第六十三話 夜路地に潜む影
俺は神代レン。普通の高校生――だった。
だがスキル《神核生成》によって、炎の擬神ソレイナ、自然の擬神ユシル、操りの擬神アヤネ、そして海洋の擬神フリートと出会い、俺の日常は大きく変わった。
ゲームセンターを出た俺たちは、夜の商店街を歩いていた。
昼間より人は減っているが、それでも明るい店の光と笑い声が辺りを包んでいる。
そんな中――。
ソレイナが突然足を止めた。
その赤い瞳が、暗い路地裏を鋭く見つめている。
「……主様」
その声に、俺も自然と表情を引き締めた。
「どうした」
「気配があります」
アヤネも静かに頷く。
「はい。先程より濃いです」
ユシルがふわりと浮かびながら辺りを見回した。
「ん〜〜……嫌な感じ〜〜」
フリートの周囲には、小さな水球が浮かび始めていた。
「敵、でしょうか……?」
俺は路地へ目を向ける。
薄暗い一本道。
奥には古い倉庫のような建物が見える。
だが、人影はない。
「……気のせいじゃないのか?」
そう言った瞬間だった。
カラン――。
空き缶が転がる音。
次の瞬間、黒い影が路地の奥を横切った。
「っ!」
ソレイナが即座に炎を纏う。
「主様、下がってください」
「待て、まだ敵って決まったわけじゃ――」
「危険です」
その声は真剣だった。
アヤネが地面へ手を触れる。
すると石畳がわずかに震えた。
「……周囲の地形を確認しました。この先に複数の生命反応があります」
「複数!?」
フリートが息を呑む。
ユシルも珍しく眠そうな表情を消していた。
「……主、逃げる?」
「いや……」
俺は少し考えた。
トランセンド・ラボ。
あの組織なら、こういう場所に潜んでいてもおかしくない。
それに――。
「見逃すのも危険かもしれない」
ソレイナが小さく頷く。
「はい。ならば、排除します」
「物騒だな……」
とはいえ、俺自身も警戒はしていた。
俺たちは慎重に路地へ入っていく。
街の喧騒が遠ざかり、空気が一気に冷たくなった。
アヤネが周囲を見回す。
「……この辺りは古い建物が多いですね」
「だねぇ〜〜」
ユシルの周囲に、小さな葉っぱが舞う。
フリートは俺の近くへ寄ってきた。
「主さん、離れないでくださいね」
「あぁ」
奥へ進むにつれ、不気味な静けさが増していく。
やがて、古びた倉庫の前へ辿り着いた。
入口のシャッターは半分壊れている。
中は暗い。
だが――。
「……いる」
ソレイナが低く呟いた。
その瞬間。
ギィィ……。
倉庫の奥から音が響いた。
何かを引きずるような音。
重い足音。
そして。
「……見つかっちゃったねぇ」
女の声。
次の瞬間、倉庫の奥から数人の人影が現れた。
全員、黒いフードを被っている。
「トランセンド・ラボ……!」
俺が呟くと、フードの一人が笑った。
「へぇ、覚えてくれてたんだ」
ソレイナが炎を強める。
「主様の敵ですね」
「待て」
俺は前へ出た。
「お前たち、何をしてる」
すると、奥にいた男がゆっくりと顔を上げた。
その目は異常に濁っている。
肌には黒い筋のようなものが浮かんでいた。
ユシルが眉をひそめる。
「……あれ、変」
アヤネも警戒を強める。
「異能暴走状態に近い反応があります」
フリートが小さく息を呑む。
「まさか……」
フードの女が笑った。
「実験中なんだよねぇ」
「実験?」
「そ。人間をどこまで強化できるかっていう実験」
その瞬間。
男が苦しそうに呻いた。
「ガァ……アァァ……ッ!」
黒い霧のようなものが身体から吹き出す。
ソレイナが即座に前へ出た。
「主様!」
ドゴォッ!!
突然、男が地面を蹴った。
凄まじい速度。
「速っ――!?」
俺の目の前まで一瞬で迫る。
だが。
ゴォォォッ!!
ソレイナの炎剣がそれを弾き飛ばした。
「主様に触れるな」
男は壁へ激突する。
しかし、すぐに立ち上がった。
その肉体は異常なほど膨れ上がっている。
「ガァァァァアア!!」
フリートが水を展開する。
「《海流壁》!」
激流が男へ叩きつけられる。
だが――。
「なっ!?」
男は無理やり水流を突っ切ってきた。
ユシルが両手を広げる。
「《樹界睡花》〜」
大量の蔦が地面から伸び、男の身体へ絡みつく。
しかし。
ブチブチブチッ!!
強引に引きちぎった。
「力が強すぎます……!」
フリートが驚く。
アヤネが静かに地面へ手を置いた。
「ならば、拘束します」
ゴゴゴゴ――!!
地面から巨大な岩柱が出現。
男の四肢を封じ込める。
だが。
「ガァァァァアアアアッ!!」
岩にヒビが入る。
「……っ」
アヤネが目を細めた。
「侵食率が高い……!」
ソレイナが炎を纏い直す。
「ならば、焼き尽くします。《紅蓮斬火》!!」
紅蓮の炎が一直線に走る。
轟音。
熱風。
倉庫内が真っ赤に染まった。
だが――。
炎の中から、男が現れる。
「嘘だろ……」
その身体は焼け焦げながらも、再生していた。
フードの女が嬉しそうに笑う。
「成功してる〜〜」
「何をした!」
「さぁね?」
ソレイナが険しい顔をする。
「……厄介です」
ユシルも珍しく真面目な表情だった。
「これ〜普通じゃないよ〜」
アヤネが小さく呟く。
「主様、下がってください」
「でも――」
「危険です」
フリートも前へ出る。
「ここは私たちに任せてください」
四人の擬神が並ぶ。
炎。
自然。
鉱物。
海流。
それぞれの力が、静かに空気を震わせていた。
そして倉庫の奥では――。
さらに大きな“何か”が、ゆっくりと動き始めていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




