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ライジング・サン  作者: 村松康弘
4/50

Black Birdの短いイントロが鳴り、ポールが歌いだす。

この着音は久しぶりだったので須川はAメロの途中まで聞き入り、慌てて電話に出る。

「やあやあリョウちゃん、ご無沙汰だな、お達者かい?」須川はその年寄りじみた挨拶に思わず笑い出す。

「こりゃあタケルさま、ご無沙汰で、お陰さんでなんとか生きてるわい」今度は三羽が電話の向こうで笑っている。

「今夜、コウヤと行くけどさ、今日はどんなの演んの?」須川はタイムテーブルを眺める。

「今日はアコデーだよ。」

「アコデーか、そりゃいいな。話ができるな。・・・あとで行くわ」


須川は電話を切って、店の壁の色褪せた「三羽鴉」のステッカーに目をやった。

(・・・解散して5年か、俺は今でもここにいるから昨日のことのように思えるけど、ヤツらの中では色の褪せた思い出に変わっちまってるんかな。)

須川は今でも、当時のビデオやDVDをたまに観る。無我夢中だった頃の記録を今は「プロの目」で客観的に観れる。

そしていつも思うのは、自惚れかも知れないが三羽鴉はいいバンドだったということ。

(・・・ヤツらが「またやろうぜ」と言えば、俺はすぐにでも曲を書くんだけどな。)


オープンの時間になった。金曜日だからか客の入りはまずまず良い。

1組目のプレイヤーは、今日はじめてステージに立つ女性だった。・・・緊張しまくりだがそれが返って新鮮で、オーディエンスの目を惹きつける。

MCは支離滅裂だったが、彼女はまたこのステージに立ってくれるだろうと確信した。


ベテランの2組目の途中でヤツらはやって来た。

「宮岡建設工業」の作業着のままの唐沢と、「ワールド警備保障」の警備服のままの三羽。・・・思わず「ここが現場みてえだなー」と笑った。

「なにー?おめえのツラ見るために急いで来たんだぜ、この野郎」と唐沢が笑う。

2人はカウンターの前のスツールに座る。生ビールを3人で乾杯した。

三羽は店の中をキョロキョロ見回し、「なんも変わんねえなー」とビールを呷った。

「・・・おめえら白井さんに挨拶したか?」と聞くと、2人は慌てて席を立ちPAブースの方へ向かった。

(やっぱヤツらとバンドやりてえ、いや絶対復活させる!)と、須川は決めた。


ベテランのステージはさすがだった、演奏もMCもオーディエンスを魅了して、目を逸らさせない。

「・・・すげえなあの人、なんでプロじゃねえんだろう」唐沢がくわえタバコで呟く。

「音楽業界は腐ってるんさ、実力なんて関係ねえ。予定通りに作られたもんが予定通りに売れてるだけさ。・・・音楽だけじゃねえと思うけどな」三羽がジントニックを呷りながら言った。

(確かにそうかも知れねえな、本当の音楽ってもんはテレビやメディアとは無関係かもな。)須川は思う。


3組目が楽屋からのドアを開ける。チャチなGibsonのメロディメーカーを提げた昭和のチンピラ風情のおっさんと、チャップリンみたいな帽子をかぶりFenderのデュオソニックを提げた目つきの鋭いおっさんだ。

(・・・来た来た。)須川は2人の反応を楽しもうと、ヤツらを眺めている。

「・・・なんだあの変なおっさんたち、エレキじゃねえか。アコデーだろ?」唐沢が怪訝そうな眼差しを送っている。

昭和のおっさんがステージに向かう途中で踵を返し、唐沢と三羽の間に身体を割り込ませた。・・・三羽はもうキレる寸前の顔つきだ。

「兄ちゃんたち、わりいわりい。・・・リョウタ、黒霧濃い目でお願い」おっさんはひどい隙っ歯でヤツらに言うと、水割りの焼酎のカップを持ってステージに行った。

「なんだあのおっさん、酔っ払いか?すげえ酒くさかったぞ」三羽はまだステージを睨んでいる。

おっさんたちのステージがはじまる。さっきのベテランとはえらい違いの緩さだ。

「・・・なんだあいつら、酒飲みながらグダグダしてやがって」唐沢はかなり不機嫌だ。

「歌もわからねえしな、大昔の歌謡曲か?」三羽も機嫌が悪そうだ。

・・・そのうち、おっさんたちは客席にいる背のデカいおっさんと言い合いをはじめる。

「なんだこれ?ふざけやがって!・・・おいコウヤ、どっか飲みに行くぞ」

三羽と唐沢は席を立った。「リョウタ、店終わったら電話くれやなー」唐沢が手を振る。


(・・・このおっさんたち世代が面白えんだがなあ。)須川は大笑いしている白井に視線を向けた。


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