1.『決別と脱退』
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とある都市。冒険者ギルドが管轄する建物の個室。
『A級冒険者パーティ『パイルバンク』は、未踏と言われたAランク相当の迷宮を見事踏破しました! 記録された映像には階層主を見事に撃ち果たした瞬間を捉えています! また持ち帰ったとされる魔道具には非常にレアな物だと判明し――』
魔道具に映る映像には、『パイルバンク』という冒険者パーティの活躍が流れていた。最も流れているのは大型の魔物を討伐する前の話だが。
「そう言えば、脱退の件はどうなったんだ?」
輝かしい活躍が流れる横で、ユウリ・ランディアは脱退を希望していた。
「端的に言う。無理だ。これから忙しくなってくるっていう時期に、パーティを脱退だなんて、ほかのメンバーに悪いと思わないのか? ユウリ」
机を隔てた向こう側に頬杖をつくダリス。『パイルバンク』のリーダーであり、明るい茶髪が特徴的な彼は、ユウリの脱退することを認めなかった。
「だから事前に、何度もお前に話をしたんだけどな」
「それでも脱退を許さない。諦めてくれ」
最近名前が売れてきた実力者揃いの『パイルバンク』がユウリの所属するパーティだ。
出世街道まっしぐらな冒険者パーティだが、実力者揃いの中で名前を連ねるユウリは今すぐにでも離脱したいという気持ちでいっぱいだった。
ユウリの気持ちを知らないダリスは不機嫌そうにしている。
「大した貢献もしてない。実力不足でも温情で置いてやってるのに、後衛職の妥当な報酬を貰って少ない? それで辞めたいだ? 最近じゃ冒険も手を抜き始めたな」
とん、とん、とテーブルを指で叩きながら脱退の理由に愚痴を零すダリス。そんな威圧的な態度の彼にユウリは溜息を吐いた。
「かなり貢献したと思うんだけどな」
「効果のない魔法を使ってでもか?」
ダリスの反論にユウリは口を閉じた。もう彼らに感情の起伏すら起きない。今のやり取りも面倒になってきたユウリは溜息を吐き、早く終わることを願った。
「俺はまだ、先日討伐した大型の魔物の件で怒っているんだ。パーティメンバーの治療費で赤字だ。あれで出た損失はどうする気だ?」
「さあ? 内のパーティルールでは全部実費だし、俺関係なくね?」
さらっと言ってのけるとジョッキが飛んでくる。それを難なく避ける。
投げた本人は息を荒くしながら椅子に座り直した。
「全部お前のせいだ。だから罰を与える。パーティに残っていたければお前が持ってるその《鉄甲銃》。そんな時代錯誤もいい武器を売っぱらってこい。でなきゃ追放だ」
そう言い放った。
「あ? ざけんな。これは俺の相棒だぞ」
適当に聞き流すことはできた。だが、看過できない言葉にユウリは反論する。
「弾丸の材料費が馬鹿になんねぇだろ。今のご時世じゃただの金食い虫だ。もっと効率のいい……そう、魔術師らしく杖とか買えば解決だろ」
「その金食い虫に何度助けられたと思うんだ? こいつがなきゃ死んでた時もあったんだ」
「助けた? 無駄の間違いだろ? とっくの昔に終わったブームなんか引っ提げて恥ずかしくないのか? 俺は恥ずかしいねぇ。お前と横を歩くのも、映像に映るのもな!」
「……そんな理由なのか?」
「銃なんて使ってっからいつまで経ってもB級のままなんだよ!」
そう断言するダリスに、ユウリの中で、ブチッ、となにかが切れる。
長く連れ添ったパーティでも、否定されたら切り捨てるのも容易なんだな、と深く噛み締め、ユウリは溜息交じりに封書を差し出した。
「……、なんだこれは?」
「まあ、開けてみ」
笑顔を浮かべるユウリに言われるがまま、ダリスは封書を開けて中身を読み始める。
「ええ、――本日未明、当ギルドは冒険者ユウリ・ランディアから申請を受け、『パイルバンク』からの強制脱退を承認する、だとッ!? なお、『パイルバンク』がユウリへ行った不当な扱いを当ギルドは重く受け止め、今後ユウリとの冒険者活動を禁ずる!?」
ギルド長直筆、判も押され、ユウリが『パイルバンク』からの脱退を認可された証明書である。つまり、ギルド長直々に『パイルバンク』の意向に関わらず、脱退を認めてくれるということだ。埒が明かないと思い、ユウリが取った最終手段だ。
ギルド長が出てくるとは思わなかったのか、ダリスは固まったままだ。
「まあ、そういうことだから。俺は今日をもって辞めるわ」
鳩が豆鉄砲でも喰らったかのようなダリスの顔を見て、愉快な気持ちになりながらユウリは身軽に椅子から立ち上がる。
「ああそうそう、元仲間として言わせてもらうけど、ミリィには――」
良心から最後くらい助言でもしようかと思ったが、ダリスはドアの前に立ち塞がった。
だが、悪あがきを想定していたユウリはダリスとは逆の方向に移動し、窓に足をかける。力づくで脱退するにあたって逃走経路を事前に確保していた。
ダリスはというと、呆気に取られた表情を浮かべたと思えば、すぐさま憎たらしい物を見るかのように歯噛みして睨んでいた。
「この『煩雑』がぁ! 戻ってきても居場所はないと思え!」
そう言われた。通り名を呼んだところでなんとも思わないユウリは微笑し、
「ああ。そうしてくれると、じつにありがたいね」
勝ち誇った笑みを浮かべ、決め台詞を残して窓から飛び降りた。
こうして、三年ほど在籍したパーティ『パイルバンク』を抜けた。
そして、拠点にしていた都市を後にした。
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