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13. 『懸念』

アクセスありがとうございます。

 

「んららぅら、んんらうらぅら~、たったたらぴっぴっぴ」


 変な鼻歌交じりに採掘をするユウリを静かに見守るラリアは彼の言葉に甘えて、用意してくれたクッキーを食べつつ、レモンティーを飲んで休憩していた。


「……。不思議な人ですね」

「誰が?」


「ユウリですよ。なんだか、思っていたよりも普通の人だな、って思いまして。もうちょっとこう……近寄り難い人なのかと思っちゃいましてね」


 いまいち理解していないセシリアに言葉を付け足して言う。


 B級冒険者ユウリ。『煩雑(はんざつ)』の異名を持つ〈付与術師(エンチャンター)〉の彼は、噂を聞くだけでどれだけの実力があるのか不明のままだった。有名なA級パーティに在籍していたことだけは知っていたが、それでも彼の活躍は今日まで明るみに出ることはなかった。


 まさかセシリアが組んだ冒険者が、ユウリだったのは驚いた。


 様々な職業の技能まで習得しているという話は疑ったが、証明できるものを見せられたときは驚いた。ユウリはただの冒険者という枠内には入り切らない人物だった。


 それに《鉄甲銃》を所持していること、だろうか。

 謎と疑問の多いユウリだが、それでもすごい冒険者ということは確かだ。


「よくユウリをパーティに誘えましたね」

「偶然だったからねぇ」


「そう聞くと、なんだか運命的なものを感じますね」

「えへへ、そう、かな?」


 照れくさそうにセシリアは頬を指で掻きながら微笑する。そんな彼女を見ながらカップの中のレモンティーに映る自分を見つめた。


「セシリアはこの冒険でユウリをどう思いましたか?」

「どうっ、て……楽しかったよ。これからも一緒に冒険したいくらいに」


「そうですか。なら良かったです」

「なんでそんなことを聞くの?」


「実は彼をパーティに引き入れようかと思いましてね。ユウリに訊く前にセシリアから承諾を得たくてその確認を取った次第です」


「ホントに! 聞かなくても私は大歓迎だったのに」


 セシリアは嬉しそうな笑みを浮かべながらクッキーを頬張り、レモンティーを飲んだ。ラリアも続いてクッキーとレモンティーを堪能する。


「私も色々と心の準備というものが必要なんですよ。なにせ相手は異名持ちですからね」

「気負い過ぎ。もうちょっと肩の力抜いてもいいんじゃない?」


「そうも言ってられませんよ。今後がかかっていますから。ユウリは正真正銘の超優良物件です。引き込んでしまえばきっと安泰でしょう。これからを左右するほどに、ユウリという人物は大きな存在です。私にとっても、セシリアにとっても」


 暗い天井を仰いで一息つくラリア。


「ラリアは、なにが不安なの?」

「実力に差があり過ぎることですかね。相手はB級、対して私たちは駆け出し、なので」


 割り切ることができればそれでいいのだろう。だが、それができないから迷っている。ユウリの助けになるのならともかく、相手は実力者。そして異名持ち。明かした手の内はほんの一部。それが『煩雑』と呼ばれる所以。


「きっと大丈夫よ。要は追いつけばいい話よね?」

「セシリアは気楽ですね。それがどれだけ難しいことか」


「良いじゃない。それこそ冒険者らしいと私は思うけど。ほら、思い切りは大事じゃん?」

「その楽観的な思考が羨ましいです。ああ、悩んでる自分が馬鹿らしくなってきました」


 非常に穏やかな表情を浮かべるセシリアに、ラリアは思考を放棄した。。


「それに、ユウリだって一人で困ってたみたいだし、きっと喜ぶと思う。ダメだったらその時で、まずは誘ってみるところから始めよ」


「……。そうですね。まずは誘ってみようと思います。確かめたいこともありますし」


 悩みに悩んだところで答えが出るわけでもない。それならいっそ当たって砕けたほうがいいだろう。そう思わせてくれたセシリアに感謝しつつ、ラリアはレモンティーを飲む。


「それでこそラリアぁ」


 徐々に元気を取り戻してきたセシリアは小動物を扱うみたくラリアを抱き締めた。毎回のことなのでラリアは諦めて熱い包容を受け入れて溜息を吐いた。


「なにかとすぐハグをするのは悪い癖ですよ」

「いいじゃない。ラリアちっちゃくて可愛いんだもん」

「ちっちゃいっと言わないでください。ああ、スリスリしないでください」


 小動物を愛でるように撫で回すセシリアには、ほとほと呆れて抵抗する気も失せる。


「なにかとスキンシップが多いですが、それをユウリにするのは厳禁ですからね。ともに道を歩むのなら、男の気持ちも考えて情欲を呷るような行為は控えるべきです」


「ん? 私はそんなことした憶えないけど? それに、ユウリは特別だし」

「……。まさか、《鉄甲銃》絡みじゃないですよね? 銃もってれば誰彼構わず――」


「そ、そんなわけないじゃない! ユウリはなんというか、心から安心するというかなんというか、それに懐かしくて良い匂いがするし」


「火薬の匂いが、ですか? セシリアは少し鼻がおかしいのでは?」

「エルフには良い匂いなんだってば!」


 そう弁明するセシリアだが、元気になった分、その必死さが逆に怪しい。

 笑ったり怒ったりと忙しいセシリアを見ていると、自分の悩みがそれほどのものでもないと思えてしまい、ラリアは深い溜息を吐いた。




読んでくださりありがとうございます。

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