動画の違和感
「それで、どんな違和感があるんだ?」
「私も分からなかったです」
「自分も違和感と言いますか、少し疑問ぐらいなのですが、この場所は体育館裏ですな?」
「そうだな」
「確かにあそこは草むらもありますから隠し撮りをするのであれば絶好の場所なのかもしれまないですが、このカメラは一度もブレていない所を見れば、置きながら撮影されているということになりますな」
「まあ、そうだろうな」
言われてみれば確かにその通りなのだが、そこに何の違和感を感じたのだろうか。
「あ!分かったかもしれないです!」
そこで、漢城が大きな声を出すので自然と目がいってしまった。
「何か分かったのか?」
「私も半信半疑なのでもう一度動画を再生させます」
眼鏡男に席を譲ってもらった漢城が再度動画を再生させ、直ぐに止める。
「……やっぱりです」
「当たってたのか?」
「はい。この動画には草が全く映ってないんです。草が映ってないならこのカメラは丸見えの状態で置かれていた筈です。それなら、流石に小野さんでも、多分私でも気付くと思うんです」
「……確かに、何で草が映ってないんだろうな。完璧に小野ともう一人の映像しか映ってない」
漢城に言われ、映し出されている映像を見て初めて気づいた。確かに、おかしい。多分俺でも流石に露骨にカメラが置かれている状況なら気付いていると思う。これは違和感と言って差し支えないかもしれない。
「僕もそれが気になったのが一つですが、もう一つあるんですな。丁度良いので今のこの画面を見て頂ければ分かると思うのですが、この動画はあまりに鮮明に映し出されすぎな気がしますな」
「……それの何がおかしいんだ?」
正直動画など一切見ない人間なので、全く理解が出来ない。
「お二人はYouTubeなどはお見えになりますか?」
「俺は見ない」
「私も見ないです」
「……今の世代で見ないというのは大変稀な気がしますが、それではどちらかスマホを少し出していただけないですか?」
「私部室に置いてます」
「じゃあ、俺のを使ってくれ」
別に誰に貸しても困らない物なので、眼鏡男にスマホを渡す。
「それではどちらでも良いのですが、壁際に立っていただけますか?」
「漢城。任せた」
「え!?私何されるんです?」
「何をするんだ?」
「言うより実践した方が早いんですな。取り敢えず、立っていただいて男の方はお名前は?」
「吉条宗弘だ」
「それでは吉条さんはこちらに来ていただいてくださいな」
「分かった」
漢城が何をされるのか怖がっている様な困惑している様な顔をしながら部室の壁際に立ち、眼鏡男がスマホを漢城の方に向ける。
「吉条さんはこの画面を見ていただきたい」
「画面ってカメラか?」
俺のスマホに映し出されているのはスマホの機能として俺でも知っていたカメラの画面が出されており、壁に貼られているアニメの壁画、漢城が映し出されている。
「その通りですな。この画面を見てどう思いましたか?」
「普通に映ってるだけだと思うんだが?」
何に気付けと言われているのか全く分からない。
「確かにその通りかもしれないですな。ですが、壁画は大きいので普通に映ってますが、え、ええとあちらの女性のお名前は?」
「漢城だ」
「その漢城さんの顔は小さいですし、はっきりとは映し出されてないですな?」
「まあ、そうだな。漢城の顔がはっきりとは映ってない」
「……ですが、こうすればはっきりと見えるのでは?」
何やらスマホを二つの指で操作すると、ズームされていき、画面がどんどん漢城の方に近づいていく。
……カメラ機能がスマホについていたのは知ってたが、ズーム機能があるのは知らなかったな。
「確かに見えるな」
「この画面は先程と違う所があります。それが、どれか分かりますか?」
「……うーん。漢城がはっきりと見える?」
「あの、何があるのか知りませんが、吉条君はちゃんと言わないと分かんない人です」
「何も知らないのに貶すんじゃない」
「分かるんです?」
「……分からんが」
「ほら!」
アハハハと漢城が笑いだしている。こいつのその顔を撮って馬鹿にしてやろうか。
「……ハア。それでは最初の方に戻せば鮮明に周りの景色は見えますが漢城さんの顔はあまり見えないですな?」
「ああ。そうだな」
「それをズームすれば、多少目の前の画面の色が悪くないですか?」
「……言われてみればそうだな。少し画質が悪い気がする」
「それが、僕にとってもう一つの違和感の正体ですな」
「……あの、私もう戻って良いです?」
「ああ。もう大丈夫だ。俺もこいつが言っていたもう一つの違和感の正体が分かった」
「え?何なんです?」
漢城が食い気味にこちらに近づいてくるのだが、大変近い。本当にどうしてリア充と言うのはこうも急接近出来るのか俺には分からない。
「……だから近い。これだからビッチって言われるんだよ」
「なっ!し、信じられないです!私はビッチじゃないです!」
馬鹿!と顔を真っ赤にしながら俺の肩を叩いて来るのだが、遊び半分ならまだしもリアルに痛い。
「痛いからな!ハア。それよりも違和感だが、小野の動画は鮮明に《《映しされすぎている》》って事だろ?」
「その通りですな」
「どういうことです?私にも分かる様に説明してください!」
俺が向こう側に立つのも別に構わないのだが、少し面倒なので口で説明すれば、流石は漢城と言うべきか、理解力があり、直ぐに分かったようだ。
「……確かにその通りです。今の言葉を聞いて確かにこの動画は凄い綺麗な気がします」
「YouTubeでもまた、ズームなどが使用されないのはそう言った点もあると私は思うのですな。自分が今まで見た中ですが、ズームされた動画が無いですな。それもあって分かりました」
「もしもこれがズームされていない映像なら相当近い距離で撮ることになるし、それなら察しが悪い以前の前に誰でも気付くな」
「……と言う事はやっぱりこれは偽物の動画と言う事です!?」
「まあ、そうなるな」
「許せない!!」
突然、俺の言葉を聞くと同時に漢城が拳を机に強く叩きつける。
「……お、おい。どうした?」
「だって、私はこれが小野さんが本当に撮られているのであれば可哀そうだなとしか思ってなかった。だけど、実際はこれが偽物でそのせいで虐められ、蹴落とされるなんて許せない!!」
……初めて見るかもしれないと思えるほどに漢城は表情を怒りに満ち溢れさせ、自分ではないと分かっていても、少しだけ怖いと思ってしまった。
「……落ち着け。こいつもビビってる。悪いな。本当に助かった」
「……別に大丈夫ですな」
眼鏡男も相当漢城が怒った姿が怖かったのか、本当にビビっているみたいなので、お礼だけ伝え、部屋を出る。
「――――本当に!本当にその怪盗Xが許せない!」
「落ち着けって。俺に一つ名案がある」
「何です!?」
怒りの表情が少しだけ取れていないが、気になるのか少しだけ表情を和らげた漢城。少しだけホッとする。
「今回の寺垣、小野の件について新聞を書くのはどうだ?寺垣の場合は確かな証拠が無かったが、動画に関しては偽物である証拠がいくつもある。それに、今回の場合学校一の人気者に関しての話だ。誰もが食いつくんじゃないのか?」
「……私も一瞬凄い名案な気がしましたが、寺ちゃんの方は証拠は無いんですから無理なんじゃ?」
「忘れたのか?お前が俺に取材した時の事」
「……取材……あ!」
漢城は思い出したのか手を叩く。
「俺達の解決した案件もたった二つ。だけど、百%と言う言葉に誰もが食いついた。それを教えただろ?」
「そうです!な、なら小野さんの分は嘘だという証拠があります。だからこそ、新聞で動画は嘘だと証明し、それと同じことをした寺ちゃんの紙と写真もまた嘘の可能性が高い!こんな感じでどうです?」
「新聞の事は俺には分からんが、それなら相当注目されるし、お前の今までのキャリアにも泥は塗らないんじゃないか?」
「はい!全然大丈夫です!私、早速やってきます!」
漢城の怒った表情は一気に霧散し、飛び去って行った。これで、小野の件、もしかしたら寺垣の件も無事終わるのかもしれない。だけど、誰も嬉しくはあるかもしれないが、納得はしないだろう。
――――怪盗Xの正体が分かるまでは。
「――――あ!ここに居ました!広先輩!」
「ん?」
何故か、遠くから泉が叫んでいるのだが何故あいつは五十mぐらい離れているのに、俺の事が分かるのだろうか?そんなに特徴的な顔はしていないので分かる筈がないと思うんだが。
「……ハア。探しましたよ!大変なんです!清水先輩が文実に来て怪盗Xからの紙が来たって!」
「……本当か?」
――――もしかしたら、これで新しい何かが分かるかもしれない。




