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8.『魔法術師と煩雑』

アクセスありがとうございます。


〈アグラナ鉱山〉は自然洞窟を利用して作られたであろう廃坑が迷宮化したもの。難易度D級。五階に階層主が存在し、深層にもう一つ。計十階層からなる迷宮だ。


 迷宮へ続く出口は現時点で二カ所あり、ユウリたちは表口とは反対側に位置する。


 冒険者稼業において、駆け出し冒険者が潜るに適し、低級でありながら階層主が存在する数少ない迷宮だ。そして、この難易度の低いの場所には通称があり、『始まりか終わりかの場所』という。ユウリも何度かお世話になった場所だ。


 ユウリとセシリアは軽い山登りをして、木々に遮られ、「なんだ窪みか」と錯覚しそうなほど目立たない迷宮の裏口へと侵入する。


「〈フロート・ライト〉」


 ユウリは光源となる魔法を発動する。

 使用したのは周辺を明るくする照明の魔法だ。使用者から離れて照らし、遠隔操作が可能。ユウリの手から生み出された光の球体は頭上へと上がって浮遊した。


「ありがとう、ユウリ。すごく明るい」


 ユウリは光の球体に手をかざしながら明かりを調整する。迷宮内は基本的には暗い。光源となる鉱物や植物、あるいは先駆者が置いていった魔道具のトーチが設置されているが、それでも光源は不十分で、箇所によって暗黒の世界が続いている。


「んじゃ、いくか」


 光源の確保をしてユウリは先行する。複雑に入り組む道を、息でも吸うように六層へ続く道だけを選んで進んでいく。長い傾斜の続く一本道を進み、やがて六層に到達した。


「すごい、あっという間に六層に着いちゃった」

「だな。道中、魔物とか出ると予想してたんだけどな」


 ユウリは懐かしさを感じながら迷宮を進む。その隣ではセシリアが目を輝かせて六層をあちらこちらと見ていた。きっと初めて来る階層で新鮮なのだろう。


「ん?」


 ふと、ユウリの耳に足音が入る。歩幅と歩く速度、靴が地面を叩く音から人間と推測する。セシリアもそれに気づいたようで一瞬手にかけた剣柄を離した。


「あっ」


 死角から現れた一人の女性冒険者はユウリたちを見るなり短く声を発した。

 三つ編みにした長く美しい白髪とアクアマリンのような青い瞳。縦長の瞳孔が特徴的。成人十五歳ほどの小柄な体格。凛々しさ香る眠たげな眼付と整った輪郭。童顔だが妙齢な女性の雰囲気を感じさせる。そして、魔女のとんがり帽子とマントを装備し、手には大杖を装備している。不思議な雰囲気の女性だ。


「美魔女……」

「せめて別けて頂けるとこちらとしてはありがたいのですが」


 思わず本音が出てしまい、女性にツッコミを入れられた。


「すまん。つい本音が漏れた」


 ユウリは素直に謝った。年増を連想するような言葉ではなく、美女魔女ソラシ、ともっとフラットな感じでいけばよかった、と少し後悔した。


「あっ、ラリア!」


 すると、セシリアは女性に近づいて名前を呼んだ。


「セシリア? どうしてここに?」

「どうしたもこうしたも、ラリアを探しに来たんだよ! よかったぁ、すぐ見つかって」


「そうですか。それはご心配をおかけしました」

「ホントだよ、もう。一緒に探しにいってくれる冒険者探すの苦労したんだから!」


「あなたの勧誘に乗ってくれる変わり者がいたんですね」

「ちょっとどういうこと!」


 捜索は大変かと思われたが、六層に来て早々発見した。


「その子が探してた子か?」


 蚊帳の外になり始めていたユウリは声をかける。


「うん! 紹介するね。彼女はラリア。私の友達で同期です」

「初めまして。私はラリア・アートンポットと言います。職業(ジョブ)は〈魔法術師(アークウィザード)〉のC級冒険者です。今回はご迷惑をおかけしたようですみません」


 礼儀正しく会釈をするラリアという少女に、


「いいさ。困った時は助け合いさ。それに、それ相応の報酬貰ってるからな」


 ノリでユウリもそれ相応の対応をする。ギルドで一人だけ組める人がいる、とセシリアが言っていたことを思い出し、きっとこの子だろう、と思った。


「それにしても〈魔法術師(アークウィザード)〉とは、また大変な職業(ジョブ)を名乗ってるな」

「まあ、それなりには。でも単品より便利なので」


 職業(ジョブ)魔法術師(アークウィザード)〉――魔法と魔術を扱う優秀な魔術師。二つの異なる性質を持つ力を扱うためにより高度な技術が必要とし、なかなか取得が難しい職業だ。


「ラリアはすごいの。あの〈巡礼者(ハッジャー)〉でもあるんだよ!」


 ラリラの後ろに回ったセシリアは軽く抱き寄せてそう評価した。


「まあ、それほど大したものでもないですがね」

「いや、大したもんだろ」


 凄いと言われて満更でもなさそうなラリアに、ユウリはツッコミを入れた。

 職業(ジョブ)として〈巡礼者(ハッジャー)〉を名乗れることは稀だが、今は触れなくてもいいだろう。


「そういえば、あなたの名前は?」


「ああ、そうだったな。俺はユウリ・ランディア。職業(ジョブ)は〈付与術師(エンチャンター)〉のB級冒険者だ。気安くユウリって呼んでくれよ。こっちも気安く美女魔女ファソラちゃんって呼ぶから」


「いえ、普通にラリアと呼んでください」

「あ、はい」


 ユウリの華麗な自己紹介を終えると、ラリアの視線が逸れ、「ユウリ……」と口から零し、はっとなにかを思い出したかのように視線は戻って目を見開いた。

 反応は希薄だが、そんな様子を見せた。


「……、なるほど。あなたがあの〈付与術師(エンチャンター)〉のユウリでしたか」


 いかにもユウリを知ってるかのような言葉を発した。


「ユウリのこと知ってるの?」

「知ってるもなにも一部では結構な有名人です。いろんな意味で」


 いろんな意味で。後付けされた最後の言葉が不穏に感じたが、ユウリは口を挟まず、言葉を続けるラリアに耳を傾ける。


「銃使いの〈付与術師(エンチャンター)〉ユウリ。聞くだけだと不人気の寄せ集めですが、実際は桁外れの実力者です。特徴なのはその武装と見た目。魔術師らしくローブを羽織っていますが、下は機動性に優れた戦士職の装備で身を包み、短剣や魔道具で武装し、戦術も多種多様。その一貫性のなさからついた通り名は『煩雑(はんざつ)』。数年前までは賞金稼ぎとして有名でした」


「へえ、そんなふうに思われてたんだ」

「なんで当の本人が知らないんですかぁ……」


 ユウリの言葉にラリアは呆れて溜息を吐いた。それもそうだ。今まで『煩雑(はんざつ)』と呼ばれても悪い方面でしか評価されたことがなく、ラリアにそう評価されたのが初めてだった。


「失礼ですが、あなたを『煩雑』と呼ばれる証拠とか見せて貰えることは可能ですか?」

「ラリア、そんなに詮索しなくても」

「と言いましても、正直噂でしか聞いたことなかったので半信半疑でして」


 淡々と落ち着いた声音でラリアはそう言った。彼女の言い分も当然で噂だけを鵜呑みにすることはできないだろう。偽物に騙されたら元も子もない。だが、逆にここで証拠を提示することを拒めば信用をラリアから勝ち取ることはできなくなる。証明できなければ信用しないと言われているようなものだ。


 聡いな、と思いながらユウリは証明することにする。


「ほれ。これでどうだろうか?」


 ユウリは証明する認定証、計十数枚をトランプカードの手札のように広げて見せる。


「なっ、こんなに……」

 

 目を見開いて驚くラリア。周りからも驚く声が上がる。


 さらに信用してもらうために、広げた認定証の中から数枚を抜いてラリアの前に出す。最初はメインから〈付与術師(エンチャンター)〉〈錬金術師(アルケミスト)〉と〈呪術師(カースメイカー)〉〈剣士(ソードマン)〉と順番に出した。


「取得が難しい〈呪術師(カースメイカー)〉まで……わかりました。あなたはどうやら本物のようですね」


「証明できてなにより。一様、冒険者カードも見せとくか?」

「いえ、その必要はありません」


 承認を得たユウリは一安心して認定証を下げる。


「疑ったりして申し訳ありませんでした。ユウリさん」

「いいよいいよ。冒険者なら必要な工程さ」


 詐称は本当に気をつけたほうがいい。もし冒険をともにする冒険者が見合った実力を持っていなかったら大変だ。まあ、騙す側は冒険者から報復に合う羽目になるが。


「それにしても、よく俺だってわかったね。ほかにもいるだろうのに」

「この辺では珍しい黒髪ですからね。ラヴィエルに在中しているとは聞き存じていましたので、翡翠色の瞳も含めるととてもわかりやすかったです」


 まさかの容姿が、標識の役割を担っていた。


「それ、俺が証拠提示する必要あった?」

「どんな技術を持ってるのか興味本位で知りたかっただけです。他意はありませんよ」

「あっ、そうなんだ」


 無表情のまま淡々と言うラリアに、ユウリは自分の勘違いしてただけと気づかされた。『あちゃ~』と思いながらも、自己紹介を終えた事なので本題に入ることにした。


「それにしても、どうして迷宮で迷うような事態に発展したんだ?」

「あっ、そうそう。私もそれ気になってた」


 セシリアもそのことに関して訊ねた。


「お恥ずかしい話、組んでいたパーティメンバーと口論になってしまいまして。そのまま一人冒険を中断して抜けたのはよかったのですが、道に迷ってしまって」


 仏頂面だったラリアが苦笑してそう言った。


「口論になった理由は?」

「単純な話、彼らの実力不足への指摘が発端でした。五層の階層主は私が倒したようなもので、実力的にこれ以上のアタックは無謀だと説得したら、喧嘩になってそのまま」


「ああ……」


 冒険者同士のトラブルは付き物。それは場合によって様々だが、話を聞いたユウリはなんとなく察した。冒険者には稀に自分が倒したわけでもないのにいけるという謎理論を展開する者がいる。そして、調子に乗った結果、痛い目に会うというのが定番な話だ。


 あとでティナにチクろうと思い、ユウリは口を開く。


「まあ、本人が無事だったのならいいか。魔物が出ないうちにさっさと帰ろう」

「えっ? 《魔鉄鉱石》を採掘しなくていいの?」


「無茶言うなし。いきてぇけど、数日彷徨って衰弱してるかもしれない彼女の容態を無視して先に進めねぇよ。あとでもいいじゃん」


「さっき来たのに勿体ないって採取してたよね」

「時と場合による」


 普通の探索で偶然出会って成り行きで組むならともかく、今回は冒険者の捜索である。体力の消耗、衰弱していることを想定すると早々に帰還したほうがいい。


「あの、なんの話をしてるのですか?」

「今回の報酬さ。今回の捜索は、俺の《魔鉄鉱石》採掘に同行する、って条件で来たんだ」

「そうなんですか。なら、早速採掘ポイントにいきましょう」


 素っ気なく言ってラリアは踵を返して進み始める。


「ちょっ、そんなわけにはいかない。身体の心配をしないと」


 ラリアを呼び止めると、彼女は振り向いて、


「大丈夫です。これでもこの数日、迷宮で暮らしてたので慣れてます。魔法が使えるので水の心配もありませんし、食料もあるし、お風呂作って呑気に探索していました」


 淡々とそう言った。


「なかなかたくましいね、君」

「ですので、私は平気です。このまま進みましょう」


 もっと心細いとか、不安だったとか、あるはずなのに、ユウリの心配は杞憂に終わり、今は容姿から予想のつかない肝の据わりように拍子抜けした。


「ほら、いきましょう。ユウリ」

「いこっ、ユウリ」

「あっ、はい」


 セシリアに背中を押されて迷宮の採掘ポイントに向けて歩き始める。まあ、探し人が無事に見つかったことを喜べばいいか、とユウリは思うことにした。


 変わった冒険者、そんな印象を二人に抱きながらユウリは採掘に向かった。


読んでくださりありがとうございます。

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