9.『銃弾の材料』
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途中、小腹が空いたらしいセシリアのために肉、野菜、香草にスパイスを組み合わせた特製サンドイッチを取り出し、ラリアにもおすそわけして、食べながら進んでいる。
「このサンドイッチ美味しいですね。とてもお腹が空いてたので助かります」
「迷宮に潜ってどれくらい経つんだ?」
「そうですね。パーティと別れてざっと三日ですね」
「えっ、三日?」
予想外な言葉にユウリの足が止まった。
「地図はあったのですが組んでいたパーティが持っていってしまいましたので、当てもなく適当に迷宮を散策していたのです」
ラリアはそう言うが、〈アグラナ鉱山〉はそれほど難解な迷宮ではない。遺跡のようなギミックもなければトラップもない。坂道を探せば簡単に抜け出せる迷宮だ。
「ラリアはね。地図がないと方向音痴なんだ。一人にしておくとどっかいっちゃうの」
「人を子供みたいに言わないでください」
「身長はそれぐらいだけどね」
サンドイッチを頬張るセシリアの返しに、ラリアはむすっとした。
「ところで、《魔鉄鉱石》をどれぐらい採取する予定ですか?」
「まあ、気が済むまでかな。今日は二人がいるからそこまで採らないけど」
「たくさん、ですか……そんなに採ってなにに使うのですか?」
サンドイッチを食べ終えたラリアがそう訊ねた。
「まあ、色々。余れば魔導具に回したいかな」
呑気に水筒の水を飲みながらユウリはそう答えた。
「やっぱりほとんどは《鉄甲銃》の銃弾?」
サンドイッチを食べ終えたセシリアは幸福で満たされた表情でそう訊ねた。
「まあ、そうだな。もう十六発しかないから、そろそろ補充したかったんだ」
パーティー『パイルバンク』にいた頃は《魔鉄鉱石》が欲しくても仲間たちは採取に赴いてくれなかったため、銃弾だけが消費され、補充できないまま弾切れ寸前。今回の採掘できる機会はユウリにとっては貴重だ。
「もう十六発、かぁ……」
訊いてきたセシリアは弾数にピンときていないようだった。
「まあ、銃使いのユウリならそうなるでしょうね」
腕を組んで首を傾げるセシリアに変わってラリアはそう言った。
「発射される銃弾はB級以上の魔物を一撃で葬るほどの強力な武器の《鉄甲銃》。冒険者の間でも最後の切り札として所持してる方は少なくないですが、銃弾の材料となる《魔鉄鉱石》は迷宮でしか採取できない貴重性と、加工にも手間が掛かり、浪費が激しく、一発撃つだけでも勇気がいる代物です。代用品として合金弾もありますが、破壊力は《魔鉄鉱石》よりも劣ります。そのせいで『金食い虫』と揶揄されることも多いです。そんな武器を大々的に所持してるユウリは頻繁に使用してると伺えます」
「さすがラリア。博識だね」
「《鉄甲銃》に惹かれてるあなたがなんで知らないのですか」
「し、知らないわけじゃないよ!」
セシリアをジト目で見るラリアだが、すぐさま咳払いをして脱線しかけた話を戻す。
「そのことを考えればユウリさんが《魔鉄鉱石》を欲しがるのも不思議ではないです。ですが、十六発ですか。かなり持っているようですが、それでも足りないのですか?」
「足りない、かな。今後のことを考えると増やしておきたい」
合金弾だけでは頼りない、というのがユウリの本音だ。
鉱山系迷宮、又は迷宮内鉱脈から産出される《魔鉄鉱石》は魔力によって変質した鉄のことだ。合金素材のほか、多方面から重宝される魔鉱石の一種。魔道具作製には必ずと言っていいほど必要となり、なくてはならない素材だ。
外でも魔物からでも稀に産出はされるが基本迷宮内でしか取れないため、採取等は冒険者だよりで需要と供給が追いつかない素材だ。
市場では入手は難しく、あったとしても高額取引。今後の冒険稼業も含めると、ユウリは銃弾製作のため《魔鉄鉱石》がどうしても欲しいのだ。
「では、ユウリの持ってる《魔法の(・)鞄》が満杯になるまで採っていきましょう。私たちの体力が続かなくても、ユウリなら無尽蔵に採掘できそうですし」
「いやでも悪いよ。採掘ポイントはセーフティポイントじゃねぇし」
魔物といまだ遭遇していないが、万が一の時に魔物と遭遇して囲まれでもしたら逃走も戦闘も対応できなくなる。体力がなくなるのは避けたいところだ。
「ある程度は温存しておきますよ。なので気にしないでください。ああでも、戦士職のセシリアはある程度タフなのでこき使ってください」
「ちょっ、ラリア!」
「冗談です」
二人の親密な関係だからできる会話を横で聞くユウリは独り和む。こんな言葉のボディブローを易々と決められる関係は彼の憧れだ。
不思議なくらい魔物とは遭遇せず、順調に迷宮を進んでいく。
ユウリ御用達の採掘ポイントまでの最短距離でいける道に入った瞬間、
「ストップ。不運にも魔物が近づいてきてる」
前方から接近する異様な気配と音に警戒する。
セシリアとラリアの二人もまた身構えた。
「一度も魔物と会わなかったのは不運ではないと思うんですけどね」
冷静なラリアの言葉にユウリは、ははっ、と笑う。
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