第百二十八話 『収束を超える者』
裂けた。
確かに裂けた。
収束によって一つにまとめられようとしていた世界に、神代レンが生み出した“別の可能性”。
それは小さな亀裂。
だが、黒衣の男にとって、その小さな揺らぎこそが許されないものだった。
赤い瞳が初めて大きく見開かれる。
「……ありえない」
「収束に対し、別の未来を生成した?」
「そんなことは……」
声が止まる。
そして。
次の瞬間。
黒衣の男の背後。
巨大な獣王が咆哮した。
無数の赤い眼。
異形の翼。
巨大な牙。
その姿はまるで災厄そのもの。
咆哮だけで空間が震え、生徒会メンバー全員が息を呑む。
朝比奈咲夜。
「な、なにあれ……」
氷室凛。
「冗談でしょう……」
月影詩乃。
「今までの敵とは……格が違う……」
天城修也。
「これが奴の本体か」
アイナ。
「解析不能」
「危険度、測定不可能」
「既存データに該当なし」
フリートの表情も珍しく固くなる。
「主さん……」
アヤネ。
「これは少々厄介ですね」
ユシル。
「ふゆぅ……」
ソレイナ。
「主様」
「来ます!」
次の瞬間。
巨大な獣王が動いた。
その巨体からは想像できない速度。
一瞬でレンの目前。
「速ッ!」
咄嗟に刀で受け止める。
だが。
凄まじい衝撃。
「ぐぁっ!!」
レンの身体が吹き飛ぶ。
訓練場の壁を何枚も突き破り、地面を転がる。
天城修也。
「レン!!」
ソレイナの炎が爆発する。
「主様ぁ!!」
紅蓮の炎。
巨大な火柱。
だが。
獣王は炎をものともせず突進。
その爪がソレイナへ迫る。
「っ!」
その前へ。
アヤネ。
「操糸・千重結界」
無数の糸。
しかし。
バキバキバキ!!
結界ごと粉砕。
「なっ!?」
フリート。
「水壁!!」
巨大な水流。
だが。
獣王は突き破る。
「そんな!」
ユシル。
「木霊の森!」
巨大樹が何本も生える。
しかし。
一撃。
全て切断。
アイナ。
「戦力差が大きすぎます!」
「単独での勝率!」
「ゼロ!」
黒衣の男が笑う。
「そうだ」
「これが絶望だ」
「これこそ収束の獣」
「すべてを終わりへ導く王」
「滅王獣グラディア」
「お前達では勝てない」
再び咆哮。
大地が割れる。
空が悲鳴を上げる。
その時。
「……勝てない?」
黒衣の男が目を向ける。
瓦礫の中。
立ち上がる影。
神代レン。
右腕の紋様が紅く輝く。
そして。
その背後。
炎。
水。
植物。
糸。
そして。
無数の数式と光。
五柱の擬神達が並ぶ。
ソレイナ。
「主様」
ユシル。
「まだ終わってないよ~」
アヤネ。
「そう簡単に負けるほど弱くありません」
フリート。
「主さん、一緒です!」
アイナ。
「主君」
「最適解を発見」
「五柱同調」
「成功率、六十八パーセント」
レンが笑う。
「六十八もあれば十分だ」
天城修也。
「レン!」
朝比奈咲夜。
「いっちゃえー!」
月影詩乃。
「頑張れ」
氷室凛。
「死ぬんじゃないわよ」
黒衣の男。
「……まだ抗うか」
「愚かな」
レン。
「違う」
「俺一人じゃない」
「みんながいる」
「だから!」
「負けるわけにはいかない!」
ソレイナの炎。
ユシルの自然。
アヤネの糸。
フリートの海。
アイナの知識。
全てがレンへ流れ込む。
そして。
五色の光。
凄まじい神気。
天城修也が目を見開く。
「これは……!」
月影詩乃。
「融合……?」
アイナ。
「第一段階成功」
ソレイナ。
「主様!」
フリート。
「行きましょう!」
アヤネ。
「全力で!」
ユシル。
「えいえいおー!」
レン。
「あぁ!!」
光が爆発する。
そして。
初めて。
滅王獣グラディアが。
警戒するように。
一歩。
後ろへ下がった。
黒衣の男の笑みが消える。
「……馬鹿な」
「グラディアが……退いた?」
その赤い瞳に。
初めて。
明確な焦りが浮かぶ。
そして。
神代レンの周囲に集まる五柱の擬神。
五つの力は一つとなり。
さらなる輝きを放ち始める。
決着の時は。
ついに。
目前まで迫っていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




