第五十六話 「深海殲滅形態」
黒い球体が夜空を覆う。
巨大。
圧倒的。
まるで空そのものが落ちてくるような絶望感だった。
校舎。
グラウンド。
周囲の建物。
その全てを飲み込みかねない規模。
咲夜が青ざめた顔で空を見上げる。
「うそ……あんなの落ちてきたら……!」
凛も表情を険しくする。
「学園どころじゃ済まない……!」
修也は黄金の剣を握りしめた。
だが、斬れる規模ではない。
あまりにも巨大すぎる。
詩乃もノートを抱きしめながら呟く。
「……空が……消える……」
黒コートの男は両腕を広げ笑っていた。
「クククククッ!!絶望しろ!!これが《暗黒領域》の極致!!《終焉黒星》だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
黒球がゆっくり降下を始める。
空気が歪む。
重力すら狂っているのか、周囲の瓦礫が浮かび始めた。
レンの喉が鳴る。
「やばいだろ……これ……!」
だが。
その隣で。
フリートだけは静かだった。
海色の髪が風に揺れる。
その瞳はまるで深海のように穏やかだった。
「問題ありません」
静かな声。
だが、その一言には不思議な安心感があった。
ソレイナが小さく頷く。
「来ますね」
ユシルも眠たそうに笑う。
「ふわぁ〜……派手なの来るよ〜」
アヤネは静かに後退した。
「主様、少し下がってください」
レンが頷く。
「あ、あぁ……!」
その瞬間。
《サブマリン》が唸りを上げた。
ゴゴゴゴゴゴゴ――!!
巨大潜水艦が変形を始める。
装甲が展開。
海水が渦巻く。
青白い光が内部から漏れ出した。
修也が目を細める。
「これは……!」
咲夜が目を輝かせた。
「変形してる!?」
潜水艦の船体が分裂する。
無数の装甲。
巨大砲台。
海水で構築された艦橋。
そして。
潜水艦の後部から、巨大な砲身が姿を現した。
空気が震える。
周囲の水が勝手に浮遊し始める。
フリートが静かに告げた。
「深海殲滅形態《ネプチここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみにューン・モード》移行完了」
瞬間。
海が生まれた。
屋上全体が海水で包まれる。
いや。
校舎上空そのものが海へ変わった。
魚の幻影が泳ぐ。
巨大なクジラの影が通り過ぎる。
深海。
そこはまさに“海洋神域”。
咲夜が口を開けたまま固まる。
「す、すご……」
凛も息を呑む。
「空間を書き換えた……?」
詩乃の瞳が静かに揺れる。
「……綺麗……」
黒コートの男ですら一瞬言葉を失った。
「なんだ……これは……!」
フリートは静かに砲身へ触れる。
「深海主砲、展開」
巨大砲身へ海水が集束していく。
圧縮。
圧縮。
さらに圧縮。
周囲の海水が消えていくほどの超密度。
レンは肌で感じていた。
危険だと。
あれは触れてはいけないものだと。
修也ですら額に汗を浮かべる。
「これは……凄まじいな……」
ソレイナが静かに口を開く。
「フリートの最大火力ですね」
ユシルもふわふわ浮きながら笑う。
「海全部ぶつける感じ〜」
アヤネが小さく頷いた。
「超高圧深海水流……直撃すれば跡形も残りません」
レンが引きつった顔になる。
「こ、怖ぇよ……」
その時だった。
黒コートの男が叫ぶ。
「ふざけるなぁぁぁぁぁっ!!!」
《終焉黒星》が急降下する。
巨大な闇。
圧倒的質量。
空間を潰しながら迫る終末。
だが。
フリートは静かに砲身を向けた。
「照準固定」
海色の瞳が輝く。
「撃ちます」
その瞬間。
世界が静止したように感じた。
次の瞬間――。
ドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!
超高圧水流砲。
それはもはや“水”ではなかった。
極限まで圧縮された海そのもの。
青白い閃光が空を裂く。
《終焉黒星》へ直撃した。
衝突。
一秒。
二秒。
そして。
黒球へ亀裂が入る。
男の顔から笑みが消えた。
「なっ……!?」
亀裂。
崩壊。
圧壊。
黒球全体が砕け散った。
まるでガラスが割れるように。
夜空へ黒い破片が飛び散る。
咲夜が叫ぶ。
「砕いたぁぁぁぁっ!?」
凛も目を見開く。
「嘘でしょ……!」
修也が静かに息を吐いた。
「凄いな……」
だが。
フリートの攻撃は終わらない。
水流砲はそのまま黒コートの男へ直進する。
男が慌てて闇を展開した。
「《暗黒障壁》!!」
しかし。
無意味だった。
障壁が一瞬で蒸発する。
「馬鹿なぁぁぁぁぁぁっ!?」
直撃。
轟音。
超圧縮水流が男を飲み込んだ。
建物を突き抜ける。
地面を抉る。
遠方の山へまで一直線に貫いていった。
やがて。
静寂。
フリートは静かに砲身を下ろした。
《ネプチューン・モード》がゆっくり解除されていく。
空の海が消える。
巨大潜水艦も水へ還った。
そして。
フリートは何事もなかったようにレンへ振り返った。
「……終わりました、主さん」
レン達はしばらく言葉を失っていた。
そして最初に口を開いたのは咲夜だった。
「……海洋の擬神、怖くない?」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




