10.転入生の実力を発揮してしまう
主を迎えるは……
そこに書かれたのはノーブルの書いた丁寧な文字。
だけど少しだけ崩される。
それはほとんどの生徒には理解できず、何人かの生徒は掴んでいた。だけど、
「先生、それは魔術ですよね?」
「流石ですシルヴィアさん! では、何の魔術でしょうか?」
「えっと、それはそのー……すみません、分かりません」
シルヴィアは恥ずかしくなって小さくなる。
その隣でライラックは肩をポンポンと叩く。励ましているんだろう。それを受けて、「ありがと、ライ」と小さく答えた。
落ち込んでいるみたいだったが、魔術に詳しいのはシルヴィアだけではない。他の生徒たちも手を挙げる。
その中で特に惜しかったのは、
「ライボルトですか?」
「アレックス君、凄く惜しいわ」
「そ、そうですか?」
アレックスは不満ではなく、何故か釈然としない。
そんな中、静まり返る教室はノーブルによる突発的な質問を前に意気消沈してしまう。
「困りましたね。うーん、ルカさんは如何ですか?」
「私ですか!?」
ルカは突然当てられてしまった。
空気と気配を極限まで消していたはずなのに、まさか当てられるなんて。しかし当てられたからには真面目に答えるしかない。
何故か周りからの「頼むぞ」感がビシバシ伝わる。
「これが何の魔術か分かりますか?」
「雷系の初歩的な魔術ですよね? 崩し方の文字を繋げれば、《ボルト》ですか?」
より鮮明かつ詳しく答えた。
するとノーブルは黙り込む。生徒たちはその反応にかなりびくびくする。
しかし、
「素晴らしい。よく分かりましたね!」
満面の笑みを浮かべた。
すると周りからの反応が気になるルカ。
もしもこれで「当然だよな」や「調子のいいやつ」とか思われたら今後が危うい。怯えたルカだったが、多くは違った。
パチパチパチパチ——
大きな拍手が送られる。
その中には先ほどのライラックやアレックスの姿もあった。如何やらいい感じらしい。ルカから見ても思った以上に反応がいい魔力の動きで安心した。胸を撫で下ろす。
「マジかよ、転入生!」
「よくこんなの分かったね」
「凄い凄い!」
ルカは驚いてしまった。
こんなに喜ばれるなんて。まさに阿鼻叫喚だった。
「えーっと、たまたまかな? ちょこっと勉強しただけで」
「それでこれって凄いよ。だってあのノーブル先生だよ!」
そんなに有名なんだ。
ナタリーからはそんなこと教えてもらえなかった。
「でもいいですよ。確かにこれは雷の魔術です。まさか《ボルト》まで当てられるとは思いませんでした」
「あ、ありがとうございます」
「ちなみに、何って書いてあるか読めますか?」
ノーブルは意地悪だった。
けれどこれが読めたら流石だとも思っていた。
「えーっと、主を迎えるは雷の窓。雷鳴を響かせ、熱を帯びよ。です」
「完璧です」
(まさか魔力の反応まで……)
ノーブルは誠心誠意込めて褒め称えた。
しかしその裏では怪しさも秘めている。そんな感情が魔力に乗らないよう、気を確かに持つ。
「では……」
ノーブルは口を出そうとした。
しかしそんなタイミングでチャイムが鳴る。如何やら授業は終わりらしい。
「はぁ。今日はここまでです」
ノーブルは少し残念そう。
その足取りは少しだけ重たく、直行するのは校長室。しかしノーブルはナタリーからよい言葉はもらえない。それが判っているのに向かってしまうのは、やっぱり魔術師としての意地と本懐だった。
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