狙い
俺が多分自信満々にドヤ顔で呟けば、全員がまるで何を言ってんだ?馬鹿じゃねえの?と言わんばかりの目を向けてくる。
「……吉条。そのぐらいは私でも分かるよ?多分まだ真澄のお弁当が効いてるんだと思う。休んだ方が良いよ」
「真由美!!私のお弁当はそこまで酷くないわよ!?」
「確かに南澤のお弁当は凄かったが、今は効いてない。俺がおかしい事を言ってるように思うかもしれないが、これが事実だ。これは挑戦状なんだ」
「広先輩さっきから挑戦状って言ってますけど、どういうことですか?」
泉は何か意味があるのかと思ったのか質問を投げかけてくる。ナイス質問だ。
「多分俺は本の見過ぎ、多分清水もだ」
「否定はしない」
「そして、多分南澤や寺垣、泉はドラマとか見てるんじゃないのか?」
「私は結構刑事ドラマとか好きよ!何が起こるか全然分からないのが面白いわ」
「うーん。そんなには見ないけど、テレビでついてたら見るぐらいかな」
「私は結構見ますね。最近になって色々と」
泉は何故か曖昧に濁した言葉だったが、もしかしたらアニメ、もしくは小説にハマり、そのどちらかなのかもしれない。じっくり話を聞きたいがまあ今は良いだろう。
「だから、俺達は普通に勘違いしていた。この差出人が怪盗Xだったこと。挑戦状と予告状の境界線が曖昧だったこと。一つ、この紙にはあまりに普通過ぎて気付かなかった場面が見受けられたんだ」
「何があったの?私全然分からないわよ!?」
南澤がもう一度紙を見直していたが、何も見つからなかったのか首を傾げている。
「多分そのまま見ても分からんと思うぞ。俺も一つの疑問に気付いて、そこから初めて気付いたからな。その差出人を……そうだな。怪人Xとでも思って見てくれ」
「怪人X?なにそれ?」
「取り敢えず見てみてくれ」
俺の言葉に寺垣も泉も南澤の方に行き、見ているがまだ何処かピンときてないようだ。
「それじゃあ、清水読んで見てくれ」
「見してみて」
清水に言われ、南澤が紙を渡し清水はもう一度見つめる。
「本当に最初に見てみると思ってくれ。怪盗Xを忘れて怪人Xだと思って見てくれ」
「……ん?」
清水の眉がピクリと動き、少し紙を自分の顔に近づけ再度見つめる。
「分かったか?」
「……悔しいけど分かったわ。どうして、自分で分からなかったのか悔しいけれど、良く考えれば普通の事だったのね」
どうやら清水も理解したようだ。本当に単純でありきたりな挑戦状だったのに、俺達は大きな勘違いをしていた。
「どういうことなの?説明してよ!」
南澤が気になるようで声を上げて、説明を求めてくる。
「この挑戦状には偶然かそれともこの怪盗Xが意図して考えたのかは定かではないが、俺達は大きな勘違いをしていたんだ」
「勘違いですか?」
「ああ。これは怪盗Xが盗る物を俺達が阻止する……という話じゃない。この怪盗Xを見つけろって事なんだよ」
「……?何か違うんですか?」
どうやら泉がまだピンときていないようなのでもう少し具体的に説明しよう。寺垣も分かっていないのか耳を傾けているが、南澤は少し顎を引き、考える仕草を行っている。
「盗むという行為はこの怪盗Xにとって自分の存在を示すのみ。だから、俺達がそもそも盗むのを阻止するというのが間違いなんだ。この挑戦状には怪盗Xが物を盗むことに関して何もヒントを送っても無いんだよ。だから、俺達が盗むのを阻止する事なんて出来ないんだよ。良く、もう一度見てくれ」
「……そう言うことなのね!分かったわよ!吉条がどうして怪人Xと思って読めって言ったのが」
俺が言うよりも先に南澤は見ていたようで分かったようだ。泉も寺垣も気になったのか南澤の元に駆け寄り、清水から戻ってきた紙を覗き込んでいた。
『噂を耳にしたお悩み相談部の皆さんへの挑戦状です。文化祭のある日に大事な物を盗み出して見せます。私を見つけることは出来るかをあなた方に送らせて頂きます。怪盗X』
もう一度よく見れば簡単に分かったのだが、怪盗Xは一度も盗み行為を阻止してみろとは言ってないのだ。自分を見つけ出してみろと言ったのだ。
だが、俺達は怪盗Xという名前に釣られて物を盗む行為を阻止しなければならないと解釈してしまったのだ。
予告状というのは、盗む行為を示すこと。そして、この紙にはそれは無い。予告状ではなく、挑戦状、それは似て非なるものだ。
「ああ!確かに広先輩に言われて見てみればそうですね!怪盗Xは盗む行為を阻止してみろ、とは言ってません。確かに探してみろって書いてあります!」
「……本当だ。どうして気付かなかったんだろう」
泉も寺垣もどうやら気付いたようで神妙に頷きながら理解したようだ。
「確かにそうなのかもしれないけれど、どうして分かったの?何か疑問に思ったのでしょう?」
清水が気になるのか、本を閉じてこちらを見据えている。
「ああ。俺が普通に見て少し疑問に思ったのが、この挑戦状に書かれている文化祭の《《ある日》》。この文字が気になって少し確認してみたら分かったんだ」
「……それの何が……もしかして」
清水が再度俺に確認を取ろうと思ったのだが、直ぐに気付いたのか顎に手を当て考える仕草を行っている。
「……もしかして、この紙に書かれているあるという言葉は連体詞の意味?」
「正解だ。それなら、辻褄が合うんだよ。それに、ここに怪盗Xの正体のヒントが隠されていた」
「どういうことなんですか?連体詞のあるって何なんですか?」
「……お前は本当にここの受験を受かったのか?わいろとか使ってないよな?」
「使ってませんよ!ていうか!広先輩だって調べてたじゃないですか!」
痛い所を突かれてしまった。
「お、俺はど忘れだ。分からなかったわけではない」
「私もど忘れです!」
「どう見ても分かってないじゃねえか……ハア、まあいいか。一応説明するが、ここで使われている『ある』は、連体詞の意味で物事が定まっていないこと、分かっていながらその事柄を伏せて使う場合にある」
俺がグーグル先生を使って調べて説明しているのだが、泉の表情は晴れていない。……こいつ絶対分かってないよな。
「……簡潔に言えば、文化祭のある日と書かれているが、文化祭の後が伏せられていたと思えばどうなる?」
「文化祭の後が略されているんですか?」
「そうなんだよ。文化祭と書かれているが、その後に『ある』と付けられ、その後の言葉が略されている。文化祭のある日とは、俺の今までの憶測があってるなら、文化祭《《実行委員》》を決めた日だ」
俺たちのクラスの担任である萩先生は毎回何かしらを決める時の事を後回しにする人だ。体育祭実行委員を決める時も会議が始まるギリギリの前日に決められ、その翌日には会議が行われていた。
今回もその形となっていたが、普通は俺達より一日早く、もしくはそれよりも前に皆決めている筈なんだ。
だが、これでも泉は未だ首を傾げている。こいつ本当にこの学校に受かったのだろうか。
「一つ聞くが、お前たちのクラスが実行委員を決めたのは俺のクラスが決めた前の日だよな?」
「……多分そうですね」
泉は思い出しているのか、頭を上げながら試案し曖昧に答える。
「多分そうだと思うぞ。まあ、分からないのであれば、もう文化祭実行委員を決めた日だと思ってくれ。そ怪盗Xは文実の委員が決められた日に文実で使われる紙を盗んでいる。あれは、宣戦布告ではなく、紙に書かれていることを実行しただけなんだよ」
「……要するに、怪盗Xは文化祭当日に物を盗むのではなくて、文化祭実行委員が決められた日に盗んでいるのであって、今私達が盗む行為を阻止しようとしているのは勘違いだったって事ですか?」
「そう言うことだな。まあ、全部俺の勘だがな。全部違って実は適当に作っただけで、盗む行為を阻止してみろってことだったってオチかもしれん」
あると言う言葉に少し疑問を感じ、もしも既に盗みは行われていて、それでは盗む行為を阻止するのは無理なんじゃないか?と思い、もう一度読み返してようやく気付いたのだ。
だが、実際は分からない。こればっかりは怪盗Xを見つけて聞かなければ分からない問題だ。
「多分それは無いのではと思う。吉条君の意見があっている筈よ」
「だと良いんだけどな」
一番最悪なのは俺の予想が外れ、ここまでを計算に入れた場合はどうする事も出来ない。
「……まあ、広先輩の意見が今の話を聞けば正しいと思いました。だけど、文実の委員を決めた日が広先輩の日の一日前というのは絞るのが難しすぎませんか?」
「まあ、その通りだな」
俺が確信をもって言えないのは、今の泉の言葉通りだ。自分でも理解出来ない程に怪盗Xの行動は奇妙だ。この紙を見る限りでは怪盗Xは一度で自分が見つからないように書いているとしか思えない。
……まるで、ここまでが全て順調と言わんばかりになっている気がする。
怪盗Xの心理は未だ理解出来ない。だけど、一つだけ分かるのはもしも自分を見つけてもらうことが怪盗Xの狙いならば、多分……
「……だけど、多分これからヒントがもらえる筈だ」
「え?」
泉が疑問を感じた声を上げるが、説明するより行動で示した方が速い。
一度背後を振り返り、部室の扉の方に歩いていき、そのドアを開ければ扉に挟まっていたのであろう一枚の紙がひらりと地面に落ちるのだった。
……やはりな。




