93.ライラックの糸④
シルヴィア以上のオチ。
男は女の子を人質に取った。
ライラックは動けなくなる。
それを見越した男は、ニヤついていた。
「ふはぁはぁ。なんだ、ガキを一人人質に取られただけで、動かなくなるのか」
「あのさー、そういうこと本当やめた方がいいよ」
「なんだ、この期に及んで説教か?」
「いやー、そうじゃなくてさー」
ライラックは表情を歪ませる。
それは単純な理由だった。
男は余裕な笑みを浮かべていたが、ライラックから放たれたのは、意外性のある一言。
「人質取ってる時点で負けなんだよねー」
ライラックの指先が何かを捉えた。
男はポカンとした顔をする。
すると突然、嗚咽交じりになって、口から吐血した。
「ぶはぁっ!」
「はい、おしまーい」
ライラックは男の口から何かを釣り上げた。
完全に男を殺す気に来ているが、そのことにまだ気づいていない。
「あれ? つっかえてるのかな?」
ライラックは糸を引っ張った。
もちろん人差し指を動かしている。
男は吐血を続け、何が起きたのかわかっていなかった。
「な、何が起きているんだ」
「言ったでしょー、最初の段階で勝負は決まってたんだよ」
「これは糸? 一体何処から、体内に」
「もちろん、耳の中から。最初の初激、覚えてるでしょー」
ライラックが最初にぶつけた攻撃。
左耳を怪我したその瞬間、噴き出た血管から糸を侵入させていた。
そしてその糸は血管の長い旅を終え、最終的な目的地、心臓を捉えていた。
「心臓を拘束したとでも言うのか」
「そうだよ。だから、私の勝ちなんだー」
「くそがぁ!」
男は、飄々とした態度で、最初から嘲笑っていたライラックを睨みつけた。
しかしすでに勝機はなく、魔力も途切れていた。
こうなった以上、反撃の余地はない。
「殺せ」
「ん? うーん、それはできないかなー」
「何故だ」
「うーん、殺したら情報が吐かせられないし、それにもっといたぶって殺した方が、自分が他人に与えてきた痛みは分かるでしょー」
ライラックはそう答えた。
そして耳打ちもする。それは人質作戦の有無だった。
「一番のミスは、私に人質なんて野暮な真似を見せたこと。人質は目の前で撮っても意味がない。やるならそれを前提にした策をしないと、効力は薄いんだよ?」
「わかった口を利くな」
「そうだねー。でも私なら、人質を取った時点で、こうするけどね」
と言ってジェスチャーをしてみせた。
男にはその悍ましい考えが手に取るように分かった。
心臓の負荷が重症化し、吐血の量が多くなる。
「あちゃぁー、これは流石にやり過ぎたかなー」
男の意識は完全に抜けていた。
顔が真っ白だった。如何やら血を吐きすぎて、体内に残る残量が大幅に減ったらしい。
もちろん、糸をストロー状にして、外に出してたからなんだけどね。
「さてと、この男は後でどうにでもするとして。大丈夫、怪我とかしてない?」
「う、うん」
「そっか、よかったぁー」
ライラックは小さな女の子の目線になった。
本当に小さい。目からは涙がこぼれている。よっぽど怖かったらしい。
静かに、頭を撫でてあげた。
「最後まで泣かなかったのは、偉いね。でももう大丈夫だよー。えーっと、はいこれあげる」
ライラックはポケットから飴を取り出した。
故郷の梅干しの味がする、少し酸っぱい子供受けゼロの品だった。
困惑した顔で受け取り、舐めた瞬間、口を酸っぱくして尖らせた。
「す、酸っぱい……」
「あははー。そうでしょー、塩分濃いんだよねー」
ライラックは笑っていた。
しかし、笑顔は絶やさなかった。こういう時、一番の不安は笑顔を欠かすこと。
それだけじゃない。この町は殺伐とした空気が滲み出ている。それとは格別下、全く新しい風が吹いている。だからこそ、この町が好きなんだ。
「それじゃあお母さんのとこに戻って、きっと心配してるから」
ライラックはそう言って送り出した。
お母さんに抱きつく少女の姿。
なんだかちょっと切なくて、お辞儀をされたことで、より一層歯痒くなったライラックだった。
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