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12.名付け

 



「あーくそ。なんでこうなるんだよ」


「タイミングが悪かったね。私たちのすぐ後に部屋が全部埋まっちゃうなんてね。まあ、一晩だけだし我慢してよ」


 召喚した子犬の妖精が人型を取れたという事はこの子も一緒に宿の部屋に泊まれるという事だ。

 しかし、もう1部屋取って泊まろうとしたところ、ちょうどその前に満室となり、私とアルフレド、召喚したこの子の3人で1部屋で泊まることになってしまった。

 アルフレドは厩舎で泊まろうとまでしていたのに、私と同じ部屋になることの方が嫌そうに見える。軽くショックだ。

 私、そんなにいびきとかうるさくないから大丈夫だよ、多分。

 自分が寝てる時どんな状態なのかなんて知らないけど。


「……まあ、こいつとどうこうなるとも思えないけどな。こうも危機感が薄いとかほんとにこいつ女なのか?」


「え?何か言った?」


「いや、何でもねえよ。それより、こいつの名前はどうするんだ?もう決めたのか?」


 アルフレドが何かぶつぶつと文句を言っていたようだけど良く聞こえなかった。本人がそう言うならわざわざ聞くことでもないか。

 私はアルフレドの問いに首を横に振った。

 そうだ、名前。この子に名前を付けなければ!

 高ランクの妖精には名前が元々付いている事が多いけど、この子のように低ランクの妖精には名前がない事が多い。

 私が名付け親になるなんて責任重大だ。とっても悩むなー。

 純粋な瞳で見つめてくるこの子を見て、似ている何かを思い出した。

 何だっけ?純粋で天真爛漫な……あ、思い出した。あれは前世のアニメに出てきたキャラクターでいがぐりの兄弟の三男の……


「………くりざぶろー」


「却下だ」


 間髪を入れずにアルフレドがつっこむ。

 べ、別に名前にしようと思って言ったわけじゃ無いからね。ちょっと似てたから口から勝手に出ちゃっただけだよ。ほんとだよ。そんな残念な人を見るような目で見ないで!


「だ、だったらアルフレドは何か良い案があるっていうの?」


「は?俺にふるのかよ。まあ、お前に名付けられてもこいつが不憫だしな。あー、じゃあ、髪の色が綺麗な緑だから……ライムなんてどうだ?」


「ぬぬ……なかなか良い名前じゃない。あなたはどう?ライム……」


 私とアルフレドでその子をのぞき込んで、優しく呼びかけた。

 そんな風に呼ばれた当の本人は最初はキョトンとしていたが、だんだんとその顔は光が差したように明るい笑顔へと変わっていった。


「良いみたいだな」


「よろしくね、ライム」


 ライムと名付けたその子は分かっているのか分かっていないのか、さらに溢れ出すような笑顔を浮かべると私にぎゅっと抱きついた。

 そして、すぐにすぅすぅと気持ちよさそうな寝息を立て始めたのだった。


「まったく、自由な奴だな」


「子供だから仕方ないじゃない。今は寝かせておいてあげましょう」


 アルフレドは面倒くさそうな態度を示しているが、その目の奥の光は慈愛に満ちていた。

 私がライムを起こさないように気を付けてベッドに寝かせたのを見届けると、アルフレドはそれで……と私に話しかけてきた。


「それで、どうする?こいつをコンテストに出させるのか?実際、こいつを使えるまでにs立てるのは相当な手間と労力がかかることになると思うぜ」


「うん、そうよね……」


 そう、悩ましいところだ。

 このゲームでは妖精のランクに低い方からN(ノーマル)R(レア)SR(スーパーレア)SSR(スペシャルスーパーレア)UR(ウルトラレア)がある。

 召喚時にランクの低い妖精であっても、レベルカンストと特別な素材などの条件を満たせば、ランクアップは可能だ。

 可能だけど、効率が悪すぎる。多大な時間もしくは費用がかかる。

 ライムのランクはR。最初は良いが、高難易度のコンテストで勝ち抜くためには最低でもSSRは必要だ。そこまでにいくのに、1年以上かかることになる。

 レベル上げアイテムや素材を店で購入すれば時間は無に等しいが、そんなモノを買うお金もない。

 ちなみに、アルフレドのランクはSRでレベルはある程度あるみたいだけど、こちらもレベル上げ必須だ。ライムだけにかかりきりという訳にもいかない。

 この状況を見れば、完全に積みだ。


「召喚し直すにしてももう石はねえし、俺みたいに妖精を召喚なしに雇うっていうのも現実的じゃねえし……おい、聞いてるのか?」


 私は脳内の思考を助けるために目を瞑って集中していた。

 アルフレドも色々と考えている様で、悩みながら案を出す。

 そんな落ち着いた低い声を聞いていた私は、いつの間にかうつらうつらと船を漕いでいた。

 アルフレドに肩を揺すられ、石でも乗ってるんじゃないかってくらい重い瞼を開けて、やっとのことで声を出した。


「……まあ、なんとかなるんじゃないかな」


「お前……!人が真剣に考えてるっていうのに、適当すぎるだろ!寝てんじゃねえ!」


「適当なんかじゃなくて、考えた結果だよ。気合いがあれば何でも出来る!……とりあえず、今日はもう寝ない?」


 私は耐えきれずにふわあとあくびをして、目をこすった。

 思い返せば、今日は怒濤の1日だった。緊張が解けて一気に眠気が押し寄せてきた。

 今の状況は完全に積みだ……普通であれば。

 私は普通ではない。イレギュラーだ。だから、この状況にも抜け道があることを知っている。

 全ての問題を乗り越えるための方法もないことはない。

 まあ、やってみないことには分からないけど、とりあえずの策はある。

 それで、なんとかなるでしょうと思ったのだ。


「なおさら悪いわ!この脳筋が!」


「脳筋とは失礼な!体力があるだけだから!」


 私が何も考えていないと思ったのか、アルフレドは怒ってそんなことを言った。

 花の乙女に向かって体力化物だ、脳筋だと、何ともデリカシーのない男だ。そんなんだとモテないぞ。

 アルフレドに私の考えを伝えれば良いだけだけど……今はもう無理。


 私はアルフレドにむっとした顔で一言言い返すと、ベッドにダイブしそのまま爆睡したのであった。




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