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10.『ミノタウロス戦・①』 ‐戦闘

アクセスありがとうございます。


 薄暗い洞窟の先から、ユウリの光源魔法の範囲内にそれは侵入してきた。


「敵視認。ミノタウロスだ」


 照らし現れた魔物は、二頭のミノタウロスだった。


「すみません、前言撤回です。めちゃくちゃ不運でした」

「だな。どうも今宵の迷宮様は肥満気味のようだ」


 本来ミノタウロスは〈アグラナ鉱山〉では遭遇しない魔物だ。厳密には滅多に現れない魔物だが、大抵は外部から移動してきたか、或いは迷宮が生み出したか。


 今回の場合はどうも前者のようだ。片方は古びた大剣、もう片方は分厚い腕輪。剣士と魔術師。その装飾は迷宮の魔物とは風変りな物、工作した人工物を身につけていた。


「魔物と遭遇しなかったのもこの二頭が原因でしょうね」

「結構な強敵だね。倒せるかな」


 ラリアとセシリアは身構えながらそう言った。相手は剣士と魔術師。十分な空間はあるが、剣士はともかく後方支援が怖い。そうでなくともミノタウロスの身体能力と外皮の硬度、そして知能は侮れない。伊達にC級の魔物ではない。


 迷宮の至る場所に自生する光源植物と《光源石》が密集する空間。月夜のように明るい空間でミノタウロスとの睨み合い。全員は各々の武器を取り出して構える。


「ラリア。一つ聞いておきたいんだが」

「はい、なんでしょうか?」


「何分、初対面ということもあって俺は君らの癖とかスタイルとかよく知らない。無理にとは言わないけど、できることなら自由に動きたい」


「ああ、そんなことですか。でしたら構いません。自分たちのスタイルで役目を全うするだけなので。まあ、状況に応じて支援してくれればそれでいいです」


「……。了解」


 意外とあっさりとした快諾されたことに驚くユウリだが、すぐさま思考を切り替える。


「では、お手並み拝見いたします」


 駆け出し冒険者たちとはいえ、パーティメンバーのステータスは潤沢だ。もしもの最悪の場合を想定して、ユウリは肩にかけた布巻の【鉄甲銃】に手をかけておく。


「先にいくよ!」

「了解です」


 セシリアに続き、ラリアも前に出た。

 ミノタウロスに肉薄するセシリア。先程と同じ、一瞬だけ彼女の周りの空気が微かに揺らいだ。そして、見事ロングソード一本で重々しいミノタウロスの剛剣を受け止める。


 金属の衝撃音が響き渡り、微かな風を巻き起こる。

 さすがというべきか、連戦だというのにセシリアは本領を発揮している。ミノタウロスと互角に渡り合えるのは職業(ジョブ)だけのものではない。彼女の積み重ねてきたものがその剣に乗っているのが理解できる。


 セシリアはミノタウロスの大剣を弾く。


 そして、後ろへよろめくミノタウロスの胴体を斬りつける。

 傷は浅いものの、ミノタウロスは傷を押さえて後ろに下がる。すると、後衛のミノタウロスが火の魔法を行使した。


 魔法には魔法、そこでラリアが杖を向ける。


「そうはさせません――〈ファイヤーボール〉ッ!」


 セシリアを巻き込まない位置に立ち、〈ファイヤーボール〉を連続で発射。魔法を使おうとするミノタウロスに被弾し、完成しかけた火の魔法が中断される。


「危ないところでした」

「ありがとう、ラリア!」


魔法術師(アークウィザード)〉は魔法と魔術の両方を扱う魔術師。魔法術という、異なる性質を使い分け、組み合わせた術を使う。とある事情によって〈魔術師(キャスター)〉と〈(ウィ)法師(ザード)〉の技術を統合して生まれた職業(ジョブ)であり、一部の意識高い系〈魔術師(キャスター)〉と〈(ウィ)法師(ザード)〉に目の敵にされている。


 そのせいでは魔法職の中では孤立、なりたくてもなれない職業(クラス)であるのが現状だ。

 その点でいうとラリアは度胸がある。幼い容姿であっても年季を感じさせるほどだ。きっと良い師匠に出会い、理解ある環境で育ったに違いない。

 

 そして、ラリアは魔法職としては型破りな戦法を取っている。本来なら距離を取りつつ遠距離からの魔法支援が基本戦術となるが、彼女は頻繁に移動し、距離を縮めた魔法攻撃を行っている。無詠唱を取得しているからこそ実現できる芸当なのだろうが。


「――ッ!」


 セシリアから標的を変えたミノタウロスがラリアに接近して大剣を豪快に振るう。彼女はそれを華麗に避け、懐に〈ファイヤーボール〉を打ち込んだ。


 冷静な対応と的確な判断力を持ち合わせているようだ。肝が座っているともいえる。

 次第に劣勢に感じて後退するミノタウロスたちが肩を並べた。


「っ! 今――《サンドスモーク》ッ!」


 ラリアは土魔法で砂煙を作り上げ、ミノタウロスの視界を奪った。

 瞬間、物凄い速度でセシリアが肉薄し、瞬きする暇もなく二頭を両断した。


「うへぇ。二人だけでもすんげぇ……」


 見事な連携でミノタウロス二頭の討伐に成功した。彼女たちは荒れる息を整えながらハイタッチをし、駆け出しとは思えないほどの輝かしい戦果を挙げた。


「すげぇ、けど」


 職業(ジョブ)すべてに共通して挙げられるのは魔力に依存することだ。我らにとっても魔力は不可欠。ましてや冒険者ともなるとその必要性は格段に上がる。

 ユウリからすると長丁場が予想される迷宮において魔力は生命線であり手段、底を尽き、回復手段がなくなればその時点で手詰まりだ。簡単に魔力が底を尽きることはないが、彼女たちはまだ駆け出しと変わらない。限界がすぐに来る。


 輝かしい戦果の前にして、なぜ不安な話を今取り上げるかというと、ユウリは嫌なものがこちらに向かって近づいてくる気配を察知したからだ。


「ん? ――ッ! ミノタウロスの群れ!」


 ラリアは微かに聞こえた声に気づいた。

 べつの道からミノタウロスが十体ほど現れた。


「こりゃ参ったねえ」


 危機状況の中でユウリは呑気に言った。

 現在対応しているミノタウロス二体を討伐した後に、同じ体躯のミノタウロスが十数体を相手するのは今の二人には無理な話だろう。


「どうしよ。一体のミノタウロスで手一杯ッ!」

「どうするもなにも、戦うしかありません。来ますよ!」

「うん!」


 再度、活を入れ直した二人。セシリアは向かってきたミノタウロスの剣を受け止める。

 だが、一度気が抜けたこともあってか、セシリアは不意を突かれてミノタウロスの剣技によって剣を弾き飛ばされ、彼女の手から離れた剣が頭上高く剣が舞った。


「あ――」


 戦況は不利となった。無防備となったセシリアに、ミノタウロスは大剣を振りかざす。一貫の終わり。ラリアも反応が遅れてしまい、彼女の死が目前に迫る。


「そろそろだな」


 ある程度把握したユウリは前に出る。ミノタウロスを軽々と超えるほどの跳躍をして、宙を舞うセシリアの剣を掴み取り、剣を振りかざすミノタウロスを斬り裂いた。


「えっ」

「――っ」


 呆気に取られる二人を置いて、後続するミノタウロスたちを一瞬で一掃し、魔法を行使する前にその胴体を斬り裂いた。わずか数秒の出来事だ。


「久々に扱ってみたが、少し訛ったかな――ほれ、返す」


 ユウリは剣の使い心地に満足し、セシリアに投げ返す。呆気に取られていた彼女は我に返り、「ととっ」と声を漏らしながら慌てて自分の剣を捉える。


「さて、どうするかなぁ」


 十数体のミノタウロス。群れの場合、その数は未知数。体高約二メートルの筋肉質な体格。武器や防具を所持している外から来た個体。迷宮で生成されたモノとはワケが違う。


 退路が祟れたならば選択肢は一つ。戦闘の継続。幸いなことにこの状況を打破できる手札は揃っている。すべて一人で撃破も良いが、自分が思う存分暴れ、なおかつ二人にも花を持たせる方法を含めて、作戦を組み立てる。


「よしっ、セシリア! ラリア! 俺が群れに突っ込んで片っ端から討伐していく。打ち漏らしたミノタウロスの撃破を頼めるか? 可能なら支援する」


 ユウリはこれからする作戦を二人に伝えた。


「わかった! あとはユウリに任せるよ!」

「こちらは私たちが面倒を見ますので、どうぞいってください」


 反対されると思っていたユウリは少し二人の言葉に面食らった。

 二人からの頼もしい言葉を受け、自分の中で「いいね。冒険って感じだ」と胸の高鳴りを感じながら思った。某A級パーティとは大違いだ。


 そう思うと、自然と肩にかけている《鉄甲銃》から手が離れた。


「あっ、でもちょっと消耗が激しいかも!」

「まだ余裕はありますが倒し切れるかどうか」


 仲間たちの要請を受けてユウリは手をかざし、


「それなら問題ない」


 笑みを零しながら体内の魔力を増幅させる。



読んでくださりありがとうございます。

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