16.永久を生きてきて
ルカはめちゃ強い。今回も手加減手加減。
時刻は数分前まで遡る——
取り残されたルカは如何するべきか考えていた。
しかしその足は止まらなかった。早く行かなくちゃと急がせる。
しかしそんな逸る気持ちを収めたのは、
「ちょっと待ってよ」
「ニッカ……先生」
「先生はいいよ。気持ち悪いなー」
ルカを呼び止めたのはニッカだった。
だらけた表情と、袖の丈の合わない白衣。全く、だらしない。如何やら置いて行かれたみたいだ。
「なに、ニッカ」
「いやぁー楽しんでるかなぁーって」
「そう見える?」
「いんや」
ニッカは気が付いていた。
しかし教師として止めるでもなく、放任していた。
それには理由がある。面倒だからだ。
「だったら」
「いいかいルカ。一つ忠告」
「な、なに?」
嫌な予感。それは当たってしまった。
「あんまり面倒なことしない。私が怒られるから」
「ナタリーに?」
「親御さんに。今回は向こうが悪いみたいだけどさー」
それでもよく見ていた。
魔力の感知からだろうな。ニッカは、他人にはないとんでもない特殊能力が使えた。流石は今に生きる魔法使いの一人だ。
「というわけで、追いかける。なんか嫌な予感するからねぇー。ふはぁー」
大きな欠伸。しかし気にも留めなかった。
ニッカはこういう人物で、これこそがニッカ・レゾナンスなのだ。
「はい、行く。魔力を追えば追いつくでしょ」
「そうだね。こっちもこのままでいいとは思わないから」
「はいはーい。それじゃあ、行った行った」
ルカはニッカに急かされるように、森に向かわされた。
しかしニッカは一つ愕然とした。
「そう言えばさっきモンスターが……まぁいっか。気づいてるでしょ」
ニッカはルカを過信しすぎていた。
今のルカはオフ状態。つまり本気になってない。警戒もほとんど解いていて、警戒範囲も狭かった。
そのせいもあり、ルカはまだ気づいていない。モンスターの存在を。
だけど心配なんて無駄だ。だってルカだけなら対処は余裕だからだ。
ニッカのせいで遅れてしまった。
ルカは早く追いつかないといけないと思い、仕方なく気配を辿る。すると嫌な予感がした。
「ん? この気配……なんで、二つあるんだ。しかもこの明らかにモンスターの気配……はい?」
急に動かなくなった。
数は二人。しかも感情的になってる。これじゃあモンスターと接敵するぞ。
ルカは怪しく思った。
数的には反対側。
しかし如何にも心配で仕方ないので、二人の方を追いかけることにした。
「何だあれ。感情が爆発しそうになってる……」
見ればモンスターと接敵したらしい。
これはヤバいな。魔力の流れが発生している。だけど相手の方が強い。潜在的には負けてなにのにさ。
ルカはあまりの危機に急いだ。
「よっと」
糸が張り巡らされていた。
これは何だ。魔力で練られた縫合魔糸か。なかなか珍しいうえに、強度も高かった。
「でも切られてる。ん?」
その時アナウンスが流れた。
如何やらブルホーンが逃げ出したらしい。それは危ないな。
ブルホーンは淡い青色をした毛並みが特徴的なイノシシ。しかし魔力は豊富で並大抵の魔力には怯んだりしない。長くて白い強靭な牙を引っ提げる。
「これはブルホーン。って、なに、この魔力!?」
急にルカを襲ったのは風の余波だった。
それは先から感じる。
「《インサイト》!」
ルカは視力を上げた。
見えたのは女の子二人がブルホーンに襲われそうになっている瞬間だった。マズい。完全に怒ってる。やるしかないか。
ルカは一歩足を下げた。
それから一気に踏み込むと、ブルホーンの横っ腹に拳を食らわせた。
「えっ!?」
シルヴィアが声を上げる。
「大丈夫?」
ルカは優しく声を掛けた。
今にも泣きだしそうな頼りない様子。しかしそれだけ怖いのは仕方がない。
ルカはそう思った。
ここで今に至る——
ルカはブルホーンをぶちのめした。
拳はそこまで痛くない。鍛えているからだ。しかしまだ安心はできない。
「あ、あの……」
「下がってて。ここは私がやるから」
ルカは二人を下がらせる。
しかしシルヴィアもライラックもそんなことはできなかった。けれど、
「二人は魔力を使って盤石じゃない。それにモンスターとそんなに戦ったことないでしょ」
「それは貴女でって……」
「私はあるから大丈夫。だからさ、少し見ててよ」
「ルカさん……」
「ルカでいいよ。ライ、シルヴィアをお願い」
「それはいいけど、ほんとに大丈夫?」
「うん。心配いらない、よっ!」
起き上がったブルホーンは勢いをつけてルカに突進した。
しかしルカは片手で止める。もちろん魔法も魔術の類も使ってない。単純に素手だった。
「素手で受け止めた!」
「ま、マジ?」
ルカは平然とした顔でブルホーンを大木に叩きつけた。
掌で押し出して軽い力加減で叩きのめす。
スドーーーーーン!
地面が揺れたようだった。
鳥たちが空に逃げ延びる。すると魔力の反応が薄くなった。ブルホーンは完全にのしてしまった。
「終わったかな」
ルカはブルホーンを一応鎮めた。
しかしあまり戦うことが好きじゃないので、ルカは胸をホッと撫でおろした。
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