17. 『依頼の斡旋』
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冒険者ギルドにて。ユウリは依頼を受けるために待ち合わせしていた仲間とともにスクリーンを見つつ、何気ない雑談を繰り広げながら食事をしていた。
パーティ内での取り決めをしたり、夢に必要な準備を話した。
「これからなにかと準備に必要な物が増えてきましたね」
頬に手を当て遠くを見るラリア。
「資金に、武器に魔導具に、最低条件はA級冒険者になること、だね」
指で数えながら突っ伏すセシリア。
話し合いで集中力が切れた二人に思わずユウリは笑う。
「なんせデカい夢を追ってるわけだし、A級は必須条件だろうさ」
「問題は山積みですね。長旅だと思って気長にいくしなかないでしょう」
確かに程遠い道のりだ。だが、彼女たちには実力がある。それ相応の依頼をこなしていればA級昇格も夢ではない。欲しい情報も手に入りやすくなるだろう。
「あっ、噂のA級冒険者パーティ『パイルバンク』のニュースだぁ」
「久々に見ますね。このパーティ」
すると、スクリーンを眺めていたセシリアが反応する。その言葉に、見ていなかったユウリとラリアもスクリーンに目を向けた。
『A級パーティ『パイルバンク』に在籍し、アルデン教会に所属する〈神官〉のミリィ様が妊娠し、結婚を見越してめでたく還俗しました! お相手は『パイルバンク』のリーダーのダリス・イージスさんということがわかっており――』
スクリーンに大々的に発表されたミリィの妊娠。集会所にいるダリスを知る冒険者たちはどよめき、中にはジョッキを落とす者までいた。ユウリは見なかったことにした。
「へぇ、デキ婚」
「あまり良い段取りとは言えませんね。長続きしなさそうです」
セシリアは淡泊な感想だが、ラリアからは酷評が出た。
「ねぇ? 還俗ってめでたいの?」
純粋なセシリアが訊いてきた。
「まあ、あのアルデンではな。人が神以外に大切な存在を見つけたってことだからな」
現在、『パイルバンク』のいる都市の宗教観で大きいアルデン教では、『人が人の幸せを見つけたのなら神に捧げず、その者のために天寿を全うせよ』と、噛み砕くとそんなありがたい言葉がある。そのおかげで周囲の人々は祝福してくれるのだ。
「でも、あのアルデン教会。私は気に入らないんですよね。実体のある、意思疎通ができる神族がいるというのに架空の神様に身を捧げる気持ちがよくわかりません」
「………………」
ラリアの辛辣な言葉。〈巡礼者〉の性というべきか、実際に神族と対話した人からすれば良い気はしないのだろう。付け加えれば宗教に所属する者の嫌われ者だからか闇を感じる。
ユウリは良心から、耳を塞いで聞かなかったことにする。
『四人で構成されるこのパーティは――』
画面にそう流れた瞬間、セシリアが「あれ?」と首を傾げた。
「どうしました、セシリア」
「『パイルバンク』から一人減ってる。前は五人って言ってたのに、辞めちゃったのかな」
「いましたか? 今まで」
「映ることなかったからわからないかな」
これもダリスが悪知恵か、と思いながらユウリは話題転換するために口を開く。
「で、今回の依頼なんだが、C級の依頼を受けようと思うんだがどうだろうか?」
「え? ええ。私は良いですが、セシリアのほうは大丈夫なのでしょうか?」
ラリアの問いにユウリは親指を立てる。
「なーに言ってんだい。ここにいる全員がA級以上の実力の持ち主だぞ? あとは冒険者としての経験と実績を積むだけでヒョイっと等級は上がるさ」
前回のモリイワガザミの素材採取の依頼の後、偶然抗戦することになったキメラを見事討伐、迷宮に踏み入れてミノタウロスの群れを壊滅させたことを踏まえれば昇格は確実だ。
彼女たちにとってはなかなかの収穫だったろう。まあ、翌日に帰ったせいで、
『どうせ日帰りだろうと待ってたんですよ? なのに泊りがけでしかも女性引っかけて帰ってくるなんて。信じて夜中まで待ってた私が馬鹿みたいじゃないですか』
目の下に隈を作ったティナにねちねち嫌味と言われてしまった。
「ホントに、私の等級が上がるの?」
「もちろん。いつから冒険者になったか知らんけど、俺からしたらラリアも含めて今まで等級が上がらなかったのが不思議なくらいだ」
「そう、なんだ」
なにか、思い当たる節があったのか、セシリアの表情が一瞬だけ曇ったように見えた。
その隣で、コホン、とラリアが咳払いをした。
「では、ユウリの提案に乗りましょう。上がるに越したことはないのですから」
「私も賛成」
二人の同意を得て、ユウリはぱん、一回手を叩いた。
「んじゃ早速、手頃な依頼を探してきましょうかねぇ」
意気揚々と立ち上がろうとした瞬間、すっ、と一枚の依頼が置かれた。
「でしたら良い依頼があるのですが」
声の主は言わずもがな神出鬼没の乱入受付嬢だ。
「ティナか。なんのようだ?」
ユウリは顔を顰めてティナに問いかける。
「冷たいですね。パーティを組んだユウリさんに良いお話を持ってきたんですが」
同じテーブルを囲うセシリアとラリアの二人は呑気にティナに「おはようございます」と挨拶をした。彼女もそれに「おはようございます」と返した。
「良いお話ねぇ」
肯定するかのようにティナは微笑んだ。
「先日、平原で迷宮が誕生したんです。その迷宮の攻略を、ぜひユウリさんたちご一行にお願いしたいと思いまして。見立てでは、危険度Cランクかと」
ユウリはテーブルに置かれた依頼内容を確認し、
「ほーん、〈塔〉系の迷宮か」
呟きながら二人に渡す。
「達成条件は迷宮の踏破。迷宮内で手に入れた物はすべてこちらの所有物、と」
「結構、羽振りの良い依頼ね」
ラリアに言葉に続けて、セシリアはそう呟く。
「大方、成果を上げさせて一気に等級を上げるのが魂胆だろ?」
ちらっ、とティナに視線を移すると彼女は微笑んだ。
「ご明察。どうでしょうか? 悪い話ではないと思うのですが」
「そうだなぁ。二人はどうだ?」
ユウリは少し考えた後、二人にも意見を求めた。
「私はいいかと。私たちのためにも良いお話だと思います」
「私も賛成! 早速いこっ、ユウリ」
二人は考えるそぶりも見せずに賛成した。いく気満々である。
「んじゃ、その依頼を受けるよ」
「そう言ってくれると思っていました」
こうして、ユウリたちは〈塔〉の踏破依頼を受けることになった。
パーティ結成して初めての迷宮攻略。いつもなら下に向かうが、今回は上へ向かっての攻略だ。迷宮と言えど毛色の違った迷宮だ。それに世界からしたら魔力による暴走と凝縮してできたニキビのようなものだ。それの除去しにいくと思えば苦ではないだろう。
「あっ、ユウリさん。あとこれを持っていってください」
ティナがなにか思い出したようで、受付のほうからある魔道具を持ってきた。
それはこの〈ラヴィエル〉からしたら技術の最高傑作と言われる、契約精霊の力を使って映像記録を可能とする魔道具、《冒険記録》だった。
「ええ、これ使わないといけねぇのか?」
「今回の依頼は調査も含まれていまして。映像記録を残したいようです」
ユウリは魔導具を受け取り、溜息を吐いた。
「映像記録かぁ……」
「嫌かもしれませんが、どうか協力してくれませんか?」
「……、わかったよ。世話になってるギルドから頼まれちゃしょうがねぇか」
ユウリは溜息交じりに《冒険記録》を『虚空倉庫』に収納する。
「そんじゃまぁ、準備していきますかね」
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