第五十四話 「海を統べる擬神」
轟音が響く。
校舎屋上では、なおも修也と黒コートの男が激突していた。
黄金の斬撃。
黒き闇。
ぶつかり合うたび空気が震え、夜空へ衝撃波が走る。
そんな中――。
レンは新たに召喚された擬神へ向き直った。
海色の衣を揺らす少女。
海洋の擬神フリート。
彼女は市女笠のつばを軽く持ち上げ、不思議そうにレンを見上げている。
「海洋の擬神……フリート……っ!フリート!頼みがある!」
突然の勢いに少し驚きながらも、フリートはすぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「あ、はい!」
「今、生徒会長が敵を食い止めてる!でも相手が強すぎるんだ!力を貸してくれ!」
その言葉を聞いた瞬間。
フリートの雰囲気が変わった。
先ほどまでの穏やかな空気が、一瞬で静かな威圧感へ変化する。
海の底のような冷たさ。
深海のような静寂。
それを感じたレンは思わず息を呑んだ。
フリートは静かに頷く。
「なるほど……敵性存在の排除ですね」
その背後に、水球が幾つも浮かび始める。
ユシルが嬉しそうに手を叩いた。
「おぉ〜、フリートやる気だ〜」
ソレイナも静かに目を細める。
「フリートが本気を出すのは久々ですね」
アヤネは小さく呟いた。
「海洋戦力……期待できます」
レンは頷く。
「行こう!」
五人は一斉に屋上へ向かった。
その頃。
屋上では修也が押され始めていた。
「はぁっ!!」
黄金の剣が振り下ろされる。
だが黒コートの男は闇を纏わせながら笑った。
「どうした?勢いが落ちているぞ!」
闇の槍が放たれる。
修也は咄嗟に回避したが、肩を掠めた。
「っ……!」
鮮血が舞う。
咲夜が顔色を変えた。
「修也!」
凛も歯を食いしばる。
「厄介ね……!」
詩乃の展開した星図も、闇に侵食され始めていた。
男は愉快そうに笑う。
「クククッ……いいぞ……!その絶望顔が見たかった!」
その時だった。
ドォォォォン――!!
屋上へ巨大な水柱が突き上がった。
全員の視線がそちらへ向く。
そこには。
レン達の姿。
そして――。
静かに前へ出るフリート。
男が目を細める。
「ほう……また新しい幼女か」
フリートは市女笠を軽く押さえながら、静かにレンへ振り返った。
「主さん」
「あぁ!」
「少し荒っぽくなりますが、よろしいですか?」
レンは即答した。
「任せる!」
フリートは小さく微笑む。
「了解です」
次の瞬間。
彼女の周囲に大量の海水が出現した。
ありえない量。
屋上全体を覆うほどの水。
まるで海そのものが召喚されたかのようだった。
黒コートの男ですら驚愕する。
「なっ……!?」
フリートが静かに手を掲げる。
「深海兵装展開」
ゴゴゴゴゴ――!!
海水が変形する。
巨大な鉄塊。
黒き船体。
鋭い艦首。
それは――。
潜水艦。
巨大な水の潜水艦が宙へ浮かび上がった。
咲夜が目を輝かせる。
「うわぁぁぁ!?すごっ!?」
凛も絶句していた。
「これが……海洋の擬神……!」
詩乃は静かにノートへ何かを書き込む。
「……すごい……」
男が顔を歪める。
「馬鹿な……こんな質量を……!」
フリートは静かに指を向けた。
「潜航型殲滅艦、発射準備完了」
潜水艦の側面が展開。
無数の魚雷が姿を現す。
その全てが水圧によって超高密度に圧縮されていた。
空気が震える。
修也ですら驚いた顔をしていた。
「これは……」
フリートは静かに告げた。
「撃ちます」
次の瞬間。
ドドドドドドドドドッ!!!!
大量の水圧魚雷が放たれた。
音を置き去りにする速度。
男は慌てて闇を展開する。
「《暗黒障壁》!!」
だが。
着弾。
轟音。
爆水。
圧縮水流が闇を貫通した。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!?」
男の身体が吹き飛ぶ。
屋上を突き破り、校舎壁面へ叩きつけられた。
建物全体が揺れる。
咲夜が思わず叫ぶ。
「強っっっ!?」
ユシルがのんびり頷く。
「フリートつよいよ〜?」
ソレイナも腕を組む。
「当然です」
アヤネが静かに分析する。
「単純火力なら、ソレイナ以上かもしれません」
レンは呆然としていた。
「す、すげぇ……」
だが。
瓦礫の中から笑い声が響く。
「……クククッ」
全員が構える。
黒煙の中。
男がゆっくり立ち上がった。
身体は傷だらけ。
だがその目はまだ死んでいない。
「素晴らしい……!」
闇がさらに膨れ上がる。
周囲の空気が軋む。
凛が表情を変えた。
「まだ力を残してるの……!?」
フリートは静かに目を細めた。
その背後で、巨大潜水艦が再び浮上する。
海水が唸る。
深海の圧力が屋上を包み込んだ。
「では――第二波、行きます」
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次回もお楽しみに




