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第41話 治癒室〜REAL POWER〜


 全国区に知られる有名な街の大通りを進み、若者たちの賑わいを尻目に小道に入る。


 ビル街を素通りし、居酒屋界隈を越え、三人が足を止めたのは、かなり怪しい地下への階段だった。


 入り口上部には、『ささきパワークリニック』と書かれた看板がかかっている。


 階段沿いの壁には、原色のカラフルなチラシや、未開の民族が呪術で使いそうな木彫りの面や槍などが飾られ、入りづらいこと事この上なかった。


 通行人は皆、派手なエントランスを横目に見ては、足早に歩き去っていく。

 普通に生きていれば、間違いなく用のない場所だ。


「地図、間違ってないですかね?」いちかは一片の期待を込めて聞いてみた。


「ここだね。入り口がホームページと一緒」翠がスマホと見比べて答える。


「じゃあ合ってますね……」


「時間だ。行くぞ」


 いちかの横から、碧音が先立って階段を降りていく。

 翠も躊躇なく続くので、いちかも恐る恐るついていった。



   ◇



 思いの外普通だった受付で問診票を書き、案内された「治癒室〜REAL POWER〜」と書かれた部屋に入ると、サイケデリックなドクターコートを着た男がいた。


 胸には「佐々木教授」と書かれた名札が貼ってある。もう癖が強い。


 彼は入室してきた三人を見ると、部屋の大きさを勘違いしているのではと思うような大声で叫んだ。


「トリオなんだね‼ いいよ‼ そこに座ってね‼」


 教授は部屋の中心に出された三つの虹色の椅子を差し示した。

 いちかはおずおずとそこに座り、部屋を見渡す。


 広さは十五畳程度で壁は白色。普通の部屋だ――天井にミラーボールがある以外は。

 壁際から現れた、教授と同じくサイケな衣服に身を包んだ助手が、壁についたスイッチを押すと、突然、部屋中に色とりどりの円が揺れ動き始めた。

 ミラーボールとプロジェクターで作り上げているようだ。


 それは波紋のように広がり、形を変え、いちかたちの平衡感覚を呑み込んでいった。


 授業で教わった薬物の幻覚症状とソックリ……


「REAL POWER‼」


 教授が手を鳴らすと、爆音がいちかたちの耳を襲った。

 教授は音割れした音楽に合わせ、盆踊りとヒップホップを混ぜ合わせたような見たこともないダンスを披露している。


 三人が呆然としていると、助手が張り裂けんばかりの声で指示した。


「先生のように踊ってください‼ さあ‼」


 翠は素直に立ち上がって、見よう見真似に踊り出した。


「こうですか⁉」


「イェス‼ ほら、他の二人も‼ レッツダンス‼」


 いちかは戸惑い、碧音をチラと盗み見る。すると、驚くことに彼も言われるがまま立って踊り始めた。


「ダメダメもっと笑って‼ 笑顔でハッピー‼」


 恐れを知らない教授の振りにいちかの方がドキドキして反応を伺うと、碧音は快活な笑みで答えていた。


 嫌々という気配は微塵もない。

 なんなら、百点満点だ。


 いちかが口を開けて見上げていると、碧音と目線がかち合ってしまった。

 彼の目は、力強く語っていた。


 ――本気でやれ。


 いちかは弾かれたように立ち上がり、勃興してくる理性を抑えて、四肢を動かし始めた。



   ◇



 教授の指示のままに前に踊ったり横に舞ったりの三十分。

 三人は壊れた空間の中で、ただ素直に踊り続けた。


 体力はとっくに尽きているが、精神が麻痺しているのか、疲れより高揚感を覚え始める。

 思考は爆音にかき消され、自分と世界の境も曖昧に溶けていく……


 そのとき、


「ハイ振り返ってッ‼」


 突然、教授の鋭い声が響いた。


 三人は一斉に後ろを向くと、そこにあったはずの白壁が、いつの間にか鏡張りになっていた。

 満面の笑顔を浮かべて妙ちくりんなポーズの自分の姿を突きつけられ、急に冷静に戻る。


「さぁ、なんでしょうこれは」


 こちらが聞きたい。


 不意に訪れた静寂に耳鳴りがする。


「これは、プライドも恥も捨て去った、すっぴんのあなた。心の扉をこじ開けるには、大きなエネルギーと、自分に向き合う覚悟が必要なのです」彼は厳かに手を出し、促した。「今なら弾けますよ。どうぞ」


 その言葉を聞くや否や、碧音は自分のリュックに飛びついた。


 中から引っ張り出したのは、携帯できるサイズの電子キーボード。


 それを翠の膝に置くと、翠の手はまるで導かれるようにキーボードの上に置かれた……




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