訳もなく、明日早朝に執筆活動をしようと渋々床に就くことにした。


_______________________________________

 早朝、なにかに安眠を妨げられることもなく、清二は目を覚ました。


「ん~」


 清二は深く蹴伸びをし、朝の到来を自身で告げるように大きな欠伸をした。すがすがしい朝だと外を見てみれば、もう陽射しは清二の事を見下していた。どうやら少し寝すぎたようだ。休日の最初からスケジュールを誤ってしまうのはあまりいい気分ではない。時計を注視すると10時を回っていた。やはり目覚ましはセットしておかないとなと清二は少し後悔した。腹が減っていた訳ではなかったので、ご飯は朝昼兼用で済ませることにした。


まずは執筆だ・・・・朝の分を取り返さないと・・・・。


 誰に強制されるわけでもないにも関わらず、訳のわからない強制力に引き寄せられるまま、清二は自分の作業台へと向かって行った。席に着き、右斜め前の筆入れから一本の万年筆を取り出し、前回の小説の続きから、自分が練りに練ったアイデアを、その拙い脳で表現するままに書き殴った。


 清二という青年は読書家であったが、小説家ではない。小説を書くのは好きでよくやっているが、発想や文体や言葉の使いまわし、表現等が他の作家の真似であるため、オリジナリティーを出せずにいる。これは、小説を書くというよりは、贋作を作る・・・・いや、それにも劣る行為をまるで自己満足の様に清二は繰り返しているようであった。分かりやすく例を言えば、知った知識を知らない人に自慢気にひけらかすようなものに近いのかもしれない。一つ違いを挙げるとすれば、作品を自分の内に秘めて人に見せないということだろうか。


 清二はこのところ、このような制作活動の模倣を行う事が多くなった。一種の自己憐憫から来る現実逃避なのかもしれない。それでも清二にとって、作品を制作することはライフワークの一部となっていた。


 突然、インクが万年筆からでなくなった。清二は万年筆が壊れたのかと思い、万年筆を弄る。どうやらインクが切れたようだ。


「まいったなー。」


 仕方がないので町に買いに行くことにした。そのついでに昼食を済ませよう。あくまでインクを買いに行くついでにだ。清二は歯を磨き、服を着替えると、足早に町の方へと足を進めた。


 清二の足はいつも電車である。郊外にでる際にはいつも電車を利用している。郊外の方に大学があるため、清二はいつも財布の中に定期を入れている。定期情報のはいったICカードだ。普通なら定期入れに入れるものだが、ずぼらな性格からか清二は定期入れに入れることをしなかった。

 

 電車を待っている間、閑静なプラットホームを眺めることは清二の密かな楽しみである。この日の清二は朝の寝坊ですこし苛立っていた。そのため、この癒しの空間はいつもより効果的に清二を癒してくれていた。プラットホームを眺めながらコーヒーを飲めばもっと癒されると短絡的に思い、すぐそこの自販機へ。一般的なメーカーの自動販売機にコーヒーが何本か並んでいる。ブルーマウンテン、カフェラテ、ブラック・・・・色々並んでいるコーヒーの中で飲めもしないブラックを購入。こういうのは気分が大事の清二にとって、味よりも空気なのである。


 勢いよくプルトップをあけ、清二はコーヒーの匂いを嗅ぐ。コーヒー豆の薫り高い匂いが鼻孔を心地よく刺激する。この時の清二の頭の中にコーヒーのCMのワンシーンが展開される。清二は思った。これは焙煎仕込みのコーヒーだ。確認するように缶コーヒーを回してみるが、焙煎とは書かれていない。脳内のCM再生が終了し、早速コーヒーを口に含む。清二は苦いと思った。しかし、何度も言うが、清二にとっては味より雰囲気なのだ。コーヒーを飲み終わる頃に、ちょうど電車がホームに到着した。コーヒーと同じくらい苦い顔をひっさげて、清二は電車に乗車した。

________________________________________


 郊外までは電車で45分のところにある。電車を降り、改札を抜ける。駅前にはバスが走り、噴水の周りにはカップルの待ち合わせと思われる男女が見られるが、平日なので人は多くない。清二は寄り道をせず、羨望町へ向かうことにした。


 羨望町は日本でも有数の本の町である。大型のブックマーケットの類はなく、ほとんどが古書店系統の店ばかりだ。あとは喫茶店、文房具屋、洋服店が少しあるくらいで、形容するなら古き良き時代の名残を孕んだ町である。


 清二が羨望町に行く時、緊急の場合等では決してあり得ない。理由は簡単で、自分の目的の物を買う以外にも本を品定めするのに莫大な時間を要するからである。ひどい時では、9時に羨望町に着き、21時に家路に着くというくらいである。本屋を巡っているとそれぐらいになるのかどうかは別として、彼は羨望町が好きなのだ。どことなく昔チックな空気、暖かい店主さん、癖になるパスタの店など、清二がこの町で長い間時間をつぶすのに足るものが羨望町には存在するのだ。以上の理由から清二は休日にはほとんどこの場所で過ごす。清二の事を知らない羨望町の人は殆どいないと言われているぐらいである。それがいい意味なのか悪い意味なのかはさておき・・・。


「次は~羨望町~羨望町です、お降りの際は・・・・」


 バス車内にアナウンスが流れる。どうやらもうすぐ到着のようだ。降りる準備をしながら窓から羨望町を眺める。何も変わらない、これこそが羨望町。それと言わしめるだけのモノが羨望町にはあるのだ。清二の胸は高鳴った。


 バスが停車し、清二はそそくさと運賃箱の横のカードリーダーにICカードを通す。下車するとそこは羨望町。まるで古書の匂いがするような町、そのような形容をしても決して違和感のない景観。ここに来ると清二は胸がどうしても躍ってしまうのだ。走りだしたい衝動を抑え、まずは近場の古書店へと足を運ぶことにした。


 その古書店の看板には「武藤古書店」という看板が掲げられていた。躊躇することなく店内へと清二は入店していく。店内は年季の入った造りで、木の大黒柱が長年この店を支え続けてきた貫禄を見せるが如く立っている。


源爺(げんじい)ー、いるー?」


 清二がそう叫ぶと中から初老の男が顔を覗かせた。


「ああ、セイちゃんかい。今日もおやすみかい?」


 中から出てきた老人は清二に気さくに話しかけてきた。右手には”はたき”を持ち、つい先程まで店内を掃除していたのか、書店の奥には今も埃が舞っている。


「えっと、例の本ある?今日さ、実はあまり時間がないんだよ。」


 先ほどの執筆の続きがあるためなのか、清二は急いでいる旨を源爺と呼ばれる店主に伝えた。武藤源次(むとうげんじ)は清二の言葉に理解を示し、カウンターの奥に戻ると、机の引き出しから一冊の本を取り出す。タイトルは”吾輩は羅生門である”となっており、ブックカバーをかけて清二に手渡した。


「3000円、ツケはなしな?」


 清二は少し高いと思いつつも財布から3000円を出し、源次の手前にある釣銭受けに3000円を置いた。


「毎度あり~、また来てね~。」


 清二は源次の方に向き直り、軽く会釈すると急ぎ足で店外へ。次に目指すは文房具屋、雰囲気を大事にする清二だが、急がなければまた他の店で時間をつぶし、気がついたときには夜になるという事になりかねない。それ故に町の景観を乱すように急ぐ、雰囲気が大事でもそれ以上の目的があれば躊躇なく乱す、それが清二であった。


 次に向かうは文房具店「アポロ」。色々な文房具と画材等を売っているアポロは、清二にとって武藤古書店に並ぶ馴染みの深い店だ。急げば2分ほどで店に着く。あの路地を曲がればアポロだ、そう思い清二が角を曲がったその時


「きゃっ!」


 清二は思った。ああ、事実は小説より奇なりってのはこのことか・・・なんで急いでいる時に限ってこうもトラブルに見舞われるんだ・・・・。思った時にはもう遅い、ぶつかった相手は持っていたスーパーの袋の中身を盛大にまき散らして倒れた。清二も尻もちをつき倒れたが、すぐに体勢を立て直すと、ぶつかった相手に駆け寄った。どうやら女性とぶつかってしまったらしい。


「だ、大丈夫ですか!?すみません、自分が急いでたばっかりに・・・」


 女性が立ち上がるや否や、清二に向かっていきなり平手打ちをした。

 あっけらかんとする清二に対して女性は高圧的な態度で斜に構えている。


「散らかった私の荷物・・・早く取ってくんない?そのぐらいあたりまえなんじゃない?」


 清二は言われるままに荷物をそそくさと袋の中に詰めると女性に手渡した。女性はひったくるように袋を奪うと中身を確かめてヒステリックに叫んだ。


「ちょっとぉ!卵潰れてるじゃない!どうしてくれんのよぉ!」


 ”容姿端麗、正確に若干の難あり・・・・。うむ、今回は俺が悪い。”率直にそう思う清二であった。とにかく早くこの状況を脱したいと思い、向こうの不満を聞くことに。


「すみません、卵以外に潰れてたりするものありますか?」


 早めにこの場の解消を図るようにしたが、それを聞いた途端に女性はなおヒステリックに怒鳴ってきた。


「ありますかじゃないわよ!!アンタなめてるの?ぶつかっておいて物の心配からするわけ!?」


 女性は活火山のように憤慨し、それに対しての清二の感想は「今日は執筆は諦めよう」であった。


「全くその通りです。よろしかったらお詫びをしたいと思うのですが、お暇はございますか?」


 語弊のない言葉を選び、慎重に活火山の鎮静化に臨む。清二はしたことがないが、化石の発掘はこの作業と遜色ないほどに繊細で難しいのだろうなと夢想した。


「今からバイト。お詫びをするっていうのだったら、午後5時にこの先の「アンジュ」ってサ店に来て、それだけ。じゃあ私急ぐから!」


 女性はそういうとそそくさとバイト先に向かって行った。待ち合わせまでまだまだ時間がある。急がば回れとはまさにこのことをいうのだろうか。本屋巡りの時間ができたようだと清二は気分変えて本屋巡りをすることにした。




つづく

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