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2.『移住と憂鬱』

アクセスありがとうございます。

 

 冒険者の都と称される都市〈ラヴィエル〉。


 ミシルタ王国の北端に位置し、冒険者たちが多く集う交易都市だ。

 世界二位になるほど在籍する冒険者が多い冒険者ギルド。各地へ向かえる移動手段を有しており、冒険に役立つ物など、ありとあらゆるものが詰め込まれた都市だ。


 平地もあれば、山脈や森と様々な顔がある。冒険都市と言われることもあって迷宮も多く、危険な土地も多く存在する。冒険者にとっては冒険の甲斐がある土地だ。


 ユウリがいた都市よりずっと栄えている。それに『パイルバンク』とともに冒険が始まった思い出深い土地でもある。知り合いもいるし、再出発には丁度良いところだ。


 あれから一ヵ月。ユウリは冒険者パーティ『パイルバンク』を抜けてからこの都市へ出戻り、パーティに属することもなく独りで冒険者稼業を続けている。


 冒険者ギルドは相も変わらず大盛況だ。食事と酒場を兼ね備えた食事処もあり、雑貨屋や武器屋、買取受付もあった。新人時代ユウリが過ごした時からなにも変わっていない。


 今日も、ギルドから常時張り出されている《魔結晶》の採取依頼を楽々達成し、報告と余分に採取した結晶の換金に足を運んでいた。


「んで、我慢の限界だったのでやめた」

「もったいねぇな。超優良物件だったのによ」


 受付に寄りかかる茶色の短髪で、ガタイの良い男性冒険者はアイザック・ディアマンはそう言った。愛称はザック。ユウリと同じB級冒険者だ。今はユウリの換金が終わるまでの間、呑気に『パイルバンク』を抜けた理由を話している。


「べつにもう気にするほどじゃねぇさ。後悔もしてないし」

「いや、お前はそうだろうが、もう少しでS級だったんじゃねぇか?」


「馬鹿おっしゃい。B級の俺が一気にS級になれるわけねぇだろ。S級になるのに最低条件でもA級じゃないといけねぇんだぞ?」


「そうか? お前ならA級ぐらいすぐだろ」

「よく言うよ。俺は〈付与術師(エンチャンター)〉だ。簡単に上がるわけがない」


 〈付与術師(エンチャンター)〉――魔術師の派生職業(ジョブ)であり、支援系に特化した魔術師だ。強化、弱体化、補助、状態異常、妨害といった様々な局面で仲間の手助けをすることに長けている。


 基本戦術は、後方で魔法を駆使して仲間を支援し、敵の弱体化や妨害を図るというもの。

 使い手によっては戦況を操り、一気に勝利へと導くほどの強力な魔術師である。


 だが、人を選ぶ職業であってか、毎年ワースト一位を飾る可哀想な職業だ。


 そんな職業(ジョブ)を、ユウリは気に入って〈付与術師〉になった。

 本人が良ければそれでよし。文句はあれど周りの意見など気にしない。まあ、強がっても仲間がいないと輝けない職業(ジョブ)であることは変わらないが。


「なら、まだ『パイルバンク』にいたほうが良かったんじゃねぇのか?」


 ザックはそう言って設置されているスクリーンに指を差す。

 そこにはユウリが数か月前まで在籍していた『パイルバンク』が映っていた。


 映像で『パイルバンク』は危険度Aランクの迷宮を攻略中で、絶賛魔物と交戦中だ。ユウリが在籍していた頃にも何度も潜った小銭稼ぎの迷宮だ。


「まだ五層もいってないのか。最近全然進んでねぇな」


 そんなザックにユウリは鼻で笑う。


「無理だ。あそこにいようが、俺はA級にはなれなかったよ。後衛で、隊列崩しで印象は最悪だし。ウマが合わなかったし、《鉄甲銃》持ってるし」


「お前は特殊だしな。お前みたいな暴れ馬を扱えるパーティなんて早々いねぇだろうよ」


 深々と溜息を吐くユウリとザック。


「んで、パーティはどうすんだ? どうせお前のことだから組むんだろ?」

「どうっすかなぁ。今のボッチ活動割と気に入ってるんだけど」


「おいおい。どうすっかなぁ、て。だったら配信とかやってみたらどうだ? 魔導技術が発展した国ならではの活動方法だ。単独の〈付与術師〉とか評判になると思うぞ」


「色々と面倒クセェよ。それにあいつらに居場所がバレる」


 もし見つかって、『戻って来いよ』なんて言われたら溜まったものではない。


「でもずっと停滞してるわけにはいかないだろ?」

「うーん。もう独りで迷宮いっちゃダメかな」


 あのな……、とザックが呆れた。


「ダメですよ。ユウリさん」


 ユウリの言葉に換金手続きから戻ってきた受付嬢のティナだった。纏めた金髪と透き通った碧眼。つい頼ってしまいたくなるような母性を感じさせるエルフのお姉さんだ。


「ええ、べつにいいじゃん。そんな規則ないんだし」

「無茶をするユウリさんをストッパーなしで迷宮をいかせられるわけないじゃないですか。それでもいくというなら両足を折ります」


 麗しき受付嬢がそんな怖いこと言います? とユウリが思う目の前で、ティナの満面の笑みにはドス黒いオーラを纏わせていた。わりと本気で言っている。


「さらっと恐ろしいこと言うね」

「心配だからです」


 迷宮に潜る場合はパーティを組まないといけない、という規則はない。ないが目をつけられた冒険者はパーティを勧められる。基本は身内からの強要だが。ソースはユウリ。


 だが、ティナの心配も理解できる。


 冒険者は離職率が高い。どれだけ熟練の冒険者でも、単独であればあるほど死ぬ。短い生涯で。ユウリも今の状況を好ましくないと重々承知している。活動範囲を広められない現状はどうにかしないといけない。だが、現状ユウリと組みたいような人はいない。


「ああ……、《魔鉄鉱石》採りにいきたい」

「でしたら最低でも冒険者を募ってくださいね」

「へい」


 生返事を返すとティナは溜息交じりに受付の奥へと消えていった。


「んじゃ、俺もぼちぼちリーダーのところへ戻るよ。ユウリも銃弾の材料を取りにいきたきゃさっさとパーティ組むことだな」


 そう言い残してザックは仲間のいる定位置のテーブルへと戻っていった。


「……。さて、俺はまた《魔結晶》でも取りにいこうかね」


 報酬を懐に突っ込み、常時張り出されている採取依頼を掲示板へ取りに向かう。


 活動範囲を広められない。冒険者としては手痛いが、ただ燻ってなにもしないよりかはマシだ。そんなことを思うユウリの隣を女性冒険者が通りかかった。


 緑髪のエルフだ。めずらし……と思いながらもユウリはすぐに視線を戻した。


「火薬の、匂い?」


 すれ違い様に女性が小さく言葉を発した。

 少しの間を開け、回り込むようにして緑髪のエルフはユウリの進行方向を阻んだ。


「あの、なにか?」


 ユウリが要件を訊ねると、突然、女性冒険者は近づいて服の臭いを嗅ぎ始めた。急な接近と予想外な行動に驚いて思わず身を引いた。


「君、不思議な香りがするね」


 動揺するユウリを他所に女性ははにかんだ。一連の動作の中で真剣な眼差しで行っていた彼女だが、なにかを確信したらしく、真剣な眼差しは真っ直ぐとユウリに向けられた。


「不思議な香り、ですか?」


 命知らずといえばそうなるが、ユウリは理由を訊いてしまった。


「うん。とっても懐かしい感じのね」


 女性は頷いてユウリを手を取り、


「私とパーティを組みませんか!」


 曇りなき眼で緑髪のエルフはそう言った。


読んでくださりありがとうございます。

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